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消えた咲耶
⑤
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茂の勢いがあまりに強かったからだろう。
鈴宮さんのほうは一歩、引いた。
だがその茂の様子で、それが当たっていたことを知ったのだろう。
顔が歪んだ。彼女にはなんの関係もないのに、悲痛な顔になる。
「わからないわ……、咲耶ちゃんのことは赤ん坊の頃しか知らないから……、あの子が咲耶ちゃんだったかどうか確信はないの」
「でもそれらしき子がいたんですね!?」
茂はまた勢い良くなってしまったけれど、やっと掴めた、有力そうな情報だ。早く聞きたいと思う。
はやる気持ちを抑え、鈴宮さんの説明を聞く。
数十分くらい前。
鈴宮さんは一人で買い物に出ていた。
雨の中、高齢に差し掛かりつつある女性だ。ゆっくり歩いていたのだが、幼稚園児くらいの子供が、たっと駆けていくのを見たのだという。
幼い子が一人きり、おまけに傘もさしていなかったものだから、不審に思った。
そしてちらっと見えた横顔は、咲耶が成長していたらこんなふうになっているのではないか、と思えたと。
それで一応、連絡を取りたいと思ったのだが、マンションはもう封鎖されていた。
茂や杏子に連絡もできずに、でも気になって、あの子が戻ってきていないかともう一度、見に来てみた……。
茂はそれを聞いて、確信した。
それは十中八九、咲耶だろう。
覚えていたかもわからない、元住んでいた家。
やってきていたのだ。
でもマンションが封鎖されているのは子供にもわかっただろう。
それでがっかりして、またどこかへ行ってしまった……。
茂の心臓が違う意味で冷えていった。
傘もさしていなかったのだという。
夏の折とはいえ、雨が当たれば冷えるに決まっている。
そんな中で、幼稚園の子供が。
いや、落ち着け。
茂はまた自分に言い聞かせた。
まだこのあたりにいるかもしれない。
鈴宮さんの口ぶりでは、そう前のことではないようなのだから。
「ごめんなさいね、私が声をかけていれば……」
「いえ、そんなことはないです! お会いできて……お聞きできて良かったです。まだこのあたりにいるかもしれません。俺、ちょっとそのあたりを回ってきます!」
申し訳なさそうな鈴宮さんも、近所を見てくれると言って、茂は一方へ向かって走り出した。
このあたりにいるなら、知っている場所へ行っている可能性が高い。
ここに住んでいた頃、茂や杏子が連れて行った場所か……。
鈴宮さんのほうは一歩、引いた。
だがその茂の様子で、それが当たっていたことを知ったのだろう。
顔が歪んだ。彼女にはなんの関係もないのに、悲痛な顔になる。
「わからないわ……、咲耶ちゃんのことは赤ん坊の頃しか知らないから……、あの子が咲耶ちゃんだったかどうか確信はないの」
「でもそれらしき子がいたんですね!?」
茂はまた勢い良くなってしまったけれど、やっと掴めた、有力そうな情報だ。早く聞きたいと思う。
はやる気持ちを抑え、鈴宮さんの説明を聞く。
数十分くらい前。
鈴宮さんは一人で買い物に出ていた。
雨の中、高齢に差し掛かりつつある女性だ。ゆっくり歩いていたのだが、幼稚園児くらいの子供が、たっと駆けていくのを見たのだという。
幼い子が一人きり、おまけに傘もさしていなかったものだから、不審に思った。
そしてちらっと見えた横顔は、咲耶が成長していたらこんなふうになっているのではないか、と思えたと。
それで一応、連絡を取りたいと思ったのだが、マンションはもう封鎖されていた。
茂や杏子に連絡もできずに、でも気になって、あの子が戻ってきていないかともう一度、見に来てみた……。
茂はそれを聞いて、確信した。
それは十中八九、咲耶だろう。
覚えていたかもわからない、元住んでいた家。
やってきていたのだ。
でもマンションが封鎖されているのは子供にもわかっただろう。
それでがっかりして、またどこかへ行ってしまった……。
茂の心臓が違う意味で冷えていった。
傘もさしていなかったのだという。
夏の折とはいえ、雨が当たれば冷えるに決まっている。
そんな中で、幼稚園の子供が。
いや、落ち着け。
茂はまた自分に言い聞かせた。
まだこのあたりにいるかもしれない。
鈴宮さんの口ぶりでは、そう前のことではないようなのだから。
「ごめんなさいね、私が声をかけていれば……」
「いえ、そんなことはないです! お会いできて……お聞きできて良かったです。まだこのあたりにいるかもしれません。俺、ちょっとそのあたりを回ってきます!」
申し訳なさそうな鈴宮さんも、近所を見てくれると言って、茂は一方へ向かって走り出した。
このあたりにいるなら、知っている場所へ行っている可能性が高い。
ここに住んでいた頃、茂や杏子が連れて行った場所か……。
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