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消えた咲耶
④
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杏子に電話をかける。
内容は芳しくない報告になってしまったし、杏子はがっかりしたようであった。
だが、こうしていても仕方がない。
「じゃ……あなたのマンションに行ったって可能性は……」
杏子は次の可能性を話したけれど、それは考えにくかった。
「それこそ知らないだろう。住所すら知ってるもんか」
幼稚園児に住所など教えていないし、漢字だって満足に読めるものか。可能性はかなり低そうだ。
「でも少しでも可能性があるなら……」
杏子の言葉。
不覚にも茂は苛立ってしまった。
こんな、俺だけ雨の中、駆けずり回らせるのかよ。
そんなふうに思ってしまって。
頭ではわかっている。
今はこう動くのが効率的なのだ。
杏子はなにも間違ったことは言っていない。
茂はちょっと、頭を振った。
別に駆けずり回ったって構わないじゃないか、と自分に言い聞かせる。
咲耶が見つかるなら、そのくらいなんでもないじゃないか、と。
時間が経てば経つだけ、ことは厄介になるだろう。早く見つけなければならない。
「……そうだな。じゃ、マンションに戻るよ」
そう言って、茂は電話を切った。
ここではタクシーも捕まりにくい。駅に戻るのが一番次の行動がしやすくなる。
ああ、でも財布の中身の残りが心もとない。
ないとは思うが、タクシーでクレジットカードが使えなかったときの可能性を考えて、ATMにも寄らなければ……。
時間はどんどん無為に過ぎていくような気がして、足早にその場を離れようとしたのだけど。
「……桜庭さん?」
そこで声がかかった。聞き慣れない声だ。
でも呼ばれているのだ、振り返った。
そこにいた人物。数秒考えて、茂は思い当たった。
「鈴宮さん!?」
マンションのすぐ近くに住んでいたおばさんだ。
五十代くらいの優しいおばさんで、ここに住んでいたときは、ゴミ捨てで会うときなど、必ず挨拶したものだ。
「良かった……、連絡を取れたらと思ってたの」
鈴宮さんはよくわからないことを言った。
この状況で、ここに茂が住んでいたときの昔話であるはずがあるまい。
「娘さん……、咲耶ちゃんのこと……、もしかして、探してたりされるかしら」
咲耶の名前が出てきて、茂は仰天した。
まさかなにか、情報があるのだろうか。
思わず一歩、踏み出してしまったくらいだ。
「咲耶がここに来たんですか!?」
内容は芳しくない報告になってしまったし、杏子はがっかりしたようであった。
だが、こうしていても仕方がない。
「じゃ……あなたのマンションに行ったって可能性は……」
杏子は次の可能性を話したけれど、それは考えにくかった。
「それこそ知らないだろう。住所すら知ってるもんか」
幼稚園児に住所など教えていないし、漢字だって満足に読めるものか。可能性はかなり低そうだ。
「でも少しでも可能性があるなら……」
杏子の言葉。
不覚にも茂は苛立ってしまった。
こんな、俺だけ雨の中、駆けずり回らせるのかよ。
そんなふうに思ってしまって。
頭ではわかっている。
今はこう動くのが効率的なのだ。
杏子はなにも間違ったことは言っていない。
茂はちょっと、頭を振った。
別に駆けずり回ったって構わないじゃないか、と自分に言い聞かせる。
咲耶が見つかるなら、そのくらいなんでもないじゃないか、と。
時間が経てば経つだけ、ことは厄介になるだろう。早く見つけなければならない。
「……そうだな。じゃ、マンションに戻るよ」
そう言って、茂は電話を切った。
ここではタクシーも捕まりにくい。駅に戻るのが一番次の行動がしやすくなる。
ああ、でも財布の中身の残りが心もとない。
ないとは思うが、タクシーでクレジットカードが使えなかったときの可能性を考えて、ATMにも寄らなければ……。
時間はどんどん無為に過ぎていくような気がして、足早にその場を離れようとしたのだけど。
「……桜庭さん?」
そこで声がかかった。聞き慣れない声だ。
でも呼ばれているのだ、振り返った。
そこにいた人物。数秒考えて、茂は思い当たった。
「鈴宮さん!?」
マンションのすぐ近くに住んでいたおばさんだ。
五十代くらいの優しいおばさんで、ここに住んでいたときは、ゴミ捨てで会うときなど、必ず挨拶したものだ。
「良かった……、連絡を取れたらと思ってたの」
鈴宮さんはよくわからないことを言った。
この状況で、ここに茂が住んでいたときの昔話であるはずがあるまい。
「娘さん……、咲耶ちゃんのこと……、もしかして、探してたりされるかしら」
咲耶の名前が出てきて、茂は仰天した。
まさかなにか、情報があるのだろうか。
思わず一歩、踏み出してしまったくらいだ。
「咲耶がここに来たんですか!?」
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