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隠し事は呆気なく
①
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「はーい! みんな、静かにしてくださいねー! 今日はみんなのパパやお兄ちゃんが来てくれてますね」
幼稚園の入り口で参加手続きを済ませ、中に入る。
小さな教室の一室。
保育士の女性が、席に着いた園児たちに話をしている。
幼稚園という場所は慣れない。なにもかも小さく作られていて、どうもむずむずしてしまう。
「今日はせっかく来てもらってますから、パパやお兄ちゃんの似顔絵を描きましょう!」
内容は知らされていなかったけれど、どうもそういう計画だったらしい。
杏子のやつ、教えてくれてても良かったのに、と思っても、今更である。
茂は「ではパパ達はお子さんの席へ来てください」という保育士の先生の指示に従って、移動した。
「パパー!」
茂が近付いていくと、咲耶はぱぁっと顔を輝かせた。
懐かしさでいっぱいになってしまう。
大きくなったもんだ、と実感もした。
前に会ったのは四月だった。あれから二ヵ月近く経とうとしているのだ、子供の成長は早いもの。
「やぁ、咲耶。久しぶり」
茂は咲耶の近くに膝をつき、頭を撫でた。
短い二つ結びにした黒髪は茂譲り。
ふわふわとやわらかな髪をそっと撫でる。
「わたしね! 昨日、なかなか眠れなかったの! パパが来てくれるから!」
「そっか。ありがとな」
咲耶は茂に抱きつかんばかりであったが、まだこれから授業なのである。似顔絵とやらの。
あとでたくさん抱っこしてやらないとな、と思いつつ、茂は「お子さんの向かいに座ってくださいね」という指示に従って、場所を移動したのだけど。
「…………桜庭、さん……!?」
聞こえるはずのない声がした。
呼ばれるはずもない呼ばれ方でもあった。
茂はぎくっとしてしまう。
この声。
誰なのか。
どうしてここで聞こえるのかわからずとも、まずいことくらいはわかる。
「……空条くん?」
そこにいたのは菜月であった。
いつも通り、高校の制服を着て、女の子のそばに立っている。
もしや、あれは前に話を聞いた妹……。
ぼんやりとそんなことを思ってしまった。
幼稚園の入り口で参加手続きを済ませ、中に入る。
小さな教室の一室。
保育士の女性が、席に着いた園児たちに話をしている。
幼稚園という場所は慣れない。なにもかも小さく作られていて、どうもむずむずしてしまう。
「今日はせっかく来てもらってますから、パパやお兄ちゃんの似顔絵を描きましょう!」
内容は知らされていなかったけれど、どうもそういう計画だったらしい。
杏子のやつ、教えてくれてても良かったのに、と思っても、今更である。
茂は「ではパパ達はお子さんの席へ来てください」という保育士の先生の指示に従って、移動した。
「パパー!」
茂が近付いていくと、咲耶はぱぁっと顔を輝かせた。
懐かしさでいっぱいになってしまう。
大きくなったもんだ、と実感もした。
前に会ったのは四月だった。あれから二ヵ月近く経とうとしているのだ、子供の成長は早いもの。
「やぁ、咲耶。久しぶり」
茂は咲耶の近くに膝をつき、頭を撫でた。
短い二つ結びにした黒髪は茂譲り。
ふわふわとやわらかな髪をそっと撫でる。
「わたしね! 昨日、なかなか眠れなかったの! パパが来てくれるから!」
「そっか。ありがとな」
咲耶は茂に抱きつかんばかりであったが、まだこれから授業なのである。似顔絵とやらの。
あとでたくさん抱っこしてやらないとな、と思いつつ、茂は「お子さんの向かいに座ってくださいね」という指示に従って、場所を移動したのだけど。
「…………桜庭、さん……!?」
聞こえるはずのない声がした。
呼ばれるはずもない呼ばれ方でもあった。
茂はぎくっとしてしまう。
この声。
誰なのか。
どうしてここで聞こえるのかわからずとも、まずいことくらいはわかる。
「……空条くん?」
そこにいたのは菜月であった。
いつも通り、高校の制服を着て、女の子のそばに立っている。
もしや、あれは前に話を聞いた妹……。
ぼんやりとそんなことを思ってしまった。
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