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日曜日の父兄参観
②
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さて、日曜日。
前日に決めておいた服を身に着け、咲耶へのお土産と、一応形だけだが杏子にも手土産を用意して、茂は呼んでおいたタクシーに乗った。
都会暮らしなので車がなくても普段、不便は感じないが、あまり乗らない車に乗ったからか、思い出してしまった。
『咲耶が幼稚園に入る頃には、車、買いたいわね』
『送り迎えもあるし』
そんなふうに言っていた杏子。
まだ赤ん坊だった咲耶を抱きながら言う表情は、笑顔だった。
でも車は買うことがなかったし、茂が咲耶の入園に居合わせることもなかった。
今でこそ、こういった行事に呼んでもらうくらいにはなったが、当時は離婚が成立したばかりで、つまり杏子と一番険悪だった時期で、そのような時期に入園式など許してもらえるはずがなかった。
まだ、二年ほど前の出来事である。
タクシーを降りたのは杏子の家である。
小さなマンションの一室を借りて生活している、杏子と咲耶の住む家。
茂の住んでいるマンションより綺麗な建物だが、中は狭い。
自分の住まいと対極であるように感じてしまい、どうにも居心地の悪いところであった。
「……いらっしゃい」
インターホンを鳴らすと杏子がまずオートロックを開けてくれて、それから二階にある居室の玄関も開けて迎えてくれた。
言い方はぶっきらぼうであったけれど、それでももうとげは減ったほうなのである。茂も特別は気にしなかった。
「あと一時間後だから、三十分くらいしたら出ればいいかな」
家に入れてもらって、リビングのソファに座って、お茶を出してもらう。
ピンクのかわいいカバーがかけられたソファなんて、ここ以外ではまず座らないだろう。
「そうね。……なぁに、そのネクタイ。派手じゃない」
杏子は隣に座るはずがなく、向かいの床に座って、ちょっと顔をしかめた。
だが茂はそれにかえって安心してしまう。
杏子が文句をつけたのがネクタイであるということは、ほかに文句をつけるところがなかったということだ。むしろ合格だということだろう。
前日に決めておいた服を身に着け、咲耶へのお土産と、一応形だけだが杏子にも手土産を用意して、茂は呼んでおいたタクシーに乗った。
都会暮らしなので車がなくても普段、不便は感じないが、あまり乗らない車に乗ったからか、思い出してしまった。
『咲耶が幼稚園に入る頃には、車、買いたいわね』
『送り迎えもあるし』
そんなふうに言っていた杏子。
まだ赤ん坊だった咲耶を抱きながら言う表情は、笑顔だった。
でも車は買うことがなかったし、茂が咲耶の入園に居合わせることもなかった。
今でこそ、こういった行事に呼んでもらうくらいにはなったが、当時は離婚が成立したばかりで、つまり杏子と一番険悪だった時期で、そのような時期に入園式など許してもらえるはずがなかった。
まだ、二年ほど前の出来事である。
タクシーを降りたのは杏子の家である。
小さなマンションの一室を借りて生活している、杏子と咲耶の住む家。
茂の住んでいるマンションより綺麗な建物だが、中は狭い。
自分の住まいと対極であるように感じてしまい、どうにも居心地の悪いところであった。
「……いらっしゃい」
インターホンを鳴らすと杏子がまずオートロックを開けてくれて、それから二階にある居室の玄関も開けて迎えてくれた。
言い方はぶっきらぼうであったけれど、それでももうとげは減ったほうなのである。茂も特別は気にしなかった。
「あと一時間後だから、三十分くらいしたら出ればいいかな」
家に入れてもらって、リビングのソファに座って、お茶を出してもらう。
ピンクのかわいいカバーがかけられたソファなんて、ここ以外ではまず座らないだろう。
「そうね。……なぁに、そのネクタイ。派手じゃない」
杏子は隣に座るはずがなく、向かいの床に座って、ちょっと顔をしかめた。
だが茂はそれにかえって安心してしまう。
杏子が文句をつけたのがネクタイであるということは、ほかに文句をつけるところがなかったということだ。むしろ合格だということだろう。
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