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記念日は誰と②

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「そうですか……」
 舞李はそれだけ言って、黙ってしまう。
 私は不思議に思ってちょっとそちらを見た。駅前広場も通過して、そろそろ駅の入り口が目の前に迫っていた。
「も、もしお誘いされたらどうします?」
 駅の入り口。舞李が立ち止まった。
 私はそのまま駅に入りかけて……隣の舞李が立ち止まったので足をとめて振り返った。そんな謎の言葉を発した舞李はどこか張り詰めた顔をしていた。
「お誘い……?」
 この話の流れではデートのお誘いということだろう。
 私はしばし考えた。数秒のことではあったが。
 でもすぐに最適な答えを見つける。
「行ってみるのもいいかもしれないわね」
 にこっと笑った。顔の横でさらっと髪が揺れた。
 無難かもしれないけれど、まぁまぁ本心だ。デートくらいであればかまわない。お付き合いがどうこうとかは二の次だけど。
「そうですか。えっと……」
 もう一度、舞李は黙った。やはり常に似合わずもじもじとためらうような様子を見せて、でも多分、次に出てきた言葉は彼女の喉の奥にあった言葉ではなかっただろう。
「す、すみません! 忘れ物を思い出したので取ってきますね!」
 私が止める間もなかった。舞李はぱっときびすを返して駅とは逆方向、学校のほうへ駆けていってしまう。
 彼女が走り出して空気が揺れたことで、ふわりと。
 舞李の持つはちみつに似たような香りが漂って……私の感覚をくすぐってすぐに消えた。
 近い距離ではないというのに。私の横を通ったわけでもないのに。
 たったっといい音を立てて道路を蹴り、走り去っていく彼女を私はただ見送った。
 甘い香り。
 どんどん濃くなっていっている。
 それがどこからきているのか、正体はなんなのか、そして生まれている意味。私にはまだひとつもわからない。
 ただわかるのは、私にとってその香りは自分を生かしてくれる存在に酷似していて、それゆえに美味ともいえるようなたぐいであって……そばにあるのがとても心地いい。それだけだった。
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