トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!

文字の大きさ
上 下
38 / 125
白鳥の湖

2

しおりを挟む
 久しぶりの隊はすっかり正月の準備ができていた。警備室の真新しい土嚢で囲まれた機関銃陣地の隣には門松が立っている。

「射撃場に来いって……なにすんだ?」

かなめは駐車場に停められたカウラのハコスカから降りるとそう言いながら伸びをした。

すでに射撃場には人だかりが出来ていた。訓練をサボって首からアサルトライフルをぶら下げた技術部員が背伸びをしている。手持ち無沙汰の整備班員はつなぎの尻をかきながら背伸びをしてレンジの中央を覗こうと飛び跳ねる。

「やってるな」 

 かなめはにんまりと笑って足を速める。それを見かけたブリッジクルーの女性隊員が人だかりの中央に向かって声をかけたようだった。

 すぐに人垣が二つに割れて中央に立つ女性が誠達からも見えるようになった。

「あいつ……馬鹿だ」 

 立ち止まったかなめのつぶやき。こればかりは誠も同感だった。

 テンガロンハット、皮のジャンバー、色あせたジーンズ。そして腰には二挺拳銃を下げる為の派手な皮製のガンベルトが光っている。西部劇のヒロインと言うよりもアメリカの田舎町の祭りに引っ張り出された女性である。

「ふ!」 

 わざと帽子のつばを下げたかと思うとすばやく跳ね上げてサラは誠達を見つめる。隣ではそんなサラをうれしそうに写真に取っているパーラの姿も見える。

「パーラ……溜まってたのよね」 

 さすがにあまりにも満面の笑みのサラとそれを夢中で撮影するパーラの態度にはアメリアも複雑な表情にならざるを得なかった。

「風が冷たいねえ……そういえばダコタで馬車強盗とやりあったときもこんな風が吹いていたっけ……」 

 そう言うとサラは射撃場の椅子にひらりと舞うようにして腰掛ける。手にしているのはかなめの愛用の葉巻。タバコが吸えないサラらしく、当然火はついていないし煙も出ない。

「何がしたいんだ?お前は?」 

「お嬢さん?何かお困りで?」 

 そう言うとサラは胸に着けた保安官を示すバッジを誇らしげに見せ付ける。お嬢さん呼ばわりされたかなめはただ茫然とサラを見つめた。タンクトップにジーンズと言う明らかに常人なら寒そうな姿だが、それ以上にサラの雰囲気はおかしな具合だった。

「ああ、目の前におかしな格好の姉ちゃんがいるんで当惑しているな」 

「ふっ……おかしな格好?」 

「ああ、マカロニウェスタンに出てきそうなインチキ保安官スタイルの姉ちゃん」 

 そう言われてもサラはかなめから掠めたであろう火のついていない葉巻を咥えたままにんまりと笑って立ち上がるだけだった。

「そう言えばネバダで……」 

 たわごとをまた繰り返そうとするサラに飛び掛ったかなめがそのままサラの帽子を取り上げた。

「だめ!かなめちゃん!返してよ!」 

 サラがぴょんぴょん跳ねる。ようやく笑っていいという雰囲気になり、野次馬達も笑い始める。

「駄目よ!かなめちゃん!返してあげなさいよ」 

 上官と言うより保護者と言う雰囲気でアメリアはピシリとそう言った。ようやくその場の雰囲気が日常のものに帰っていくのに安心して誠達は射撃レンジに足を踏み入れた。

 射撃場の机。サラが飛び跳ねている後ろには、小火器担当の下士官が苦い表情で手にした弾の入った箱を積み上げている。

「たくさん集めましたねえ」 

 誠も感心する。そこには時代物を装うようなパッケージの弾の他、何種類もの弾の箱が並んでいた。技術部の銃器担当班の下士官がそれを一つ一つ取り出しては眺めている。

「まあな。結構この手の銃は人気があるから種類は出てるから。特に今、サラの銃に入っている弾は特別だぜ。おい!サラ。いい加減はじめろよ」 

 下士官の言葉に渋々かなめは帽子をサラに返した。笑顔に戻ったサラはリラックスしたように静かに人型のターゲットの前に立つ。距離は30メートル。サラは一度両手を肩の辺りに上げて静止する。

「抜き撃ちだな」 

 カウラは真剣な顔でサラを見つめていた。

 次の瞬間、すばやくサラの右手がガンベルトの銃に伸びた、引き抜かれた銃に左手が飛ぶ。そしてはじくようにハンマーが叩き落とされると同時に轟音が響き渡った。

「音がでけえなあ……それになんだ?この煙」 

 かなめがそう言うのももっともだった。誰もが弾の命中を確認する前にサラの銃から出るまるで秋刀魚でも焼いているような煙にばかり目が行った。風下に居た警備部員は驚いた表情で咳き込んでいる。

「これは?」 

 驚いているのはカウラも同じだった。ただ一人苦笑いの下士官にそう尋ねる。

「ブラックパウダーと言って、黒色火薬の炸薬入りの弾ですよ。時代的にはこれが正しいカウボーイシューティングのスタイルですから。このコルト・シングルアクション・アーミーの時代はまだ無煙火薬は発明されてないですからね。まあ俺も使ってみるのは初めてだったんですが……」 

 そう言う説明を受けて納得した誠だが、撃ったのはいいが煙を顔面にもろに浴びてむせているサラに同情の視線を送った。

「でもこれじゃあ……」 

「ああ、ちゃんと無煙火薬の弾もあるから。ブラックパウダーはそちらの一箱だけ。あとはちゃんと普通に撃てる奴ばかりだよ」 

 誠はようやく安心する。だが、弾丸はどれもむき出しの鉛が目立つ巨大な姿。警察組織扱いになっている司法局実働部隊だから使えると言うような鉛むき出しのホローポイント弾に苦笑いを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

はるたんぽ

こぐまじゅんこ
児童書・童話
はるたんぽ ってなんだと思う? はるたんぽ は湯たんぽみたいなんですが、お湯を入れなくてもいいんです。 はるたんぽは……。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

釣りガールレッドブルマ(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

今日の夜。学校で

倉木元貴
児童書・童話
主人公・如月大輔は、隣の席になった羽山愛のことが気になっていた。ある日、いつも1人で本を読んでいる彼女に、何の本を読んでいるのか尋ねると「人体の本」と言われる。そんな彼女に夏休みが始まる前日の学校で「体育館裏に来て」と言われ、向かうと、今度は「倉庫横に」と言われる。倉庫横に向かうと「今日の夜。学校で」と誘われ、大輔は親に嘘をついて約束通り夜に学校に向かう。 如月大輔と羽山愛の学校探検が今始まる

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

【完結】小さな大冒険

衿乃 光希(恋愛小説大賞参加しています)
絵本
動物の子供たちが、勇気を出して一歩を踏み出す、小さくても大きな冒険物語。主人公は毎回変わります。作者は絵を描けないので、あなたの中でお好きな絵を想像して読んでくださいね。漢字にルビは振っていません。絵本大賞にエントリーしています。

処理中です...