トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!

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キャラメルひとつぶ

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 足の速い莉瀬はさっさと駅までたどりつき、ICカードをタッチしてホームへ向かった。

 いつもより一本早い電車に乗れそうだ。

 それだけのことになんだか嬉しくなってしまう。

 早足で歩いてきたうえにもう夏も近い。

 少し暑く感じる。

 でも電車にはずいぶん前からクーラーが入っていた。

 暖房が終わればすぐに冷房なのだ、電車というものは。

 莉瀬のまわりでは「寒い」と評判の悪いクーラーだが、今はその空気を早く味わいたかった。

 電車が来るまであと三分ほどあることをホームの時計で確認して、莉瀬はレッスンバッグを探った。

 取り出したのは、茶色の箱。

 よく買うキャラメルの箱である。

 お菓子はもちろん、学校の校則違反。

 学校にレッスンバッグを持っていっている以上、見つかればしかられるし取り上げられてしまうだろう。

 でもレッスンの日はこっそりレッスンバッグにしのばせることにしていた。

 なんだか落ちつくのだ。甘いものがあると。

 以前はアメやらガムやらを入れていたこともあったのだけど、なんとなくキャラメルに落ちついてしまった。

 紙をむいてすぐに食べられるし、急ぎの用事が入ったらかんで飲みこんでしまえる。

 そのくらいに考えていつも入れているキャラメル。

 箱をスライドして開けて、ひとつぶ取り出す。

 ころんとした、丸みをおびた四角いキャラメル。

 ちょっとだけ目の前にかざして、莉瀬はにこっと笑った。

 そのまま紙をむいて口へ放りこむ。

 今日は口の中でゆっくりとかして。

 とろりととけていくキャラメルが、「今日もがんばってね」と言ってくれるような気がした。
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