人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

変わり者の正体

5

「気をつけて帰れよ」

　朝食を食べ終わって、帰ることになった。

　ふわふわの部屋着を脱いで私服に戻ったときは、ほっとした。

　やはりあれは俺にとって、だいぶ奇妙な服だった。

　規定の料金プラス、自宅派遣の料金が入った封筒を貰ったら俺の仕事はおしまいだ。

「はい。ご利用ありがとうございました」

　玄関で挨拶して、ぺこりとお辞儀をした。

「まぁまぁだったから、また指名するかもしれない。そのときは頼む」

　が、最後に言われたことにはどきっとした。

　リピートは有難い。

　ただこいつがかなりの変わり者であるのは今回で散々思い知ったから、満面の笑みで返事とはいかなかった。

「ありがとうございます。是非よろしくお願いします」

　愛想笑いと定型文しか言えなかった。

　それで玄関を出ようとしたのだけど、ドアを開けたとき、こちらに向かってくるひとが見えた。

　どうも秋木の家が目当てらしかった。

　バッグを抱えた中年の小太りの男。

「ああ、ちょうど良かった。秋月あきづき先生！」

　ほっとした様子でつかつかと近寄ってきて、俺を退かさんばかりの勢いで玄関から入って、秋木に声をかける。

　しかしその呼び方は少しおかしい。

　こいつは『秋木』のはずじゃ。

「うわ、もう来たんすか。早すぎますが」

「いいじゃないですか、三十分くらい！　修正が早く上がったんでね、それで……」

　俺が妙に思っていたのに、秋木は普通に返答している。

　俺にはまったくわからない内容の話がされたけれど、そのうち俺は心臓が飛び出しそうな思いを味わった。

「晴一せいいち先生宛のファンレターも持ってきましたよ！　なんと十二通も！」

　秋月……せいいち……？

　俺の心臓は飛び出しそうなどころではなかった。

　だって、秋月 晴一といえば。

「は？　え？　あの……直美なおみ賞作家の秋月 晴一!?」

　頓狂な声をあげてしまった。

　俺の混乱と、叫んだ名前に、秋木は顔をしかめる。

「それがなにか」

　なのに言うのはそれだ。

　いや、どういうこと？

　売りの男の子を呼びつけ、一夜抱き枕にしたこの超変わり者の男が、今をときめく流行作家だったなんて。