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無人島で恋はできない③
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昨日の出来事。
それだけではなく、大学時代に付き合うことになった経緯からずっとそこにあった事実。
なくすことはできないけれど、揺らされたときには立て直さなければいけないのだ。そしてそれも現実の恋には必要なこと。
「俺がそれを出さなかったのがいけないんだ。俺がユウを選んだのと同じように、ユウも俺を選んでくれたんだから。揺らされた気持ちを溜め込んだらああなっちまうし、今までだってあったのに。だからごめん」
ぎゅっとくちびるを引き結ぶのが見えて、そこから出てきた言葉。
確かに昨日のこと、少なくとも閉店後にあったことに関しては弘樹に非があるだろう。
確かめるための手段。色々あったはずだ。ここまで煮詰まってしまうまでに。
「見守ってくれるひとも、助けてくれるひともいるっていうのに。もう少し頼ることにする。それからユウの持ってくれてる気持ちにも」
游太の頬が撫でられる。そこから伝えたいというように。
無人島では無いもの。
周りにいるひとたち。
けれどそのひとたちは全員が全員『選ばれなかった存在』ではない。
むしろ選ばれる対象になる存在のほうがはるかに少ないのだ。
だから孤独になる必要はない。無人島でぽつんと膝を抱えているように、一人で考えて悩まなくていいのだし、むしろそれは。
「だからユウも『表に出さないように』するばっかじゃなくていいんだ」
游太も同じであったこと。大人として外に出さないようにしてる、とは言ったけれど、そういうものが良いばかりとは限らない。
游太はちょっと目を閉じた。撫でられる手のあたたかさを確かめるように。
二人きりでは得られないこともある。
そして伝えなければわからないこともある。
あたたかさを信じているだけではいけないのだ。
揺らいだ気持ち、不安を吐き出すこと。言葉にすること。
現実の恋。本の中ではなくここにあるもの。
「無人島なら良かったのに、とかは思うよ。ヒロの例え話で言うとさ」
游太は口を開いた。今度は自分の気持ちを言葉にする番だ。
「でも無人島だったらヒロと会えた可能性は少ないんだよな。とっても少ないんだよな」
「そうだと思うな。誰をチョイスして無人島に閉じ込めるかなんてのは、神のみぞ知る、だから」
弘樹も肯定してくれた。
「だったら大勢の中で選ばれた幸せを大事に思いたいよ」
手を持ち上げて、弘樹の手に手を重ねる。
手の大きさはあまり変わらない。強いて言えば弘樹の手のほうが少しごつごつしているくらい。あたたかさは同じだけど。
「それに無人島じゃカフェはできないし。コーヒーも淹れられやしないし。俺はヒロといられるここが好きだよ。だから居るのが現代日本の東京で良かった」
辿り着いたところはこの答え。
選んだ、と弘樹は言った。
でも選んだのは弘樹だけではない。
游太も同じなのだ。
大勢の中から、一生を共にするのを弘樹であってほしいと望んだ。
気持ちなんてまるで同じではないし、こうしてそれが食い違うこともあるけれど。
立て直せるものなのだ。選んだものを大切にしたいという気持ちだけは、同じだから。
「でも昨日のことは別だ。償ってもらうからな」
じとっと、今ばかりは不満たっぷりの眼で言った游太に弘樹はちょっと身を引く。話は終わって、つまり仲直りといえるものもできたのだから、ここからは通常営業。
「う、……ああ、わかった」
その様子がおかしくて、ふ、と游太は笑ってしまった。
別に大したものがほしいわけじゃない。むしろ些細なものかもしれない。
欲しいのは、自分たちならではのもの。
ここに存在してほしいもの。
コーヒーの香りと美味しいものの香り。
揺らいだ気持ちを、二人ならではの方法で生み出せる幸せな香りで直したい。
「フレンチトースト作って。牛乳と卵たっぷりで、蜂蜜かけたやつ」
游太の言葉に弘樹は、きょとんとした。游太の要求があまりに普通だったからだろう。単に朝食のメニューの希望を言っただけなのだから。
「お腹空いたし。無人島では食べられないもの、食べよう」
この世界と二人の居場所であるからこそ手に入れられるもの。
今朝はきっと特別な朝ご飯になる。
「俺がとびきり美味いコーヒー、淹れるからさ」
それだけではなく、大学時代に付き合うことになった経緯からずっとそこにあった事実。
なくすことはできないけれど、揺らされたときには立て直さなければいけないのだ。そしてそれも現実の恋には必要なこと。
「俺がそれを出さなかったのがいけないんだ。俺がユウを選んだのと同じように、ユウも俺を選んでくれたんだから。揺らされた気持ちを溜め込んだらああなっちまうし、今までだってあったのに。だからごめん」
ぎゅっとくちびるを引き結ぶのが見えて、そこから出てきた言葉。
確かに昨日のこと、少なくとも閉店後にあったことに関しては弘樹に非があるだろう。
確かめるための手段。色々あったはずだ。ここまで煮詰まってしまうまでに。
「見守ってくれるひとも、助けてくれるひともいるっていうのに。もう少し頼ることにする。それからユウの持ってくれてる気持ちにも」
游太の頬が撫でられる。そこから伝えたいというように。
無人島では無いもの。
周りにいるひとたち。
けれどそのひとたちは全員が全員『選ばれなかった存在』ではない。
むしろ選ばれる対象になる存在のほうがはるかに少ないのだ。
だから孤独になる必要はない。無人島でぽつんと膝を抱えているように、一人で考えて悩まなくていいのだし、むしろそれは。
「だからユウも『表に出さないように』するばっかじゃなくていいんだ」
游太も同じであったこと。大人として外に出さないようにしてる、とは言ったけれど、そういうものが良いばかりとは限らない。
游太はちょっと目を閉じた。撫でられる手のあたたかさを確かめるように。
二人きりでは得られないこともある。
そして伝えなければわからないこともある。
あたたかさを信じているだけではいけないのだ。
揺らいだ気持ち、不安を吐き出すこと。言葉にすること。
現実の恋。本の中ではなくここにあるもの。
「無人島なら良かったのに、とかは思うよ。ヒロの例え話で言うとさ」
游太は口を開いた。今度は自分の気持ちを言葉にする番だ。
「でも無人島だったらヒロと会えた可能性は少ないんだよな。とっても少ないんだよな」
「そうだと思うな。誰をチョイスして無人島に閉じ込めるかなんてのは、神のみぞ知る、だから」
弘樹も肯定してくれた。
「だったら大勢の中で選ばれた幸せを大事に思いたいよ」
手を持ち上げて、弘樹の手に手を重ねる。
手の大きさはあまり変わらない。強いて言えば弘樹の手のほうが少しごつごつしているくらい。あたたかさは同じだけど。
「それに無人島じゃカフェはできないし。コーヒーも淹れられやしないし。俺はヒロといられるここが好きだよ。だから居るのが現代日本の東京で良かった」
辿り着いたところはこの答え。
選んだ、と弘樹は言った。
でも選んだのは弘樹だけではない。
游太も同じなのだ。
大勢の中から、一生を共にするのを弘樹であってほしいと望んだ。
気持ちなんてまるで同じではないし、こうしてそれが食い違うこともあるけれど。
立て直せるものなのだ。選んだものを大切にしたいという気持ちだけは、同じだから。
「でも昨日のことは別だ。償ってもらうからな」
じとっと、今ばかりは不満たっぷりの眼で言った游太に弘樹はちょっと身を引く。話は終わって、つまり仲直りといえるものもできたのだから、ここからは通常営業。
「う、……ああ、わかった」
その様子がおかしくて、ふ、と游太は笑ってしまった。
別に大したものがほしいわけじゃない。むしろ些細なものかもしれない。
欲しいのは、自分たちならではのもの。
ここに存在してほしいもの。
コーヒーの香りと美味しいものの香り。
揺らいだ気持ちを、二人ならではの方法で生み出せる幸せな香りで直したい。
「フレンチトースト作って。牛乳と卵たっぷりで、蜂蜜かけたやつ」
游太の言葉に弘樹は、きょとんとした。游太の要求があまりに普通だったからだろう。単に朝食のメニューの希望を言っただけなのだから。
「お腹空いたし。無人島では食べられないもの、食べよう」
この世界と二人の居場所であるからこそ手に入れられるもの。
今朝はきっと特別な朝ご飯になる。
「俺がとびきり美味いコーヒー、淹れるからさ」
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