16 / 39
帰りの車内で
しおりを挟む
「うー……」
結果的に游太は見事に潰れた。テーブルに突っ伏して、意識がふわふわするのを感じていた。
ふわふわはしていたけれど、気持ち良くはなかった。良い酔い方ではない。肉体的に気分が悪い、つまり吐き気などがあるわけではないが心の中が悶々として気持ちが悪いのだ。アルコールが悪いほうへ作用しているのは明白だった。
「あー、もう飲みすぎ」
ゆさゆさと弘樹が肩を揺すってくるのを感じる。呆れた声も。
誰のせいだと思ってんだよ。
不明瞭な意識の中で游太は不満を呟いた。
「ユウ、潰れちまったし帰るわ」
弘樹が言うのが聞こえる。
ああ、こうして当たり前のように『一緒に帰る』と言ってくれるんだ。そのくらい傍にいられるんだ。
当たり前のはずであることを噛みしめる。そうでなければ不安で仕方がない。
「まだ近所に住んでんだっけ」
誰かが弘樹に尋ねるのが聞こえた。
一緒に暮らしているとは言っていない。
だって不自然だろう、カフェのある建物の二階で一緒に暮らしていますなんて。友人同士でしないだろう、そんなこと。
「ん。なんせ職場が同じだからな」
弘樹はそういうことにしてある設定をさらっと答えて、「ほら、立って」と游太を起こしてくれた。その腕があたたかいことをまた確認して、少しだけ安堵する。
ヒロは俺のものだ。あんな女のものじゃなくて。
自分に言い聞かせて、今日見てしまったものの気持ち悪さから上塗りしようとする。
半ば担がれるように店を出て、「じゃーなー」と、みんなが言い合うのに「またなぁ……」なんてへろへろの声であったが、一応顔を起こして挨拶はした。春香のことだけは意識して視界に入れなかったけれど。
解散してもう帰るだけにはなったが、ここから駅に行って電車に乗るのかと思うと億劫であった。よって「タクシーがいい」と言おうとしたのだけど、その前に「お、あれかな」と弘樹が言った。
ぼんやり顔を上げると、まさにこちらへ向かってタクシーが走ってくるところで。弘樹の言葉からして、どうやら既に呼んでくれていたらしい。デキる彼氏……というか、もうパートナー。
游太の顔が、ふにゃっとゆるむ。大切にしてもらっていることを感じさせられて。
「相沢です。……さ、乗って」
停まって開いたドアの奥に名前を告げて、游太を押し込んできた。
されるがままにタクシーの後部座席に座って、ほっと力を抜いた。タクシーの中は芳香剤臭いということも、煙草臭いということもなく、まぁまぁ快適であった。最近のタクシーはほとんどが禁煙なので当たり前かもしれないが。
弘樹が行き先を告げて、すぐにタクシーは出発した。少し揺れるが気になるほどではない。
やっと二人きりに戻れた。安心した游太は隣に座った弘樹に肩を預ける。弘樹がこちらを見るのを感じた。
けれどなにも言わなかった。車の中であるし、運転手だってもう会うこともない人間。ミラーで多少見えていたとしてもかまわないだろう。
暗い中で游太は手を探った。半分眠っていたので無意識の動きだったけれど、弘樹はその様子を感じたか見たかで知ってくれたらしい。
探っていた游太の手が捕まえられる。きゅっと握られた。
そこから伝わる確かな存在感。外はつめたいけれど、飲んだためか手はほんのりあたたかかった。
両方から安堵して、游太は力を抜いた。今度こそ眠りに落ちる。手をしっかり握り返して。
今は真冬。初めて手を触れ合わせたあのときと違って、まったく汗ばんでなどいない。
そしてなにより、今は握られたままで眠ったふりをしなくてもいいのだ。
結果的に游太は見事に潰れた。テーブルに突っ伏して、意識がふわふわするのを感じていた。
ふわふわはしていたけれど、気持ち良くはなかった。良い酔い方ではない。肉体的に気分が悪い、つまり吐き気などがあるわけではないが心の中が悶々として気持ちが悪いのだ。アルコールが悪いほうへ作用しているのは明白だった。
「あー、もう飲みすぎ」
ゆさゆさと弘樹が肩を揺すってくるのを感じる。呆れた声も。
誰のせいだと思ってんだよ。
不明瞭な意識の中で游太は不満を呟いた。
「ユウ、潰れちまったし帰るわ」
弘樹が言うのが聞こえる。
ああ、こうして当たり前のように『一緒に帰る』と言ってくれるんだ。そのくらい傍にいられるんだ。
当たり前のはずであることを噛みしめる。そうでなければ不安で仕方がない。
「まだ近所に住んでんだっけ」
誰かが弘樹に尋ねるのが聞こえた。
一緒に暮らしているとは言っていない。
だって不自然だろう、カフェのある建物の二階で一緒に暮らしていますなんて。友人同士でしないだろう、そんなこと。
「ん。なんせ職場が同じだからな」
弘樹はそういうことにしてある設定をさらっと答えて、「ほら、立って」と游太を起こしてくれた。その腕があたたかいことをまた確認して、少しだけ安堵する。
ヒロは俺のものだ。あんな女のものじゃなくて。
自分に言い聞かせて、今日見てしまったものの気持ち悪さから上塗りしようとする。
半ば担がれるように店を出て、「じゃーなー」と、みんなが言い合うのに「またなぁ……」なんてへろへろの声であったが、一応顔を起こして挨拶はした。春香のことだけは意識して視界に入れなかったけれど。
解散してもう帰るだけにはなったが、ここから駅に行って電車に乗るのかと思うと億劫であった。よって「タクシーがいい」と言おうとしたのだけど、その前に「お、あれかな」と弘樹が言った。
ぼんやり顔を上げると、まさにこちらへ向かってタクシーが走ってくるところで。弘樹の言葉からして、どうやら既に呼んでくれていたらしい。デキる彼氏……というか、もうパートナー。
游太の顔が、ふにゃっとゆるむ。大切にしてもらっていることを感じさせられて。
「相沢です。……さ、乗って」
停まって開いたドアの奥に名前を告げて、游太を押し込んできた。
されるがままにタクシーの後部座席に座って、ほっと力を抜いた。タクシーの中は芳香剤臭いということも、煙草臭いということもなく、まぁまぁ快適であった。最近のタクシーはほとんどが禁煙なので当たり前かもしれないが。
弘樹が行き先を告げて、すぐにタクシーは出発した。少し揺れるが気になるほどではない。
やっと二人きりに戻れた。安心した游太は隣に座った弘樹に肩を預ける。弘樹がこちらを見るのを感じた。
けれどなにも言わなかった。車の中であるし、運転手だってもう会うこともない人間。ミラーで多少見えていたとしてもかまわないだろう。
暗い中で游太は手を探った。半分眠っていたので無意識の動きだったけれど、弘樹はその様子を感じたか見たかで知ってくれたらしい。
探っていた游太の手が捕まえられる。きゅっと握られた。
そこから伝わる確かな存在感。外はつめたいけれど、飲んだためか手はほんのりあたたかかった。
両方から安堵して、游太は力を抜いた。今度こそ眠りに落ちる。手をしっかり握り返して。
今は真冬。初めて手を触れ合わせたあのときと違って、まったく汗ばんでなどいない。
そしてなにより、今は握られたままで眠ったふりをしなくてもいいのだ。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
「誕生日前日に世界が始まる」
悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です)
凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^
ほっこり読んでいただけたら♡
幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡
→書きたくなって番外編に少し続けました。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる