上 下
109 / 125

年明けは波乱と共に①

しおりを挟む
 年末年始は流石に実家に帰ろうと思ったのだが、父親に「少し事情があるから待ってくれ」と言われてしまった。
 なにか年末年始の用事があるのだろうと金香は思い、はい、とそのまま受け入れた。
 元々父親は年末忙しいのだ。年越しの準備は必要なものが色々とある。そのためにかき入れどきというわけ。きっと今年もそれだろう。単純にそう思った。
 よって屋敷で年越しを迎える。
 屋敷のひとたち、主に門下生は実家に帰ることが多かった。
 というか金香以外は皆、帰省してしまった。
 まぁ当然だろう。門下生はまだ年若い者が多い。一番年上の門下生でも二十代の半ばにも届かないのだ。親御さんが実家に呼び戻して年末年始を迎えたいというわけ。
 年末は大掃除をし、大晦日は屋敷のひとたちと年越し蕎麦を食べ、そのあと麓乎と初詣に行った。
 「夜に行くのも風情があるものだよ」と誘われて。
 深夜に出歩くことなど初めてだった。年若い女子としては当然のことであるが。
 しかし麓乎が一緒であれば心配することなどないだろう。よって連れ立って神社へ行き、お参りをした。
 参拝後には、境内の大鍋で煮られていた甘酒をいただいた。それは真冬の冷えた体を内側から温めてくれる。
 両手で湯呑みを包んで、ほう、と息をついた金香を見る麓乎の眼は、いつも通り優しかった。甘酒よりも温かいくらいに。
 帰る前におみくじを引いたのだが、金香の引いたものは『吉』であった。
 麓乎は「幸先がいいね。年明けから良い運ではじまるし、大吉と違ってここから上がる余地もある」と言ってくれた。
 ちなみに麓乎は『小吉』で、「少しだけ良いことが起こるということかな」と言ったが、それでも嬉しそうだった。
 参拝もその他もすべて終えて帰るときにはやはりしっかりと手を取ってくれた。
 このひとがいてくださるだけで、運勢なんてすでに『大吉』だわ、と金香は思ったものだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...