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月の綺麗な夜のこと②
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そのほかにも寺子屋に新しい生徒が増えたり、煎田さんの息子さんが高等学校に合格したり。良いことはたくさん起こっていた。
おかげで今夜の月も綺麗に見えるのかもしれないと思った。
本日の課題も早く終わったので、明日のために早寝をしようかしら、と思ったのだが、ふと障子の外が明るいことに気付いた。月が大きくなっていっているので、月の光も明るくなっているのだ。
今夜は夏の夜にしては涼しいし、少しお月見でもするのも良いかもしれない。
そう思って、自室近くの縁側に出てきて一人でお月見をしていた次第。
月にはうさぎが住んでいるという童話がある。
うさぎが餅をついているとか、あるいは蟹だとか女性の顔だとか。月はそのように見える影がある。
私はうさぎだと思うけれど、と金香は少しずつ夜空の上へのぼっていく月を見ながら思った。
浪漫があるではないか、遠い月にうさぎがいて餅をついて祭の準備をしているなど。
うさぎの祭。
今度、そのような童話的な話を書いてみても楽しいかも。
小説書きの卵として構想に至ってしまい、頭の中で色々と考えはじめてしまったのだけど。
そこへ縁側の床を踏む音がした。
あら、誰か来たのかしら。
なんの気なしにそちらを見て金香はどきりとしてしまう。こちらへ歩いてくるのは源清先生であったので。寛ぐときの浴衣姿である。
「こんばんは。良い月だね」
「あ、こ、こんばんは! はい、綺麗なのでお月見を」
慌てて立ち上がろうとした金香であったが先生はそれを制し、あまつさえ「お邪魔してもいいかな」と隣に腰を落ち着けてしまった。
金香は軽いパニックに陥ってしまう。
なんだろう、この状況は。
一人でお月見をしていたはずだったのに師(せんせい)……ではなく、想い人がお隣に来てしまおうなど。誰が予想しただろう。
もう月どころではなかった。隣の源清先生の存在のほうが大きすぎて。
いつもどおり、香の良い香りがする。毎日感じているはずなのに、近すぎてくらくらと酔わされてしまいそうだった。
それだけではない。しっかりと存在感が伝わってくるのだ。
体温……ではないだろうが、どこかほのあたたかいような空気がある。
「月は好きかい」
問われてどきりとしてしまったが、金香はなんとか返事をした。
「はい。月にうさぎさんがいるという話を考えていたところでした」
「おや、童話だね。それをもとにして新しい話を作るのは楽しそうだ」
会話はごく普通であった。まったくいつも通り小説の話。
金香はほっとしてちらりと先生のほうを見やった。
しかしそのことでまったく『いつもどおり』などではなかったことを思い知ってしまう。
先生が見ていたのは月ではなくこちら、金香のほうであり、そしてそのためにしっかり視線が合ってしまったのだから。
このような至近距離で視線が合うのは久しぶりだった。茶の瞳はやっぱりあたたかい色を帯びていて優しげだったのだけど今となっては金香の胸を騒がせる原因にしかならない。
優し気な中にもしっかり力を帯びた視線に見つめられて息が止まってしまいそうだ。
実際、数秒止まっていたのかもしれない。
おかげで今夜の月も綺麗に見えるのかもしれないと思った。
本日の課題も早く終わったので、明日のために早寝をしようかしら、と思ったのだが、ふと障子の外が明るいことに気付いた。月が大きくなっていっているので、月の光も明るくなっているのだ。
今夜は夏の夜にしては涼しいし、少しお月見でもするのも良いかもしれない。
そう思って、自室近くの縁側に出てきて一人でお月見をしていた次第。
月にはうさぎが住んでいるという童話がある。
うさぎが餅をついているとか、あるいは蟹だとか女性の顔だとか。月はそのように見える影がある。
私はうさぎだと思うけれど、と金香は少しずつ夜空の上へのぼっていく月を見ながら思った。
浪漫があるではないか、遠い月にうさぎがいて餅をついて祭の準備をしているなど。
うさぎの祭。
今度、そのような童話的な話を書いてみても楽しいかも。
小説書きの卵として構想に至ってしまい、頭の中で色々と考えはじめてしまったのだけど。
そこへ縁側の床を踏む音がした。
あら、誰か来たのかしら。
なんの気なしにそちらを見て金香はどきりとしてしまう。こちらへ歩いてくるのは源清先生であったので。寛ぐときの浴衣姿である。
「こんばんは。良い月だね」
「あ、こ、こんばんは! はい、綺麗なのでお月見を」
慌てて立ち上がろうとした金香であったが先生はそれを制し、あまつさえ「お邪魔してもいいかな」と隣に腰を落ち着けてしまった。
金香は軽いパニックに陥ってしまう。
なんだろう、この状況は。
一人でお月見をしていたはずだったのに師(せんせい)……ではなく、想い人がお隣に来てしまおうなど。誰が予想しただろう。
もう月どころではなかった。隣の源清先生の存在のほうが大きすぎて。
いつもどおり、香の良い香りがする。毎日感じているはずなのに、近すぎてくらくらと酔わされてしまいそうだった。
それだけではない。しっかりと存在感が伝わってくるのだ。
体温……ではないだろうが、どこかほのあたたかいような空気がある。
「月は好きかい」
問われてどきりとしてしまったが、金香はなんとか返事をした。
「はい。月にうさぎさんがいるという話を考えていたところでした」
「おや、童話だね。それをもとにして新しい話を作るのは楽しそうだ」
会話はごく普通であった。まったくいつも通り小説の話。
金香はほっとしてちらりと先生のほうを見やった。
しかしそのことでまったく『いつもどおり』などではなかったことを思い知ってしまう。
先生が見ていたのは月ではなくこちら、金香のほうであり、そしてそのためにしっかり視線が合ってしまったのだから。
このような至近距離で視線が合うのは久しぶりだった。茶の瞳はやっぱりあたたかい色を帯びていて優しげだったのだけど今となっては金香の胸を騒がせる原因にしかならない。
優し気な中にもしっかり力を帯びた視線に見つめられて息が止まってしまいそうだ。
実際、数秒止まっていたのかもしれない。
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