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先生のご自宅へ③

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「は、はい。……その……」
 なんと説明したものか。
 小説家の先生のご自宅を訪ねてきたと言って良いものか。
 躊躇った金香を見ていた男性だがふと、なにごとかに気付いたという顔になった。
「ひょっとして、ろく……あ、いや、源清を訪ねてきた方ですか」
 金香は驚いてしまう。
 唐突に源清先生の名を出されたので。
 もしかして知人なのだろうか。
 しかしもしそうであれば救いの手にほかならなかった。金香はおずおずと頷く。
「は、はい……小説家の、源清先生のお宅を……」
 男性は金香の返事で納得したようだ。小さく頷いた。口調も砕ける。
「ああ、少しわかりづらいところにあるんだよ。裏道もいいところだからね」
 お知り合いですか、と尋ねるつもりだった。
 が、金香の喉からその言葉は出なかった。
 よく知らぬ男性を前にするとこのようになってしまうのである。
「客人に若い娘さんが訪ねてこられるのだと聞いているよ。桃の髪をした美しい人だと」
 言われて金香はどきりとしてしまう。
 桃の髪は実際にそのような色をしている髪なので言われて当然だろう。
 が、『美しい人』。それは源清先生のご評価なのだ。
 胸がかっと熱くなってばくばくと心臓が速くなる。
 金香の様子を見て男性は小首をかしげた。
「僕は源清と共に暮らしている高井(たかい)という者だ。ちょうど帰るところだったのだ。一緒に行こう」
 知らぬ男性と共に歩くことには少々臆したのであるが、その言葉は救いだった。
 まさか源清先生のご知人にお会いできるとは。渡りに船であった。
「は、はい! 有難うございます!」
 やっとはっきりとした声が出た。男性、高井はそんな金香に目を細めてくれた。
「いや、おやすい御用だよ。ついでだから」
 ああ、なんだ。怖い人ではないのだ。
 その笑みは金香を安心させてくれた。
 それでも近くは歩けなかったので、少し間を開けて、彼……高井に金香はついていったのであった。
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