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眠り王子の目覚め④

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「俺が昼休みに眠っちまうの。『眠り王子』なんて呼ばれてるだろう」
「え、はい。そうですね」
 肯定したつむぎだったが、思い当たった。
 眠り王子。きっとその名前の元になったものがある。
 『眠り姫』というお姫様が出てくる昔話があるではないか。正式な名前は『眠りの森の美女』だったか。
 呪いにかけられた眠り姫は、塔の一番奥で眠っている。
 そこへ王子様がやってきて、その呪いを解いてくれるのだ。
 いばら先輩は、その眠り姫と同じ状況になっているということなのだろうか。
「お前に初めて会ったとき、間違えたって言っただろう」
「はい」
 いばら先輩がゆっくり話をはじめた。その、初めて会ったときのことを思い返すとだいぶ気まずい。恥ずかしいし。
 なにしろ眠っていたいばら先輩を起こしたら、キスなどされてしまったのだ。『間違えた』と言って。あのときつむぎは「彼女かなにかと間違えたのだろう」と思って、間違えた相手が誰というのはあまり気にしなかったのだけど。
 今さらながら思えば、いばら先輩は彼女などいなかったのだ。それなら間違えたというのはいったい……。
「あれ、間違えてなかったんだ。だって、来てくれたのもお前だったんだからな」
 つむぎはきょとんとしてしまう。
 昔?
 いばら先輩を起こした……?
 思い当たるふしがない、と言おうとしたけれど。
 そのとき、はっとした。
 塔の階段をのぼる夢。昔から何回か見ていた夢だ。
 ただの夢であった。子供の頃としては楽しい夢だった。
 お城のような場所を歩けるのも楽しかったし、小さな灯りの灯る階段をのぼるのもわくわくした。
 だからつむぎの中では、怖いどころか楽しく、また夢を見るのも楽しみにも感じていたのだけど、まさか、あれだろうか。
「でもお前に夢の中ではちゃんと会えなかったから。だから眠ったままだったんだよな。それでここまで来ちまって」
 いばら先輩はそれを裏付けるようなことを言っていく。つむぎは目を丸くしながら聞くしかなかった。
 だってその通りなのだ。
 つむぎは塔をのぼる夢は見たけれど、その先で誰かに会ったことはなかったのだ。
 ああ、でも、一番最近、のぼる夢を見たとき。
 そのときは少しだけ見えた。
 塔の奥の小さな部屋。そこで眠っているひとの姿を、少しだけ。
「だから最初に屋上で声をかけられたとき思ったんだ。ああ、やっと会えたのか、ってな」
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