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先輩の気持ちは……④
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そのうえ、違うことにも思い当たった。
さっきあの男子生徒たちに腕を掴まれたとき感じたのは嫌悪感だったのに。
そんなものは今、ない。
それどころか安心がある。どきどきしているのに、確かにほっとする気持ちも同時にあるのだ。不思議だけれど、つむぎは「そういうものだ」と思った。
だって、触れてくれているのはいばら先輩なのだから。怖いと思うわけがないではないか。
「こっち、来い」
いばら先輩がつむぎの体をちょっと離して、手を掴まえて引いた。今度、つむぎに嫌がる理由なんてない。だって、今触れてくれているのはいばら先輩なのだから。
そのままつむぎは近くにあった、柱の陰に引っ張りこまれた。あたふたしていたけれど、そんなつむぎは捕まえられてしまう。今度は背中からではなく、前からぎゅっと強く。
抱きしめられてしまった。つむぎは理解が追い付かずに、一瞬ぼうっとしてしまう。
「大丈夫か、つむぎ」
いばら先輩の声が上から降ってくる。その声を発するために胸が動くのも伝わってきてしまって、今さらながら、かぁっと顔が熱くなった。
「だ、大丈夫です……すみません」
つむぎはやっと言ったのだけど、それは一蹴されてしまった。
「つむぎは悪くないだろう。ああ、でも目ぇ離さなきゃ良かった……気づいたらいなくて、おつかいにやられたなんて聞いて」
いばら先輩は言いきってくれたけれど、つむぎはそれで反省した。
頼んできたのは別の先輩だったのだ。いばら先輩にひとこと言ってから出てくるべきだったのだ。そのせいで探させてしまった。おまけにこんなことに巻き込まれてしまって。
つむぎはもう一度「すみません」と言おうと思ったのだけど、その言葉は吹っ飛んだ。
「こんなにかわいいんだから、声なんてかけられてもおかしくねぇのに」
ぎゅっと抱き寄せられて、言われたこと。つむぎは今度、心臓が飛び出すかと思ったくらいだ。
だっていばら先輩の声は張りつめていて、本当に心からそう思っているという気持ちが溢れていて。つむぎはおどろいてしまう。
かわいいと言ってくれた、それにこの言い方ではきっと。
……自分を取られたら嫌だと、思ってくれた。
どくん、どくんと心臓が高鳴る。
『よそにとられたら困る』と言われたのは、カフェで、お客さんの三年生男子に言っていたときと同じなのに。抱きしめられているからか、もっとはっきり伝わってくるのだ。
いばら先輩の抱いてくれている気持ちが。
いばら先輩は、多分、自分のことを好きでいてくれるのだ。
つむぎはぼんやりと思った。
それは実感だった。
もう、『いい感情を持っていてくれている』どころではなかった。それ以上のことだと確信してしまう。
そしてそれを感じてしまえば、自分だって。
いい感情、なんてぬるっとしたものではないのだと迫ってくる。
さっきあの男子生徒たちに腕を掴まれたとき感じたのは嫌悪感だったのに。
そんなものは今、ない。
それどころか安心がある。どきどきしているのに、確かにほっとする気持ちも同時にあるのだ。不思議だけれど、つむぎは「そういうものだ」と思った。
だって、触れてくれているのはいばら先輩なのだから。怖いと思うわけがないではないか。
「こっち、来い」
いばら先輩がつむぎの体をちょっと離して、手を掴まえて引いた。今度、つむぎに嫌がる理由なんてない。だって、今触れてくれているのはいばら先輩なのだから。
そのままつむぎは近くにあった、柱の陰に引っ張りこまれた。あたふたしていたけれど、そんなつむぎは捕まえられてしまう。今度は背中からではなく、前からぎゅっと強く。
抱きしめられてしまった。つむぎは理解が追い付かずに、一瞬ぼうっとしてしまう。
「大丈夫か、つむぎ」
いばら先輩の声が上から降ってくる。その声を発するために胸が動くのも伝わってきてしまって、今さらながら、かぁっと顔が熱くなった。
「だ、大丈夫です……すみません」
つむぎはやっと言ったのだけど、それは一蹴されてしまった。
「つむぎは悪くないだろう。ああ、でも目ぇ離さなきゃ良かった……気づいたらいなくて、おつかいにやられたなんて聞いて」
いばら先輩は言いきってくれたけれど、つむぎはそれで反省した。
頼んできたのは別の先輩だったのだ。いばら先輩にひとこと言ってから出てくるべきだったのだ。そのせいで探させてしまった。おまけにこんなことに巻き込まれてしまって。
つむぎはもう一度「すみません」と言おうと思ったのだけど、その言葉は吹っ飛んだ。
「こんなにかわいいんだから、声なんてかけられてもおかしくねぇのに」
ぎゅっと抱き寄せられて、言われたこと。つむぎは今度、心臓が飛び出すかと思ったくらいだ。
だっていばら先輩の声は張りつめていて、本当に心からそう思っているという気持ちが溢れていて。つむぎはおどろいてしまう。
かわいいと言ってくれた、それにこの言い方ではきっと。
……自分を取られたら嫌だと、思ってくれた。
どくん、どくんと心臓が高鳴る。
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いばら先輩は、多分、自分のことを好きでいてくれるのだ。
つむぎはぼんやりと思った。
それは実感だった。
もう、『いい感情を持っていてくれている』どころではなかった。それ以上のことだと確信してしまう。
そしてそれを感じてしまえば、自分だって。
いい感情、なんてぬるっとしたものではないのだと迫ってくる。
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