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学園祭のはじまり③

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「えっ、すみません! もうそんな時間……」
 でもまさか待ち合わせ時間を間違えていただろうか。あわあわと時計を見たつむぎだったけれど、先輩は笑って手を振った。
「や、当番が早く終わっただけだ。つむぎはこの時間空いてるって言ってたから、早めに合流できるかなとか」
「そうだったんですね」
 つむぎはほっとした。そして嬉しくなってしまった。
 自分を探していたと言ってくれたことが。ささいなことなのに、自分を気にかけていてくれたということなのだから。
「こんちは。鳥井さん、だったか」
 いばら先輩は李奈を見て、李奈の名前も呼んだ。呼ばれて李奈はぱっと顔を赤くする。別にいばら先輩に恋はしていないだろうが、なにしろモテモテの有名人である。名前を呼んで声をかけられたら、それはもう。
「はっはい!」
 李奈の慌てようがおかしかったのか。いばら先輩はちょっと笑う。
「そんな緊張しなくても。でもごめんな、邪魔しちまったかな」
 それはつむぎが李奈と過ごしていたからだろう。先輩はつむぎが一人でいるだろうと探しに来たかもしれないのだ。それを「邪魔したか」なんて気にかけてくれるところが、優しいところなのだ。
「いえ! そんなことはないです! 元々お昼は深美先輩と過ごすって聞いてましたから。ね、つむぎ」
 李奈も気づかわれたとわかったのだろう。顔を明るくして言った。つむぎも嬉しくなってしまう。親友と先輩がこんなふうに話していたら。
「あ、うん! そうなんです」
 そんなつむぎと李奈を見比べて、いばら先輩もなんだか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「友達にも言ってくれてたんだな。なんか嬉しいかも」
 その言葉にはちょっとどきっとしてしまったけれど。
 いばら先輩と会うということ。
 つまり、彼氏と会うのだということ。
 そしてそれを嬉しいと思ってくれたこと。
 すべてが嬉しいし、ついでにくすぐったい。でも嫌な感覚であるはずがない。
「あ、じゃあ良かったら昼飯調達を一緒に行かないか? どっかで買うんだろ?」
 外の、食事になるくらい重ための食べ物屋さんでなにか買って食べる。それは学園祭での定番だったので、その場はすぐにまとまった。
 いばら先輩が合流したことで、階段を降りて外へ出る間、とても視線を集めてしまった。中には話しかけてくるひともいる。女子も男子も。
 いばら先輩はそのすべてに返事をしていた。
 優しいひとなんだなぁ。つむぎは感心してしまう。今まで昼休みは一緒に過ごしていても、こうやって学校内をのんびり散策するというのは初めてだったのだ。なんだか新鮮であった。
 さて、校庭へ出て食べ物屋さんを見て回ることにしたのだけど、そこでつむぎは思い付いた。そういえば、行きたいところがあったのだった。
「あの、いばら先輩。焼きそばは好きですか?」
 つむぎがいばら先輩に聞いた、そのひとことだけで、つむぎのとなりにいた李奈は意味がわかったのだろう。おどろいた気配がした。
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