上 下
94 / 117

好きの気持ちの行くところ⑤

しおりを挟む
 確かにそうだ。いばら先輩だって、今、つむぎにいい感情を抱いてくれていたとは言っても、それが継続する保証なんてない。
 つむぎと別れて、離れて、フリーになったら。
 ほかに好きになる女の子もいるかもしれないし、周りの女の子だってきっと、放っておかない。
 思って、即座に頭に浮かんだ。
 それは嫌だ。
 今は自分のとなりにいてくれるひと。
 それが、ほかのひとのとなりにいるようになるなんて。
 そのときが来なければいい、なんて。
 もう思っている場合ではないのかもしれない。
 つむぎは下を向いてしまう。
 もう、好きかもしれないとか、考え込んでいる場合でもない。きっと。
 心を決めないといけないのだ。そして動かなければいけないのだ。
「そう、だね。ちゃんと、しないとだね」
 つむぎの言ったこと。それは『義務』ではなく『決意』だと。李奈もわかってくれたらしい。
 ひょいっとつむぎの顔をのぞきこんできた。にこっと笑う。
「大丈夫。つむぎならできるよ」
 言われたことにはおどろいてしまったけれど。
「だって、つむぎは強いひとだもん」
 これはいばら先輩が言ってくれたことと、まるで同じではないか。
 そのことは、つむぎに自信をくれた。
 評価してくれるひと、確かにいる。しかもそれは自分のことをよく知ってくれているひとたちなのだ。
 そう評価してくれるように、動けているのだ。それならきっと、大丈夫。
 正しい答えを、出せるだろう。
「……ありがとう」
 つむぎは言った。それだけだったけれど、やはり伝わってくれたらしい。
 もうだいぶ、家も近づいてきていた。李奈の家のほうが少し先にあるので、つむぎの家の近くで解散になるのだ。
 オレンジ色はだいぶトーンを暗くしていて、藍色が混ざり出していた。ちょうどよく、夕ご飯の頃に帰りつけるだろう。
 最後に、李奈が言ってきた。
「ね、学園祭一緒に回らない?」
 まったく、元通りの親友としてのお誘い。嬉しくなってしまう。この空気が戻ってきたことに。
「いいね! なに見に行こうか」
 つむぎは即座にうなずいた。それで、あそこに行きたいとか、見たいとかの話をする。
 その中で、李奈が言った。ちょっと恥ずかしそうに。
「サッカー部は焼きそば屋さんやるんだよね。その……盆城くんが当番してるときに、行きたいかな」
 つむぎは理解する。
 李奈は空のことを諦めるつもりがないのだ。それはつむぎのことは関係ない。
 李奈が、片想いをしている一人の女の子として、頑張るということだ。
 そして実る可能性だって、ゼロじゃない。頑張っていけば、叶うかもしれないこと。
「うん。行こう!」
 それなら自分は応援するに決まっている。
 自分のことを強いひとだと李奈は言ってくれた。
 けれど李奈こそ強いひとだとつむぎは思う。
 落ち込んだって、そこから浮上してまた頑張れるひとだ。そして、そういうところが好きだから、親友でいる。
 そのあとすぐに分かれ道に着いてしまって、また明日ねとなったのだけど、つむぎの胸の中はほかほかあたたかかった。
 李奈の言葉や強さに触れて、思えるようになった。
 自分も頑張ろう。
 ちゃんと答えを出せるように。
 そしてそれに従って、正しいほうへ動けるように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~

美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。 母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。 しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。 「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。 果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?

青天のヘキレキ

ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ 高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。 上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。 思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。 可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。 お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。 出会いは化学変化。 いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。 お楽しみいただけますように。 他コンテンツにも掲載中です。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

アリア

桜庭かなめ
恋愛
 10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。  それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。  様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。  ※完結しました!(2020.9.24)

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

処理中です...