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告白の返事と波乱④
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つむぎはなにも言えなかった。
聞かれてしまっただろうか。この話。
こんな話。明らかに恋に関する話をしていた……いや、きっとそれでは済んでいない。
倒れる音がする直前、空が言いかけたこと。
『俺が好きだと思う気持ちは……』
その『好き』が誰を指していたのか。わからないはずがないだろう。
その場には沈黙が流れた。
いい沈黙であったはずがない。それどころか非常に気持ちの悪い空気だった。
だって、知っている。よく知っている。
李奈の片想いの相手。それは今まさに、つむぎのことを好きだと言っていた、空……。
「ごめん!」
不意にその沈黙は破られた。李奈の大きな声によって。
李奈はばっときびすを返して教室を飛び出していった。ばたばたと廊下を走る音が聞こえて、どんどん遠ざかっていく。
つむぎはぼうぜんとしてしまったし、空も同じだった。その場の空気はぬるっと凍るようなものになる。
理由は違っただろうけれど。
空は李奈の気持ちなど知らなかっただろうから、どうして李奈がこれほどおどろき、ショックを受けたかなんてわかるはずがないのだ。
聞いてしまったのは、盗み聞きのような形だったから、李奈が「自分が悪い」と思ったのはわかっただろう。
でもその本当の理由はきっとわかっていなかった。
つむぎはよくわかってしまった、けれど。それによって動けなかったのだけど。
数秒後に、はっとした。
追わなければ、それで言わなければ。
なにを言うのか。
わからなかった。
でもとにかく、追いかけなければ。そうでなくてはきっと、悪いことになってしまう。
「り、李奈! 待って……」
もう呼んでも届くわけがないのに、とっさに言っていた。そのまま教室を飛び出そうとしたのだけど、空のことにすぐ気づいた。
空に説明しなければ、と思ったけれどすぐにそれはダメだ、と思った。それは自分から言っていいことではない。
だから、ひとことだけ言った。
「ごめん! 李奈のこと、心配だから!」
それだけ。でもとりあえず今はこれだけで許してほしい。
空もとまどっていただろうが、「あ、ああ……」と言ってくれた。
その受け入れに甘えて、つむぎは教室を飛び出した。廊下を全力で走る。
李奈はどこへ行っただろう。そう遠くではないだろうし、学校は出ていないはず。
だから行きそうなところに行ってみれば……。
考えながら、走りながら、遅ればせながら胸がずきずき痛んでいた。
こんな話、聞かせてしまうべきではなかった。
たとえ事故のようなものだったとしても。
李奈には酷いことをしてしまったのだから。
李奈を捕まえても、なにを話していいのかなんてわからなかった。
それでも、話さなければ。向き合わなければ。
その気持ちで走る。心臓が冷凍庫に入れられたように冷たかった。
走っているのに、全力で走っているのに。
嫌な方向へ進んでいる予感が、胸の中と、走っていく廊下からひしひしと伝わってきていた。
聞かれてしまっただろうか。この話。
こんな話。明らかに恋に関する話をしていた……いや、きっとそれでは済んでいない。
倒れる音がする直前、空が言いかけたこと。
『俺が好きだと思う気持ちは……』
その『好き』が誰を指していたのか。わからないはずがないだろう。
その場には沈黙が流れた。
いい沈黙であったはずがない。それどころか非常に気持ちの悪い空気だった。
だって、知っている。よく知っている。
李奈の片想いの相手。それは今まさに、つむぎのことを好きだと言っていた、空……。
「ごめん!」
不意にその沈黙は破られた。李奈の大きな声によって。
李奈はばっときびすを返して教室を飛び出していった。ばたばたと廊下を走る音が聞こえて、どんどん遠ざかっていく。
つむぎはぼうぜんとしてしまったし、空も同じだった。その場の空気はぬるっと凍るようなものになる。
理由は違っただろうけれど。
空は李奈の気持ちなど知らなかっただろうから、どうして李奈がこれほどおどろき、ショックを受けたかなんてわかるはずがないのだ。
聞いてしまったのは、盗み聞きのような形だったから、李奈が「自分が悪い」と思ったのはわかっただろう。
でもその本当の理由はきっとわかっていなかった。
つむぎはよくわかってしまった、けれど。それによって動けなかったのだけど。
数秒後に、はっとした。
追わなければ、それで言わなければ。
なにを言うのか。
わからなかった。
でもとにかく、追いかけなければ。そうでなくてはきっと、悪いことになってしまう。
「り、李奈! 待って……」
もう呼んでも届くわけがないのに、とっさに言っていた。そのまま教室を飛び出そうとしたのだけど、空のことにすぐ気づいた。
空に説明しなければ、と思ったけれどすぐにそれはダメだ、と思った。それは自分から言っていいことではない。
だから、ひとことだけ言った。
「ごめん! 李奈のこと、心配だから!」
それだけ。でもとりあえず今はこれだけで許してほしい。
空もとまどっていただろうが、「あ、ああ……」と言ってくれた。
その受け入れに甘えて、つむぎは教室を飛び出した。廊下を全力で走る。
李奈はどこへ行っただろう。そう遠くではないだろうし、学校は出ていないはず。
だから行きそうなところに行ってみれば……。
考えながら、走りながら、遅ればせながら胸がずきずき痛んでいた。
こんな話、聞かせてしまうべきではなかった。
たとえ事故のようなものだったとしても。
李奈には酷いことをしてしまったのだから。
李奈を捕まえても、なにを話していいのかなんてわからなかった。
それでも、話さなければ。向き合わなければ。
その気持ちで走る。心臓が冷凍庫に入れられたように冷たかった。
走っているのに、全力で走っているのに。
嫌な方向へ進んでいる予感が、胸の中と、走っていく廊下からひしひしと伝わってきていた。
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