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来訪者は深美先輩?①

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 その日の放課後。A組に来客があった。それもとんでもない来客である。
 つむぎは教室の掃除で窓なんて拭いていたのだけど、廊下のほう。きゃあっと、女子の明るい声が跳ね上がったのでなにかと思った。あからさまにはしゃいだ空気が伝わってくる。

 なんだろう、街中でアイドルに行きあったみたいな感じだけど。

 不思議に思ってつむぎはそちらを見て、そしてどきっとした。
 そこにいたのは。
「あー、三森、ってやついる? 2-Aって聞いたんだけど」
 長身をかがめてクラスメイトの女子に尋ねている、あれは『深美先輩』ではないか。
 身をかがめているのは、相手の子の背が低いからだ。上からにならないようにそうしてくれているようだ。
 そんな態度はその子を喜ばせてしまったらしい。くちもとに手を当てて明るい声で言っていた。
「は、はい! つむぎちゃんですよね」
 すぐ振り返ってきょろきょろして、つむぎに視線をとめた。
「つむぎちゃん! お客さんだよ!」
 つむぎはいったいどこからおどろいていいものか、目を白黒させてしまった。
 どうして深美先輩がここに。
 それもわざわざ自分を訪ねてきて。
 しかし行かないわけにはいかない。
 窓を拭いていた布とスプレーを近くの机に置いて、そちらへ向かう。
「えっと……なにかご用、ですか?」
 近づいてきたつむぎを見て、深美先輩は「ああ」とほっとしたような顔と声をした。
「まぁ、ちょっとな。このあと時間ある?」
 今度は違う意味で、周りが湧きたった。周りではA組や、となりのB組の女子たちも遠巻きに見守ってそわそわしているようだ。
 それはそうだろう、これほど見た目も良くて、人気もある深美先輩がわざわざ二年生の階にやってきているのだ。こんなこと、めったにあるものではない。
 この空気に巻き込まれているのにちょっと居心地の悪さすら覚える。あまり注目の的になるのは好きではない。
「え、ええ……今日は部活もないので……」
 でも断る理由もない。なにか用があるようだし。
 例の『アクシデント』のせいであまりいい印象はないにしろ、嫌いというほどではない。
 この状況では断れないということを別にしても、つむぎはそのくらいの気持ちでうなずいた。
 つむぎのいい返事に、深美先輩は笑みを浮かべた。ふっと目元がゆるむ。
「そう。じゃ、こないだ会ったとこにいるから来てくれよ」
 それだけだった。軽く手をあげて、階段のほうへ向かっていってしまう。

 こないだ、会った、とこ……。

 つむぎは数秒考えて、はっとした。こないだ会ったって、あの『アクシデント』のときに決まっている。それ以来、個人的に会ったりなんてしていないのだから。
 つまり、場所は屋上だということだ。
 場所はかまわないけれど、なにしろ事件のあったところ。あまりいい印象はない。もう近付かないようにしようかと思っていたくらいだし。
 なんの用なのかも言われなかったし、おまけにいい印象のない場所と相手だし、どうも……嬉しいとはあまり言いがたかった。
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