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幼なじみは少々困りもの①

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 まったく、災難も過ぎる。
 午後の授業が終わってもつむぎはむかむかしていた。当然のことであるが。
 おまけに結局教科書は戻ってこなかったので、隣の子に見せてもらうことになってしまった。だいぶ肩身が狭いことだ。
 「ごめんね、貸したのが返ってこなかったの」なんて言い訳をして、そしてそれは事実なのだけど、情けないことに変わりはない。
 午後の授業はふたつ、国語と社会科。両方教室で聞いているだけで良かった。けれどそれが災いしたのか。昼休みの終わりにあったことばかり考えてしまった。
 引っ張られた腕、目の前にせまった整った顔、そしてくちびるに触れた、ふわっとした感覚……。
 あれやこれやが浮かんでは消えて。心臓が跳ねるやら、勝手にされたいら立ちやら、胸にある感情などいくつあるかもわからず、そんなことばかり感じていて、なんだか授業を受けていただけなのにだいぶ疲れてしまった。
 今日は掃除当番にも当たっていなかったので、もうさっさと帰ってしまおうとつむぎはスクールバッグにノートやペンケースを詰め込んでいたのだけど、そこへ来客があった。
 それは昼休み、あれだけ探した人物であった。
「よう、つむぎ。帰るとこ?」
 こんこん、と申し訳程度につむぎのいるA組のドアを叩いて声をかけてきたのは、一人の男子生徒である。黒髪にすらりとした長身をしている。
「ちょっ……よう、じゃないよね!? 私の教科書は!?」
 つむぎの胸に違う意味のいら立ちが生まれてしまった。そう、この彼こそが、朝からつむぎの教科書を持っていった犯人なのである。
 よって思い切り食ってかかったつむぎであったが、彼……幼なじみの盆城 空(ぼんじょう くう)はただ笑みを浮かべている。入ってきて、つかつか机のそばまでやってきた。
「だから返しに来ただろ」
 はい、と差し出されたのは、確かにつむぎの教科書であった。
 のんきなことを言われたけれど、時すでに遅しである。
「午後! 国語! あったんだけど!」
 ひとつひとつ言い聞かせるように文句を言うけれど、空はそれでも「そうなの? わりぃ」とだけ言った。
 まったく、幼なじみのよしみで「忘れた」と言われたから困るだろうにと貸したのに、こんなこと。
 今日はどうもダメな日かもしれない。つむぎはがっくりと肩を落とした。
「悪い悪い、今日使うとは思わなかったから」
 おまけにぬけぬけとそんなことまで言われる。
「使わなければ持ってきてないけど?」
 言った言葉は嫌味のようになったけれど、ここまで迷惑をこうむっては当たり前だと言いたい。
 空は「それもそっか」と頭に手をやった。次に手を伸ばす。つむぎの頭に触れた。ぽんぽんと軽く叩く。
「悪かったって。なんかおわびするからさ。許せって」
 ごまかすようなしぐさと、言葉。つむぎはかえってふくれた。
 自分が小柄だからと、こんなふうに。空は中等部に入ってからどんどん背が伸びて、もう十センチ以上違いが生まれてしまったのだけど、よくこんなことをしてくるようになったのだ。
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