8 / 117
幼なじみは少々困りもの①
しおりを挟む
まったく、災難も過ぎる。
午後の授業が終わってもつむぎはむかむかしていた。当然のことであるが。
おまけに結局教科書は戻ってこなかったので、隣の子に見せてもらうことになってしまった。だいぶ肩身が狭いことだ。
「ごめんね、貸したのが返ってこなかったの」なんて言い訳をして、そしてそれは事実なのだけど、情けないことに変わりはない。
午後の授業はふたつ、国語と社会科。両方教室で聞いているだけで良かった。けれどそれが災いしたのか。昼休みの終わりにあったことばかり考えてしまった。
引っ張られた腕、目の前にせまった整った顔、そしてくちびるに触れた、ふわっとした感覚……。
あれやこれやが浮かんでは消えて。心臓が跳ねるやら、勝手にされたいら立ちやら、胸にある感情などいくつあるかもわからず、そんなことばかり感じていて、なんだか授業を受けていただけなのにだいぶ疲れてしまった。
今日は掃除当番にも当たっていなかったので、もうさっさと帰ってしまおうとつむぎはスクールバッグにノートやペンケースを詰め込んでいたのだけど、そこへ来客があった。
それは昼休み、あれだけ探した人物であった。
「よう、つむぎ。帰るとこ?」
こんこん、と申し訳程度につむぎのいるA組のドアを叩いて声をかけてきたのは、一人の男子生徒である。黒髪にすらりとした長身をしている。
「ちょっ……よう、じゃないよね!? 私の教科書は!?」
つむぎの胸に違う意味のいら立ちが生まれてしまった。そう、この彼こそが、朝からつむぎの教科書を持っていった犯人なのである。
よって思い切り食ってかかったつむぎであったが、彼……幼なじみの盆城 空(ぼんじょう くう)はただ笑みを浮かべている。入ってきて、つかつか机のそばまでやってきた。
「だから返しに来ただろ」
はい、と差し出されたのは、確かにつむぎの教科書であった。
のんきなことを言われたけれど、時すでに遅しである。
「午後! 国語! あったんだけど!」
ひとつひとつ言い聞かせるように文句を言うけれど、空はそれでも「そうなの? わりぃ」とだけ言った。
まったく、幼なじみのよしみで「忘れた」と言われたから困るだろうにと貸したのに、こんなこと。
今日はどうもダメな日かもしれない。つむぎはがっくりと肩を落とした。
「悪い悪い、今日使うとは思わなかったから」
おまけにぬけぬけとそんなことまで言われる。
「使わなければ持ってきてないけど?」
言った言葉は嫌味のようになったけれど、ここまで迷惑をこうむっては当たり前だと言いたい。
空は「それもそっか」と頭に手をやった。次に手を伸ばす。つむぎの頭に触れた。ぽんぽんと軽く叩く。
「悪かったって。なんかおわびするからさ。許せって」
ごまかすようなしぐさと、言葉。つむぎはかえってふくれた。
自分が小柄だからと、こんなふうに。空は中等部に入ってからどんどん背が伸びて、もう十センチ以上違いが生まれてしまったのだけど、よくこんなことをしてくるようになったのだ。
午後の授業が終わってもつむぎはむかむかしていた。当然のことであるが。
おまけに結局教科書は戻ってこなかったので、隣の子に見せてもらうことになってしまった。だいぶ肩身が狭いことだ。
「ごめんね、貸したのが返ってこなかったの」なんて言い訳をして、そしてそれは事実なのだけど、情けないことに変わりはない。
午後の授業はふたつ、国語と社会科。両方教室で聞いているだけで良かった。けれどそれが災いしたのか。昼休みの終わりにあったことばかり考えてしまった。
引っ張られた腕、目の前にせまった整った顔、そしてくちびるに触れた、ふわっとした感覚……。
あれやこれやが浮かんでは消えて。心臓が跳ねるやら、勝手にされたいら立ちやら、胸にある感情などいくつあるかもわからず、そんなことばかり感じていて、なんだか授業を受けていただけなのにだいぶ疲れてしまった。
今日は掃除当番にも当たっていなかったので、もうさっさと帰ってしまおうとつむぎはスクールバッグにノートやペンケースを詰め込んでいたのだけど、そこへ来客があった。
それは昼休み、あれだけ探した人物であった。
「よう、つむぎ。帰るとこ?」
こんこん、と申し訳程度につむぎのいるA組のドアを叩いて声をかけてきたのは、一人の男子生徒である。黒髪にすらりとした長身をしている。
「ちょっ……よう、じゃないよね!? 私の教科書は!?」
つむぎの胸に違う意味のいら立ちが生まれてしまった。そう、この彼こそが、朝からつむぎの教科書を持っていった犯人なのである。
よって思い切り食ってかかったつむぎであったが、彼……幼なじみの盆城 空(ぼんじょう くう)はただ笑みを浮かべている。入ってきて、つかつか机のそばまでやってきた。
「だから返しに来ただろ」
はい、と差し出されたのは、確かにつむぎの教科書であった。
のんきなことを言われたけれど、時すでに遅しである。
「午後! 国語! あったんだけど!」
ひとつひとつ言い聞かせるように文句を言うけれど、空はそれでも「そうなの? わりぃ」とだけ言った。
まったく、幼なじみのよしみで「忘れた」と言われたから困るだろうにと貸したのに、こんなこと。
今日はどうもダメな日かもしれない。つむぎはがっくりと肩を落とした。
「悪い悪い、今日使うとは思わなかったから」
おまけにぬけぬけとそんなことまで言われる。
「使わなければ持ってきてないけど?」
言った言葉は嫌味のようになったけれど、ここまで迷惑をこうむっては当たり前だと言いたい。
空は「それもそっか」と頭に手をやった。次に手を伸ばす。つむぎの頭に触れた。ぽんぽんと軽く叩く。
「悪かったって。なんかおわびするからさ。許せって」
ごまかすようなしぐさと、言葉。つむぎはかえってふくれた。
自分が小柄だからと、こんなふうに。空は中等部に入ってからどんどん背が伸びて、もう十センチ以上違いが生まれてしまったのだけど、よくこんなことをしてくるようになったのだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
俺がママになるんだよ!!~母親のJK時代にタイムリープした少年の話~
美作美琴
キャラ文芸
高校生の早乙女有紀(さおとめゆき)は名前にコンプレックスのある高校生男子だ。
母親の真紀はシングルマザーで有紀を育て、彼は父親を知らないまま成長する。
しかし真紀は急逝し、葬儀が終わった晩に眠ってしまった有紀は目覚めるとそこは授業中の教室、しかも姿は真紀になり彼女の高校時代に来てしまった。
「あなたの父さんを探しなさい」という真紀の遺言を実行するため、有紀は母の親友の美沙と共に自分の父親捜しを始めるのだった。
果たして有紀は無事父親を探し出し元の身体に戻ることが出来るのだろうか?
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
アリア
桜庭かなめ
恋愛
10年前、中学生だった氷室智也は遊園地で迷子になっていた朝比奈美来のことを助ける。自分を助けてくれた智也のことが好きになった美来は智也にプロポーズをする。しかし、智也は美来が結婚できる年齢になったらまた考えようと答えた。
それ以来、2人は会っていなかったが、10年経ったある春の日、結婚できる年齢である16歳となった美来が突然現れ、智也は再びプロポーズをされる。そのことをきっかけに智也は週末を中心に美来と一緒の時間を過ごしていく。しかし、会社の1年先輩である月村有紗も智也のことが好きであると告白する。
様々なことが降りかかる中、智也、美来、有紗の三角関係はどうなっていくのか。2度のプロポーズから始まるラブストーリーシリーズ。
※完結しました!(2020.9.24)
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
全体的にどうしようもない高校生日記
天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。
ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる