87 / 108
黒煙
①
しおりを挟む
草履を出してもらって、借りて、外へ出た。
やっと地面を歩ける、とほっとしたのだけど、その気持ちはすぐにかき消えた。
「……おい、あっち……」
辰之助が息を吞む。私もその意味などすぐ分かった。
もくもくと煙が立っているのだ。薄黒い煙。
火が出ているのか、それともさっきのような……。
「くそ、急ぐぞ、夜留子! なんか嫌な予感がしやがる!」
「ひゃぁ!」
言われたことは同意であったが、辰之助のそのあとのことは丁寧とは言い難かった。
なんと私を抱え上げ、肩の上に担ぐようにしたのだから。
私は急に宙に浮き、俵のように抱えられて、悲鳴を上げていた。
「なっ、なにをっ、じ、自分で、走れます!」
「うるせぇ黙ってろ! こっちのほうが早いんだよ!」
走り出した辰之助に、やっと言う。
けれど辰之助は息も上げずに走りながら、ばしっと言った。
それはそうかもしれないけれど!
私は心の中で叫んだ。
が、もがいて逃げるわけにはいかない。
だって、走って行くうちに気付いた。
煙が上がっているのは、私たちが過ごしていた場所……道場だったのだから。
やっと地面を歩ける、とほっとしたのだけど、その気持ちはすぐにかき消えた。
「……おい、あっち……」
辰之助が息を吞む。私もその意味などすぐ分かった。
もくもくと煙が立っているのだ。薄黒い煙。
火が出ているのか、それともさっきのような……。
「くそ、急ぐぞ、夜留子! なんか嫌な予感がしやがる!」
「ひゃぁ!」
言われたことは同意であったが、辰之助のそのあとのことは丁寧とは言い難かった。
なんと私を抱え上げ、肩の上に担ぐようにしたのだから。
私は急に宙に浮き、俵のように抱えられて、悲鳴を上げていた。
「なっ、なにをっ、じ、自分で、走れます!」
「うるせぇ黙ってろ! こっちのほうが早いんだよ!」
走り出した辰之助に、やっと言う。
けれど辰之助は息も上げずに走りながら、ばしっと言った。
それはそうかもしれないけれど!
私は心の中で叫んだ。
が、もがいて逃げるわけにはいかない。
だって、走って行くうちに気付いた。
煙が上がっているのは、私たちが過ごしていた場所……道場だったのだから。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる