ばらがき辰の祓い道

辰の加護と戌の加護

③

「説明としてはそのようなところだ。そろそろ実行してもよろしいだろうか」
　場を仕切り直すように、申之助が、こほんと咳をして聞いてくれるので、私は慌てて今度こそ「はい」と答える。
　私にそう大きな害もない模様。
　それどころかこのミッションを遂げれば帰れるのだという。
　断る理由もなにもない。
「ありがとう。では」
　申之助は、辰之助に視線をやり、辰之助はその小刀を持って私の場所までやってきた。
　小刀の柄と鞘は鈍い赤色をしていた。辰之助の髪と同じ色である。
　とても綺麗、と思ってしまったのは数秒だった。
　辰之助はすらりと小刀を抜いて、あろうことか、その小刀の先端、刃の切っ先をぐっと左手の小指に押し付けたのだから。
　私がぎくっとしたときにはもう遅かった。

「くっ……！」

　だらり。
　鋭い刃で辰之助の小指の指先は切れ、赤い血がひとすじ流れたのだから。辰之助が痛そうに顔を歪める。
「ちょ、な、なにを」
　どうして自分の指なんて切るのか。
　私は動揺と焦りと恐ろしさに突き落とされたが、辰之助はその、血の流れている小指をこちらに差し出してくる。

「さ、夜留子。これを舐めてくれ。ちっとでいい」
「な、舐め……!?」

　言われたことはそれ以上の驚愕だった。
　血を舐めるのもそうだし、小指を舐めることになるのもそうだ。