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宮の奥へ
③
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「光(こう)と暗(あん)の関係においては逆の意味になる、すなわち、引き合って互いの力を増幅する、って具合だ」
辰之助は私を見て、言った。その瞳は穏やかで、優しくて。
私はつい見入ってしまった。
すぐに辰之助は前を向いて、扉の金色の取っ手を手に取った。かん、かん、と音がして、きっとノックだったのだろう。
「入るぜ」
返事はなかったけれど、辰之助はぎぃ、と扉を開けて、中へ向かう。
私も戸惑いつつ、手を引かれるままに中に入った。
中に居たのは中年の男性だった。
白髪の混じった赤髪をうしろでくくっているようで、体格はとてもいい。
先程の部屋のように、板張りの部屋の中、少し高くなった畳の間に正座している。
目を閉じていたようだが、辰之助と私が入っていったことで、目を開けた。
その瞳。
なんだか既視感を覚えた。
あたたかな茶色。
「よう、親父。久しぶり」
辰之助はずかずかと入っていき、板張りの場所、畳敷きの前で止まった。私もとことことついていったのだけど。
……親父!?
この方が!?
いかにもこの建物に住んでいますといった様子の方が?
私は目を白黒させてしまった。
だって、辰之助は町の長屋なんてところに一人暮らしをしていたではないか。
お世辞にも立派とか豪華とか言えないような家に。
おまけに宗太郎やお流に言わせると、ばらがきという不良……。
それが、どうして。
「ま、座れよ」
私の動揺はわかるだろうに、辰之助は私を招き、自分もどかっと座った。遠慮もなくあぐらをかく。
私はどうしようと思いつつも、突っ立っているわけにもいかないので、小さく頭を下げて、すっと正座をした。また痺れさせないように気をつけつつ。
「よく参った。戌の娘」
目の前の男性に呼ばれて、私は怒鳴られたわけでもないのに首をすくめてしまう。
そう言われても、まだ辰之助に少し説明されただけなのだ。「はい!」なんて元気に肯定できるものか。
辰之助は私を見て、言った。その瞳は穏やかで、優しくて。
私はつい見入ってしまった。
すぐに辰之助は前を向いて、扉の金色の取っ手を手に取った。かん、かん、と音がして、きっとノックだったのだろう。
「入るぜ」
返事はなかったけれど、辰之助はぎぃ、と扉を開けて、中へ向かう。
私も戸惑いつつ、手を引かれるままに中に入った。
中に居たのは中年の男性だった。
白髪の混じった赤髪をうしろでくくっているようで、体格はとてもいい。
先程の部屋のように、板張りの部屋の中、少し高くなった畳の間に正座している。
目を閉じていたようだが、辰之助と私が入っていったことで、目を開けた。
その瞳。
なんだか既視感を覚えた。
あたたかな茶色。
「よう、親父。久しぶり」
辰之助はずかずかと入っていき、板張りの場所、畳敷きの前で止まった。私もとことことついていったのだけど。
……親父!?
この方が!?
いかにもこの建物に住んでいますといった様子の方が?
私は目を白黒させてしまった。
だって、辰之助は町の長屋なんてところに一人暮らしをしていたではないか。
お世辞にも立派とか豪華とか言えないような家に。
おまけに宗太郎やお流に言わせると、ばらがきという不良……。
それが、どうして。
「ま、座れよ」
私の動揺はわかるだろうに、辰之助は私を招き、自分もどかっと座った。遠慮もなくあぐらをかく。
私はどうしようと思いつつも、突っ立っているわけにもいかないので、小さく頭を下げて、すっと正座をした。また痺れさせないように気をつけつつ。
「よく参った。戌の娘」
目の前の男性に呼ばれて、私は怒鳴られたわけでもないのに首をすくめてしまう。
そう言われても、まだ辰之助に少し説明されただけなのだ。「はい!」なんて元気に肯定できるものか。
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