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激闘
①
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もうひとつ、声がした。
その意味、今度は即座に理解した。
でも、ここから落ちればこの身が危ない。
どうしてそんなことを……。
思ってしまったが、その一瞬が命取りであった。
ドォンッ!
体に強い衝撃が襲い掛かり、私は放たれた妖魔に思い切り押されていた。
窓際に居た体はそれに突き飛ばされて……。
「ひっ……!」
空中に放られていた。エレベーターで下りるときのように、心臓がひゅっと喉の奥まで来たような感覚がする。
が、それどころではない。
落ちる……、地面に叩きつけられる!
思い知って、せめてもとぎゅっと目をつぶったのだけど。
ボスッ!
私の体。
叩きつけられたのは、固い地面などではなかった。
しっかりとした、あたたかいものが身を支えてくれている。
え、なに、これは、まるで……抱き上げられたときのよう。
私は混乱に陥りながら、そろそろと目を開けた。
そして驚愕する。
上げた視界の先に見えたのは、辰之助の顔ではないか。
強張った顔ながら、それでも笑みを浮かべていた。
私はぼうっとしてしまう。
なんで、ここに、辰さんが……。
「良かった、ちゃんと捕まえられた」
辰之助は安心したように、もうひとつ微笑んでくれた。
私はその笑みと、優しい声と言葉に、ふっと緊張が解けてしまった。
助かったのだ。
何故か辰之助に抱き留められて、助かったのだ……。
が、ほっとしている場合ではなかった。
辰之助は私を地面には下ろしてくれず、それどころか腕を動かして、もっとしっかり私の体を抱いた。
そのしっかりとした太い腕に抱かれて、今度は違う意味でどきんと心臓が跳ねたのだけど、その心臓は今度、体の下に置き去りにされるような感覚がした。
「じっと、してろ、よっ!」
ドッ、と強く地面を蹴る音がして、私の体はまた空中に浮いていた。
けれど今度は落ちるのではない。
上へと運ばれているのだ。地面を蹴り、跳びあがった辰之助に抱えられて。
辰之助は三階分はあるだろう高さだというのに、軽々と跳びあがり、そして私は再びさっきの窓の中へ着いていた。
今度は辰之助にしっかり抱えられたまま。
「チッ……、旭光(きょこう)め」
タッ、と音を立てて草履のまま辰之助が畳の上に降り立ったのを見た男は、舌打ちをしてなにか口の中で呟いた。
私はもう、目を白黒させるばかりで、なにを言ったのかもわかりやしなかったけれど。
「おう、暗疎(あんそ)。こう近くで会うのは久しぶりだなぁ」
辰之助はやっと私を下ろしてくれながら、にやにやと男に言った。なにか、名前のような言葉で呼びながら。
「た、辰、さん……どう、して」
私はなんとか言った。畳の上に立たされても、足ががくがくしたけれど、ここで倒れるわけにはいかない。なんとか足に力を込めて、聞いた。
「ん? なにをわかりきったことを」
不意にもう一度、辰之助が私に触れた。
ぐいっと、腰を引かれて、抱きつくように引き寄せられる。
「あんたを奪い返しに来た」
言われて、どくっと胸が高鳴った。かっと顔も熱くなる。
そんな、助けに来てくれた……?
その意味、今度は即座に理解した。
でも、ここから落ちればこの身が危ない。
どうしてそんなことを……。
思ってしまったが、その一瞬が命取りであった。
ドォンッ!
体に強い衝撃が襲い掛かり、私は放たれた妖魔に思い切り押されていた。
窓際に居た体はそれに突き飛ばされて……。
「ひっ……!」
空中に放られていた。エレベーターで下りるときのように、心臓がひゅっと喉の奥まで来たような感覚がする。
が、それどころではない。
落ちる……、地面に叩きつけられる!
思い知って、せめてもとぎゅっと目をつぶったのだけど。
ボスッ!
私の体。
叩きつけられたのは、固い地面などではなかった。
しっかりとした、あたたかいものが身を支えてくれている。
え、なに、これは、まるで……抱き上げられたときのよう。
私は混乱に陥りながら、そろそろと目を開けた。
そして驚愕する。
上げた視界の先に見えたのは、辰之助の顔ではないか。
強張った顔ながら、それでも笑みを浮かべていた。
私はぼうっとしてしまう。
なんで、ここに、辰さんが……。
「良かった、ちゃんと捕まえられた」
辰之助は安心したように、もうひとつ微笑んでくれた。
私はその笑みと、優しい声と言葉に、ふっと緊張が解けてしまった。
助かったのだ。
何故か辰之助に抱き留められて、助かったのだ……。
が、ほっとしている場合ではなかった。
辰之助は私を地面には下ろしてくれず、それどころか腕を動かして、もっとしっかり私の体を抱いた。
そのしっかりとした太い腕に抱かれて、今度は違う意味でどきんと心臓が跳ねたのだけど、その心臓は今度、体の下に置き去りにされるような感覚がした。
「じっと、してろ、よっ!」
ドッ、と強く地面を蹴る音がして、私の体はまた空中に浮いていた。
けれど今度は落ちるのではない。
上へと運ばれているのだ。地面を蹴り、跳びあがった辰之助に抱えられて。
辰之助は三階分はあるだろう高さだというのに、軽々と跳びあがり、そして私は再びさっきの窓の中へ着いていた。
今度は辰之助にしっかり抱えられたまま。
「チッ……、旭光(きょこう)め」
タッ、と音を立てて草履のまま辰之助が畳の上に降り立ったのを見た男は、舌打ちをしてなにか口の中で呟いた。
私はもう、目を白黒させるばかりで、なにを言ったのかもわかりやしなかったけれど。
「おう、暗疎(あんそ)。こう近くで会うのは久しぶりだなぁ」
辰之助はやっと私を下ろしてくれながら、にやにやと男に言った。なにか、名前のような言葉で呼びながら。
「た、辰、さん……どう、して」
私はなんとか言った。畳の上に立たされても、足ががくがくしたけれど、ここで倒れるわけにはいかない。なんとか足に力を込めて、聞いた。
「ん? なにをわかりきったことを」
不意にもう一度、辰之助が私に触れた。
ぐいっと、腰を引かれて、抱きつくように引き寄せられる。
「あんたを奪い返しに来た」
言われて、どくっと胸が高鳴った。かっと顔も熱くなる。
そんな、助けに来てくれた……?
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