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ばらがき辰

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「……」
 私の口からはなにも出てこなかった。
 だって、なにも言えることはないのだから。
「おーい? ショックで気でもおかしくなったか? おーい?」
 そのひとは行儀悪く、足を大きく開いてしゃがんだ。その状態で、私の顔の前、ぱたぱたと手を振る。
 私はそれで、はっとした。
 なにか言わないと。
 とりあえず……そうだ、返事だ。そしてお礼だ。
「あ、え、えっと……だ、大丈、夫、です……」
 口を開いた。
 言葉は出てきてくれた。
 自分でほっとする。
 それは向こうのイケメンも同じであったようだ。少しだけ表情が緩む。
「そりゃ良かった」
 親し気な口調であったが、何故か、馴れ馴れしいとは少し違うと感じられた。不快ではない程度の距離の近さである。
「あの、ありがとう……ございました。助けて、くださった……んですよね?」
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