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ヘビアシ
5 蠢ク邪悪(ウゴメくジャアク)
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「2年も寝たきりだったのか?」
ザックはふと両手を見る。確かに少し痩せたような気はするが、大して衰弱してないような……
「あ、いえ……。正確に申しますと、2年間のほとんどは石化状態で保管されていました。解石……つまり、石化を解除したのは、一週間前になります」
「なるほどね。石化中は時間が止まってるみたいなもんだから、この衰弱は一週間分って事かい」
「その間の生命維持は、回復魔法に依存しておりました。ですが、いつまでも飲まず食わずを続けては、身体が保ちません。明日になっても目覚めなければ、ガングワルド方式に切り替える予定でした」
「ガングワルド方式って……あれか! 体中に針やらチューブやらをぶっ刺して、栄養を送り込んで、無理矢理生きさせるってやつだよな。そいつは勘弁願いたいぜ」
それにしても、2年か。ウラシマや眠り姫に比べたら、たかが2年だ。大したことはない。されど……
今はとりあえずメシだ。おかゆじゃ物足りないがしょうがない。
肉体的には一週間ぶりの食事を取りながら、ザックはハジキに質問する。
「この2年で、社会情勢に何か変かはあったかい? 増税とか、戦争とか」
「一番の変化は、貴方様ですよ」
「オレ?」
ハジキはサービスワゴンから丸めた紙を2枚取り出すと、そのうちの1枚をザックに渡す。
広げてみると、それはA4サイズのポスターで、上にはWANTED。下には金額。そして中央にはザックの顔がデカデカと載っていた。死んだ目でこちらを見つめている。
「へぇ指名手配か。そうか…。いよいよオレも賞金首のお尋ね者として、全国デビューってわけだ」
ザックは長年殺し屋をやっているが、指名手配されるのは初めてである。これまでは組織からの依頼で動いていたため、表に出ないようもみ消してくれていたのだろう。だが、あの事件で徹底的に逆らっちまったからなぁ……。
「このポスターは、あの事件から約一ヶ月後に刷られたものです。名前を見てください」
「名前?」
改めて手配ポスターを見ると、ザックの顔と金額の間に名前が書かれていた。が、“ザック・ザ・リッパー”ではない。
「“ザック・ザ・サウザンドマーダー”………。千人殺しのザック!?」
「はい。それがザック様の新しい二つ名です」
そこでようやくザックは気付く。看護婦姿の娘っ子が言ってたのはこの事だと。
千人は盛りすぎだが、派手に殺しまくったのは事実だ。悪名に尾ヒレが付くのも止む無しか。
さらば“切り裂き魔”よ。そして、ようこそ“千人殺し”。
「犯罪組織は、約一ヶ月かけて屍体の身元を確認しました。しかしザック様の屍体は見つからない。深夜に悪党大虐殺をしでかした凶悪犯は、今なお逃走中。犯罪組織としても、落とし前を付けねば面目を保てません。それ故に、ザック様は全国指名手配されたのだと思われます」
「まあ、そうだろうよ」
全国指名手配され、表裏関係なく賞金稼ぎに追われ、逃亡の果てに力尽きる。裏切り者の末路としては、まあ妥当だな。
「それを踏まえて、こちらをご覧ください」
ハジキはそう言って、2枚目の丸まった紙を渡してきた。
比較すると、サイズは同じだが、紙の痛み具合が違う。1枚目は2年前と言うことで若干の痛みがあるが、2枚目はできたてのように新しかった。開いてみれば、1枚目と同じ、ザックの指名手配ポスターである。
「これが何だって?」
「今から一ヶ月前に出し直されたポスターです。よく見比べてください」
「間違い探しでもしろってか?」
上にはWANTED。下には金額。そして中央には死んだ目をしたザックの顔。特に大きな変化は見られない。強いてあげるなら印刷の色が若干違うくらいか……
いや、待てよ?
古いポスターには、WANTEDの下にDead or Aliveと書かれていた。つまり「生死を問わず」だ。
しかし新しいポスターをよく見ると、Alive Onlyとだけ書かれている。「生け捕りのみ」と言うわけだ。
「なんだこりゃ、なんで『生死を問わず』から『生け捕り』に変わったんだ?」
「いえ、ザック様。確かにそこも重要なのですが……」
「え? ここじゃないの?」
「賞金額をよ~く見てくださいまし」
「賞金ったって……特に変化は……」
「いえ、見ていただきたいのは、左端の数字ではなくてですね……。ゼロの数なんです」
「ゼロ……?」
そう言われてザックは、ゼロを数え始める。
五つ…… 増えていた……
「おめでとうございます、ザック様♪ 先月より貴方様はナンバー1♪ 世界最高金額のお尋ね者です♪」
「いや待て! ちょっと待ってくれ!! なんだよこのとんでもねぇ賞金額は!?」
「はい。小国の国家予算なんて、軽くぶっちぎっておりますね♪」
「そもそも誰がこんな金額払うんだ? 不可能だろ!」
「“千人殺し”の際、ザック様に子飼いの用心棒を殺された富豪達が、敵討ちをすべく賞金を出し合った結果、この金額にまで膨れあがった……というのが、建前のようです」
「建前ね……。で、あんたはどう見てるんだ?」
「ザック様を何としてでも捕らえたい、裏の組織が暗躍している。ザック様も心当たりがあるのでは?」
「ああ、知ってる。確かに知ってるぜ」
間違いない。それ以外考えられない。世界を裏から支配する敵。憎むべき邪悪。
“オーガ”だ!!
ザックはふと両手を見る。確かに少し痩せたような気はするが、大して衰弱してないような……
「あ、いえ……。正確に申しますと、2年間のほとんどは石化状態で保管されていました。解石……つまり、石化を解除したのは、一週間前になります」
「なるほどね。石化中は時間が止まってるみたいなもんだから、この衰弱は一週間分って事かい」
「その間の生命維持は、回復魔法に依存しておりました。ですが、いつまでも飲まず食わずを続けては、身体が保ちません。明日になっても目覚めなければ、ガングワルド方式に切り替える予定でした」
「ガングワルド方式って……あれか! 体中に針やらチューブやらをぶっ刺して、栄養を送り込んで、無理矢理生きさせるってやつだよな。そいつは勘弁願いたいぜ」
それにしても、2年か。ウラシマや眠り姫に比べたら、たかが2年だ。大したことはない。されど……
今はとりあえずメシだ。おかゆじゃ物足りないがしょうがない。
肉体的には一週間ぶりの食事を取りながら、ザックはハジキに質問する。
「この2年で、社会情勢に何か変かはあったかい? 増税とか、戦争とか」
「一番の変化は、貴方様ですよ」
「オレ?」
ハジキはサービスワゴンから丸めた紙を2枚取り出すと、そのうちの1枚をザックに渡す。
広げてみると、それはA4サイズのポスターで、上にはWANTED。下には金額。そして中央にはザックの顔がデカデカと載っていた。死んだ目でこちらを見つめている。
「へぇ指名手配か。そうか…。いよいよオレも賞金首のお尋ね者として、全国デビューってわけだ」
ザックは長年殺し屋をやっているが、指名手配されるのは初めてである。これまでは組織からの依頼で動いていたため、表に出ないようもみ消してくれていたのだろう。だが、あの事件で徹底的に逆らっちまったからなぁ……。
「このポスターは、あの事件から約一ヶ月後に刷られたものです。名前を見てください」
「名前?」
改めて手配ポスターを見ると、ザックの顔と金額の間に名前が書かれていた。が、“ザック・ザ・リッパー”ではない。
「“ザック・ザ・サウザンドマーダー”………。千人殺しのザック!?」
「はい。それがザック様の新しい二つ名です」
そこでようやくザックは気付く。看護婦姿の娘っ子が言ってたのはこの事だと。
千人は盛りすぎだが、派手に殺しまくったのは事実だ。悪名に尾ヒレが付くのも止む無しか。
さらば“切り裂き魔”よ。そして、ようこそ“千人殺し”。
「犯罪組織は、約一ヶ月かけて屍体の身元を確認しました。しかしザック様の屍体は見つからない。深夜に悪党大虐殺をしでかした凶悪犯は、今なお逃走中。犯罪組織としても、落とし前を付けねば面目を保てません。それ故に、ザック様は全国指名手配されたのだと思われます」
「まあ、そうだろうよ」
全国指名手配され、表裏関係なく賞金稼ぎに追われ、逃亡の果てに力尽きる。裏切り者の末路としては、まあ妥当だな。
「それを踏まえて、こちらをご覧ください」
ハジキはそう言って、2枚目の丸まった紙を渡してきた。
比較すると、サイズは同じだが、紙の痛み具合が違う。1枚目は2年前と言うことで若干の痛みがあるが、2枚目はできたてのように新しかった。開いてみれば、1枚目と同じ、ザックの指名手配ポスターである。
「これが何だって?」
「今から一ヶ月前に出し直されたポスターです。よく見比べてください」
「間違い探しでもしろってか?」
上にはWANTED。下には金額。そして中央には死んだ目をしたザックの顔。特に大きな変化は見られない。強いてあげるなら印刷の色が若干違うくらいか……
いや、待てよ?
古いポスターには、WANTEDの下にDead or Aliveと書かれていた。つまり「生死を問わず」だ。
しかし新しいポスターをよく見ると、Alive Onlyとだけ書かれている。「生け捕りのみ」と言うわけだ。
「なんだこりゃ、なんで『生死を問わず』から『生け捕り』に変わったんだ?」
「いえ、ザック様。確かにそこも重要なのですが……」
「え? ここじゃないの?」
「賞金額をよ~く見てくださいまし」
「賞金ったって……特に変化は……」
「いえ、見ていただきたいのは、左端の数字ではなくてですね……。ゼロの数なんです」
「ゼロ……?」
そう言われてザックは、ゼロを数え始める。
五つ…… 増えていた……
「おめでとうございます、ザック様♪ 先月より貴方様はナンバー1♪ 世界最高金額のお尋ね者です♪」
「いや待て! ちょっと待ってくれ!! なんだよこのとんでもねぇ賞金額は!?」
「はい。小国の国家予算なんて、軽くぶっちぎっておりますね♪」
「そもそも誰がこんな金額払うんだ? 不可能だろ!」
「“千人殺し”の際、ザック様に子飼いの用心棒を殺された富豪達が、敵討ちをすべく賞金を出し合った結果、この金額にまで膨れあがった……というのが、建前のようです」
「建前ね……。で、あんたはどう見てるんだ?」
「ザック様を何としてでも捕らえたい、裏の組織が暗躍している。ザック様も心当たりがあるのでは?」
「ああ、知ってる。確かに知ってるぜ」
間違いない。それ以外考えられない。世界を裏から支配する敵。憎むべき邪悪。
“オーガ”だ!!
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