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ヘビアシ
3 花ノ迷宮(ハナのメイキュウ)
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「しょうがねぇ。行ってみるか。どのみち暇だしな」
開いた隠し扉を覗くと、人一人が通れるほどの細い廊下がある。左の壁にはレバーが付いており、これで隠し扉を開閉しているようだ。
細い廊下の1メータ先には、赤いじゅうたんが敷かれた廊下が左右に伸びていた。2~3人が横に並んで歩ける程度の広さだ。
ザックは角に隠れて人の気配を探る。誰もいないようだ。
そっと顔を出し、辺りを見回してみる。広い廊下は左右共に5メータほど続き、どちらもT字路になっていた。
「右か、左か。ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・ね。…とりあえず右か」
ザックは壁寄りに右のT字路へ進み、角からそっと覗き込む。
「………こりゃ、難易度高そうだな」
T字路の先には、だまし絵のような異空間が広がっていた。
果てしなく続く壁の無い空間に、廊下は前後左右のみならず上下まで延び、縦横無尽に階段が続き、窓やドアがあちこちに浮かんでいる。
恐らくは、幻惑系魔法による迷宮トラップだ。解除手段を持たぬ者が迂闊に入れば、永遠に彷徨う事になる。
何より、魔法の心得がないザックには、攻略は不可能。強固な窓をぶち破り、壁伝いに降りていく方がまだ現実的だ。
ザックがすごすごと部屋へ引き返していると、廊下の反対側から、娘達の話し声や笑い声が聞こえてきた。
最低でも二人。そして可愛らしい声はどんどん近づいて来る。
隠れて様子を見るか? それとも……
しかしザックが行動する前に、娘達は悲鳴を上げる。
「ひゃっ!?」
「きゃっ!?」
なっ!? うしろだとっ!? 背後を取られた!?
慌てて振り返ると、2メータほどの近距離に二人の娘がいた。
一人は長身で大人しそうなスレンダー美人。
もう一人は小柄で幼顔の美少女。
どちらも最初の娘と同じ服装をしている。
薄いピンクのワンピースに、フリルのないエプロン。そして頭にナースキャップだ。
二人とも驚いた顔のまま固まっているが、これは話しかけるチャンスだ。
「お嬢ちゃん達、すまねぇが、話の分かる責任者を呼んでくれねぇかな?」
怖がらせないよう、なるべく優しい声で話しかけるザック。しかしその努力は徒労に終わる。
「さ、さ、さうざんどまぁだらぁだぁ~~~~~~!!!!!!!!」
小柄の娘は、甲高い声でけたたましく叫ぶと、回り右して駆け出し、フッと消えてしまう。
そしてスレンダー美人は緊張に耐えられなかったか、「ふう…」と声を漏らして気を失ってしまった。
えええ… またかよぉ………
ザックはダメモトで反対側のT字路を確かめるが、予想通りだまし絵空間が広がっていた。
部屋に戻るしかなさそうだ。
ま、一人逃げて行ったし、今は良しとしよう。はたして呼んで来るのは責任者か、それとも屈強な警備員か。
振り返ったザックは、失神したままのスレンダー美人を見て、頭を抱えた。
「放っておく訳には……いかんよなぁ、やっぱり」
ザックはお姫様だっこでスレンダー美人を部屋のベッドまで運ぶと、ハイテンションガールの隣に寝かせる。
彼女もザックの下の世話をしていた一人だろうか。
ザックのイメージでは、この手の仕事をするのは、人生経験豊富な熟女か、化粧っ気のない熟練看護婦だ。
しかし、彼女達は若すぎるし、幼すぎるし、なにより美人すぎる。大げさかもしれないが、二人とも……いや、逃げ出した娘も含めて三人とも、女神のように美しいのだ。
その美貌をもってすれば、もっと楽で清潔な仕事も得られるだろうに……
ふと思う。
水差しには水が十分入っている。これを顔にぶっかければ、否が応でも目を覚ますだろう。
だが、出来ない。
そんな事をしても、更に怯えるだけだ。大して情報も得られないだろう。
切羽詰まっている訳じゃないんだ。強引な手は避けるべき。
それに、風邪を引いたらどうする。可哀想だろ。
………可哀想………か。
ザックはベッドから離れると、暖炉の側に椅子を運び、そこに座って考え込む。
タイプこそ全く違うが、二人とも若くて美しく、愛らしく魅力的だ。
そんな乙女が無防備な姿をさらし続けている。しかも二人もだ。
スケベ野郎なら、あっさり理性が崩壊するだろう。あからさますぎる。ハニートラップを疑うべき状況だ。
しかしザックは、ピクリとも反応しない。
昔から不思議だった。
彼女達のような若い娘には、異性としての魅力は一切感じない。だけどどういうわけか、やたらと母性を感じていた。
しかし今なら分かる。本当の記憶を取り戻した、今なら分かる。
幼いながらも母親代わりになってくれた、ウェンディ母さんの影響なのだと。
だからスケベ心は一切無いのだが……、実は甘えたい気持ちは人一倍ある。激しくある。流石に恥ずかしくて、誰にも明かせないがな。
彼女達を無下に出来無いのも、親孝行できなかった無念から来ているのかもしれない。
一つ気になることがあった。娘達がザックを妙な名前で呼んでいたのだ。
うまく聞き取れなかったが、確か、“にんごろ”とか、“ざんどま”とか言っていたような……
もしかしてザックの正体を知らないのか?
それとも……
開いた隠し扉を覗くと、人一人が通れるほどの細い廊下がある。左の壁にはレバーが付いており、これで隠し扉を開閉しているようだ。
細い廊下の1メータ先には、赤いじゅうたんが敷かれた廊下が左右に伸びていた。2~3人が横に並んで歩ける程度の広さだ。
ザックは角に隠れて人の気配を探る。誰もいないようだ。
そっと顔を出し、辺りを見回してみる。広い廊下は左右共に5メータほど続き、どちらもT字路になっていた。
「右か、左か。ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・ね。…とりあえず右か」
ザックは壁寄りに右のT字路へ進み、角からそっと覗き込む。
「………こりゃ、難易度高そうだな」
T字路の先には、だまし絵のような異空間が広がっていた。
果てしなく続く壁の無い空間に、廊下は前後左右のみならず上下まで延び、縦横無尽に階段が続き、窓やドアがあちこちに浮かんでいる。
恐らくは、幻惑系魔法による迷宮トラップだ。解除手段を持たぬ者が迂闊に入れば、永遠に彷徨う事になる。
何より、魔法の心得がないザックには、攻略は不可能。強固な窓をぶち破り、壁伝いに降りていく方がまだ現実的だ。
ザックがすごすごと部屋へ引き返していると、廊下の反対側から、娘達の話し声や笑い声が聞こえてきた。
最低でも二人。そして可愛らしい声はどんどん近づいて来る。
隠れて様子を見るか? それとも……
しかしザックが行動する前に、娘達は悲鳴を上げる。
「ひゃっ!?」
「きゃっ!?」
なっ!? うしろだとっ!? 背後を取られた!?
慌てて振り返ると、2メータほどの近距離に二人の娘がいた。
一人は長身で大人しそうなスレンダー美人。
もう一人は小柄で幼顔の美少女。
どちらも最初の娘と同じ服装をしている。
薄いピンクのワンピースに、フリルのないエプロン。そして頭にナースキャップだ。
二人とも驚いた顔のまま固まっているが、これは話しかけるチャンスだ。
「お嬢ちゃん達、すまねぇが、話の分かる責任者を呼んでくれねぇかな?」
怖がらせないよう、なるべく優しい声で話しかけるザック。しかしその努力は徒労に終わる。
「さ、さ、さうざんどまぁだらぁだぁ~~~~~~!!!!!!!!」
小柄の娘は、甲高い声でけたたましく叫ぶと、回り右して駆け出し、フッと消えてしまう。
そしてスレンダー美人は緊張に耐えられなかったか、「ふう…」と声を漏らして気を失ってしまった。
えええ… またかよぉ………
ザックはダメモトで反対側のT字路を確かめるが、予想通りだまし絵空間が広がっていた。
部屋に戻るしかなさそうだ。
ま、一人逃げて行ったし、今は良しとしよう。はたして呼んで来るのは責任者か、それとも屈強な警備員か。
振り返ったザックは、失神したままのスレンダー美人を見て、頭を抱えた。
「放っておく訳には……いかんよなぁ、やっぱり」
ザックはお姫様だっこでスレンダー美人を部屋のベッドまで運ぶと、ハイテンションガールの隣に寝かせる。
彼女もザックの下の世話をしていた一人だろうか。
ザックのイメージでは、この手の仕事をするのは、人生経験豊富な熟女か、化粧っ気のない熟練看護婦だ。
しかし、彼女達は若すぎるし、幼すぎるし、なにより美人すぎる。大げさかもしれないが、二人とも……いや、逃げ出した娘も含めて三人とも、女神のように美しいのだ。
その美貌をもってすれば、もっと楽で清潔な仕事も得られるだろうに……
ふと思う。
水差しには水が十分入っている。これを顔にぶっかければ、否が応でも目を覚ますだろう。
だが、出来ない。
そんな事をしても、更に怯えるだけだ。大して情報も得られないだろう。
切羽詰まっている訳じゃないんだ。強引な手は避けるべき。
それに、風邪を引いたらどうする。可哀想だろ。
………可哀想………か。
ザックはベッドから離れると、暖炉の側に椅子を運び、そこに座って考え込む。
タイプこそ全く違うが、二人とも若くて美しく、愛らしく魅力的だ。
そんな乙女が無防備な姿をさらし続けている。しかも二人もだ。
スケベ野郎なら、あっさり理性が崩壊するだろう。あからさますぎる。ハニートラップを疑うべき状況だ。
しかしザックは、ピクリとも反応しない。
昔から不思議だった。
彼女達のような若い娘には、異性としての魅力は一切感じない。だけどどういうわけか、やたらと母性を感じていた。
しかし今なら分かる。本当の記憶を取り戻した、今なら分かる。
幼いながらも母親代わりになってくれた、ウェンディ母さんの影響なのだと。
だからスケベ心は一切無いのだが……、実は甘えたい気持ちは人一倍ある。激しくある。流石に恥ずかしくて、誰にも明かせないがな。
彼女達を無下に出来無いのも、親孝行できなかった無念から来ているのかもしれない。
一つ気になることがあった。娘達がザックを妙な名前で呼んでいたのだ。
うまく聞き取れなかったが、確か、“にんごろ”とか、“ざんどま”とか言っていたような……
もしかしてザックの正体を知らないのか?
それとも……
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