ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

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【4】アトシマツ

4-3 “ひみつへいき”

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「どうしたおじちゃん、浮かない顔だな。………もしかして、見えてないのか?」
 見えてない? ここから見える何処かに、何かがあるというのか? アンティは千里眼で周囲を見渡すが……
「どうやら、私の"千里眼"は節穴のようです。降参です坊や。私は一体、何が見えていないのですか?」
「はははっ、やった! 初めておじちゃんを出し抜いたぜっ♪」
 ザックはガッツポーズを取りながら無邪気に笑う。
「なあおじちゃんよ、覚えてるか? 昔はよく、かくれんぼをしてただろ」
「はい。よく覚えていますよ。坊やは何度も挑んできて、いつも私が鬼をしていましたね」
「おじちゃんの"千里眼"を出し抜きたかったからな。ムキになってたんだ」
「実際、隠れ方がどんどん巧妙になっていきましたよね。それこそ"千里眼"を使わなくては探し出せませんでした。そして今は"千里眼"をもってしても坊やの意図が見えません。今回ばかりは完敗ですよ」

 なぜ幼いザックを見つけるのは容易なのに、ザックの謎かけが分からないのか。
 それは"千里眼"の能力が原因とも言える。"千里眼"は、ありとあらゆるものが見えてしまうため、ターゲットを絞り込まなければ、何も見えなくなってしまうのだ。
 それは三原色に例えると分かりやすいかもしれない。光の三原色はレッド、グリーン、ブルーだが、全ての色が重なるとホワイトになる。色の三原色はシアン、マゼンタ、イエローだが、全ての色が混ざるとブラックになる。"千里眼"で全てが見えている状態とは、光の三原色のホワイトの状態や、色の三原色のブラックの状態なのだ。
 もしくはインターネットのキーワード検索に例えるのもいいかもしれない。正確な名前を知っていれば探し出すのは容易だが、曖昧にしか覚えてなかったり、名前をまったく知らなければ、膨大な情報の中で正解に辿り着くのは困難だ。
 "千里眼"を使うには、まず見たいターゲットを特定し、次にターゲット以外の視覚情報を遮断する。そうすることでやっと見たいものが見えるようになるのだ。
 かくれんぼの場合、ターゲットが幼いザックと確定していたので、探し出すのは容易だった。
 しかし先ほどの秘密の地下道のように、想定外のものを探し出すのには困難が伴う。
 だから「ジェイクと一緒に戦う」などと抽象的な事を言われてしまうと、もうどこを探せばいいのかサッパリなのだ。

「それじゃ、答え合わせといこうか」
「お願いします」
「答えはな、『この屋敷の領地全て』だぜ」
 自慢げに話すザック。呪いが解けて一気に幼い記憶が戻ったせいか、子供のように無邪気に笑う。
「領地全て? この屋敷の…ですか? 一体……何が?」
 意味が分からず困惑するアンティ。"千里眼"で探すには、絞り込むための情報がまだ足りない。
「ちょいと昔話をするぜ。かれこれ二十年前だ。ボスが私用で出かけていた時に、ジェイクの兄貴が教えてくれたのさ。『"もしもの時"に備えて、屋敷の領地のあちこちに"ひみつへいき"を仕掛けておいた』ってな。二十年かけて少しずつ追加していったんだそうだ」
「ひみつ……へいき!?」
 アンティは改めて"千里眼"を使うが、やはり武器を隠しているようには見えない。しかし……なんだ? 領地のあちこちに違和感を感じる。確かに何かがあるようだ。これは……いったい……
「兄貴はこう言ってたよ。『"ひみつへいき"は秘密であることに意味がある。だからファミリーの誰にも言うな。オレとお前だけの秘密だ』ってな。おじちゃんが気付いてないって事は、ボスも知らなかったんだろうな」
「しかし……これは……危険性は何も無さそうですが………」
「そりゃそうだ。安全装置ってのがあって、そいつを外さなきゃ使えないようになってる。今はただのオプジェや風景の一部さ。そして兄貴はオレにだけ使い方を教えてくれた。言うなれば、こいつは兄貴が残してくれた遺産なのさ。オレがここで使わなきゃ、兄貴の二十年もの苦労が、誰に知られることもなく埋もれちまう。そんなの悲しいだろ?」
「そんなものが……本当に?」
「ああ、本当だぜ」
「ですが分かりません。そんなものがあるなら、何故ジェイクさんは使わなかったのでしょう?」
「全てはオレのせいさ」
「坊やの? それは一体……」
「オレの呪いを解かないまま敵対行動を取れば、オレは兄貴を裏切り者として始末してただろうからな。おまけにオレには"ひみつへいき"の秘密も話しちまってる。使えなかったのさ。オレを殺すか、呪いを解くまではな」
「勝算は……どの程度なんです?」
「さてな。やってみなけりゃわからねぇ。だが、まあ、高く見積もって五分五分ってとこかな」
「それでも、五分五分ですか……」
「ああ。"ひみつへいき"で敵を100人くらいまで減らせられれば、何とか五分五分まで持ち越せるだろうぜ」
「私には、絶望的な状況としか思えないのですが」
「絶望的? ああ、確かにそうだ。だけどよおじちゃん。もしも…だ。もし、この絶望的な状況をひっくり返せたら、痛快だとは思わねぇか?」
 そう言うと、ザックはふふふと笑った。
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