11 / 47
【2】ナラクニマヨイテ
2-2 仲間達の痕跡
しおりを挟む おかしい。覚えが有るのに思い出せない。覚えが無いのに懐かしい。
まるで2つの記憶がせめぎ合い、混ざり合っているようだ。
幼いザックは若きジェイクと2人で、雑木林で繁殖していた巨大アリを撃退し、残った巣を改造して"ひみつきち"にした。
そのはずだ。そのはずなのだ。少なくともザックは数十年間、そう信じて疑わなかった。
だが、目の前の現実はザックの幼い記憶を全力で否定する。
幼いザックは大して役に立たない。となるとアリの巣の改造は、若きジェイクが独りでやったことになる。これだけの設備をたった独りで?
無理…とまでは言わないが、それは難しいように思えた。それなら、もう一つの記憶の方がまだ納得できる。外にも多くの仲間がいたという、もう一つの記憶の方が……
だが、ザックが必死に思い出そうとすればするほど、もう一つの記憶は深い霧が覆い隠してゆく。辿り着くには道しるべが必要だ。
道しるべと言ったら……多分これだろうな。
ぬいぐるみ。ドアノブ。ビー玉。絵本。
これが道しるべなら、まだあるはずだ。4つじゃ足りない。思い出せない想い出がそう訴える。
ザックは部屋を飛び出すと、次の部屋へ向かってトンネルを下ってゆく。もはやトラップが仕掛けられた可能性など考えもしない。
4つ目の部屋もやはりドアから明かりが漏れていた。つまり、ここにも手掛かりがあると言うこと。
ザックは部屋に飛び込むと、それぞれの私物入れを探る。
最初に出てきたのはコレクション用のコインアルバム。しかし中にはコインの代わりに牛乳瓶のフタが綺麗に収納されていた。
次に出てきたのはトランプの入ったカードファイル。中には様々なデザインのジョーカーのカードのみが、百枚以上収納されていた。
その次に出てきたのは膨らんだズタ袋。中にはゴム製で親指サイズの小さな人形がたっぷり入っていた。
そして最後に出てきたのは、スケッチブックと、使い潰したクレヨンの入った小袋だった。
ザックは恐る恐るスケッチブックを開く。
クレヨンで描かれた拙い絵には、恐らくは持ち主の家族が、明るい色彩で描かれていた。幸せそうだった。
しかしめくっていくと、突然、葬式の絵が現れる。きっと持ち主の家族が死んだのだ。
それから何枚かは真っ黒に塗りつぶされた絵が続くが、その後突然、人物画が現れる。
そのほとんどは線画で、ほぼ単色で描かれているが、黒以外のクレヨンで描かれていた。きっと黒は使い切ってしまったからだろう。
描かれているのはズボンを履いた人物画。恐らくは少年だろう。それぞれは別人のようだ。
8人の少年の絵が続いた後、突然華やかな絵が現れる。描かれた人物はスカートを履いていた。女性の画だった。
「ウェンディ……お母さん……」
突然の声にザックは驚き、辺りを見回す。しかし誰もいない。
やがてザックは気付いた。声を発したのは自分の口だと……。
改めて絵を見る。髪には大きなリボン。服装も成人には見えない。女の子だった。
ウェンディお母さんとは誰だ? この子がそうなのか? わからない……。
絵はそこで終わっていた。そこから後は全部白紙。だが、スケッチブックの内側に、破り取られて残った紙を見つかる。どうやら、三枚の絵が破り取られているようだ。
そこで突然、ザックの脳裏に記憶がフラッシュバックする。
「これは“お守り”だ。御利益が無くなるから、絶対開けるんじゃないぞ。判ったなザック」
「わかったよアニキ。オレ、ぜったいあけない」
「今のは……今の記憶は……」
ザックはネクタイを緩め、シャツの第一ボタンを外すと、首にかけていた小さな袋を取り出す。
誰からもらったか分からぬまま、ザックはそれを"お守り"として、幼少の頃から肌身離さず首にかけていた。
それがここに来て、突然思い出した。あれは、アニキだったのだ。 そして、ここで思い出すってことは……
「つまり、ここで開けろって事だよな? 兄貴よ?」
小袋の中には小さく畳まれた紙が入っていた。ザックはそれを破れないよう慎重に広げて行く。
そして現れたのは………
ザックは一瞬、鏡を見ているような気がした。もちろん、そんな事はあり得ない。
現れたのはクレヨンで描かれた拙い線画。描かれているのは、幼かった頃のザックだった。
ザックは広げた絵を、スケッチブックの破られたページに重ねてみる。
破れ目がピタリと一致した。
まるで2つの記憶がせめぎ合い、混ざり合っているようだ。
幼いザックは若きジェイクと2人で、雑木林で繁殖していた巨大アリを撃退し、残った巣を改造して"ひみつきち"にした。
そのはずだ。そのはずなのだ。少なくともザックは数十年間、そう信じて疑わなかった。
だが、目の前の現実はザックの幼い記憶を全力で否定する。
幼いザックは大して役に立たない。となるとアリの巣の改造は、若きジェイクが独りでやったことになる。これだけの設備をたった独りで?
無理…とまでは言わないが、それは難しいように思えた。それなら、もう一つの記憶の方がまだ納得できる。外にも多くの仲間がいたという、もう一つの記憶の方が……
だが、ザックが必死に思い出そうとすればするほど、もう一つの記憶は深い霧が覆い隠してゆく。辿り着くには道しるべが必要だ。
道しるべと言ったら……多分これだろうな。
ぬいぐるみ。ドアノブ。ビー玉。絵本。
これが道しるべなら、まだあるはずだ。4つじゃ足りない。思い出せない想い出がそう訴える。
ザックは部屋を飛び出すと、次の部屋へ向かってトンネルを下ってゆく。もはやトラップが仕掛けられた可能性など考えもしない。
4つ目の部屋もやはりドアから明かりが漏れていた。つまり、ここにも手掛かりがあると言うこと。
ザックは部屋に飛び込むと、それぞれの私物入れを探る。
最初に出てきたのはコレクション用のコインアルバム。しかし中にはコインの代わりに牛乳瓶のフタが綺麗に収納されていた。
次に出てきたのはトランプの入ったカードファイル。中には様々なデザインのジョーカーのカードのみが、百枚以上収納されていた。
その次に出てきたのは膨らんだズタ袋。中にはゴム製で親指サイズの小さな人形がたっぷり入っていた。
そして最後に出てきたのは、スケッチブックと、使い潰したクレヨンの入った小袋だった。
ザックは恐る恐るスケッチブックを開く。
クレヨンで描かれた拙い絵には、恐らくは持ち主の家族が、明るい色彩で描かれていた。幸せそうだった。
しかしめくっていくと、突然、葬式の絵が現れる。きっと持ち主の家族が死んだのだ。
それから何枚かは真っ黒に塗りつぶされた絵が続くが、その後突然、人物画が現れる。
そのほとんどは線画で、ほぼ単色で描かれているが、黒以外のクレヨンで描かれていた。きっと黒は使い切ってしまったからだろう。
描かれているのはズボンを履いた人物画。恐らくは少年だろう。それぞれは別人のようだ。
8人の少年の絵が続いた後、突然華やかな絵が現れる。描かれた人物はスカートを履いていた。女性の画だった。
「ウェンディ……お母さん……」
突然の声にザックは驚き、辺りを見回す。しかし誰もいない。
やがてザックは気付いた。声を発したのは自分の口だと……。
改めて絵を見る。髪には大きなリボン。服装も成人には見えない。女の子だった。
ウェンディお母さんとは誰だ? この子がそうなのか? わからない……。
絵はそこで終わっていた。そこから後は全部白紙。だが、スケッチブックの内側に、破り取られて残った紙を見つかる。どうやら、三枚の絵が破り取られているようだ。
そこで突然、ザックの脳裏に記憶がフラッシュバックする。
「これは“お守り”だ。御利益が無くなるから、絶対開けるんじゃないぞ。判ったなザック」
「わかったよアニキ。オレ、ぜったいあけない」
「今のは……今の記憶は……」
ザックはネクタイを緩め、シャツの第一ボタンを外すと、首にかけていた小さな袋を取り出す。
誰からもらったか分からぬまま、ザックはそれを"お守り"として、幼少の頃から肌身離さず首にかけていた。
それがここに来て、突然思い出した。あれは、アニキだったのだ。 そして、ここで思い出すってことは……
「つまり、ここで開けろって事だよな? 兄貴よ?」
小袋の中には小さく畳まれた紙が入っていた。ザックはそれを破れないよう慎重に広げて行く。
そして現れたのは………
ザックは一瞬、鏡を見ているような気がした。もちろん、そんな事はあり得ない。
現れたのはクレヨンで描かれた拙い線画。描かれているのは、幼かった頃のザックだった。
ザックは広げた絵を、スケッチブックの破られたページに重ねてみる。
破れ目がピタリと一致した。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
最弱パーティのナイト・ガイ
フランジュ
ファンタジー
"ファンタジー × バトル × サスペンス"
数百年前、六大英雄と呼ばれる強者達の戦いによって魔王は倒された。
だが魔王の置き土産とも言うべき魔物達は今もなお生き続ける。
ガイ・ガラードと妹のメイアは行方不明になっている兄を探すため旅に出た。
そんな中、ガイはある青年と出会う。
青年の名はクロード。
それは六大英雄の一人と同じ名前だった。
魔王が倒されたはずの世界は、なぜか平和ではない。
このクロードの出会いによって"世界の真実"と"六大英雄"の秘密が明かされていく。
ある章のラストから急激に展開が一変する考察型ファンタジー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる