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【1】ヤサシククルウ
1-4 始まりの裏切り
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月明かりが照らす中、大小2つの影が雑木林を進んでいた。
前を歩く中年男はザック。後ろを歩く若い大男は、その体格からマンモスと呼ばれていた。
キュベリがどうしてもと言うので、渋々連れて行く事にした連絡係だ。
ザックは彼に違和感を覚えた。キュベリの部下にしては大人しげで、粋がってワルを気取っているようにも見えない。
「それで? マンモス坊やはなんでまた、キュベリのチームに入ったんだい」
「へ、へい。家族がみんな死んで、独りっきりで行くところもなくて、途方に暮れていたとき、仲間に誘われまして……へい」
「流れるままに流されて、こんな吹きだまりに来ちまったのかい。まったく、政府は何やってんだろうね。坊やみたいな善人を悪落ちさせるなんてなぁ」
「それでしたら、ザックさんこそ良い人じゃないですかっ」
「はっはっはっはっ♪ このオレが"イイヤツ"と来たか。こりゃお笑いだぜ♪ マンモス坊やは人を見る目が無いなぁ。すぐに人に騙される口だろ」
「だ、だって……険悪なナンバー2とキュベリさんの仲を取り持ってるじゃないですかっ」
「そりゃあ、ファミリーには義理があるし、ジェイクの兄貴やキュベリともそれなりの仲だからな。だけどな、"イイヤツ"ってのはオレには当たらねぇ。なにしろオレは、異世界"ガングワルド"で言うところの"サイコパス"ってやつだからな」
「さ、さいこぱす?」
「おうよ。ナイフで殺して、切り刻むのが大好きな、マジもんの殺人狂さね。兄貴と出会ってなければ、片っ端から人を殺しまくって殺人犯として処刑されてただろうよ。それにボスの紹介が無けりゃ、殺しに誇りを持つこともなかった。オレが無軌道で無差別な殺しを止め、依頼された人物だけを殺すよう自制できるようになったのも、ボスのおかげ。兄貴のおかげ。仲間とファミリーのおかげよ。だったら恩返しの一つや二つしなきゃらなねぇ。そうだろ?」
「へ…へい……」
「なんにせよ、信頼できる仲間がいるってのは良い事さね」
「そうですね。本当にそうだった……です」
「そうだった? というと?」
「カンタァって言うんですが、実はあいつがその、"モナカちゃん"……じゃなくて、"商品"を連れて逃げた、最初の裏切り者でして……」
「お前さんの仲間が!? するとその、カンタァはもう……」
「へい…。見せしめでキュベリさんに殺されました」
「そりゃあ……そりゃあ、悲しいな」
「へい……。とても…、とても悲しいです」
この木偶の坊の仲間が、最初の裏切り者だった? そんなヤツをキュベリは何故、連絡役として同行させたんだ? たまたまか? それとも何か意味があるのか? いや、それよりも……。もっと大事な事がある!
「教えてくれマンモス坊や! カンタァは何故裏切った? いや、違う……そうじゃないな。カンタァはどんなヤツで、裏切るまでに何があった? 分かる範囲でいい。教えてくれ!」
「それは……」
戸惑いを迷うマンモスだったが、ようやく重い口を開く。
「オレが思うに、これはカンタァの呪いなんですよ」
「呪いだって? そりゃ穏やかじゃないね。カンタァが死に際に、キュベリ達に呪いをかけたとでの言うのかい?」
「そう考えると色々と辻褄があるんでさぁ」
「ふ~む。もう少し詳しく教えてくれるかい」
「へい」
マンモスの話によると、最初の事件のあらましは大体こんな感じのようだ。
チームのみんなが隠れ家で待機していると、キュベリが護衛と共に"商品"を連れてくる。搬送中の"商品"は頭から袋を被せていたため、マンモスは未だに"ケモノビト"とは気付いていないようだ。
キュベリは地下に作られた秘密の部屋へ"商品"を搬入すると、保管中の"商品"の世話をカンタァに任せる。
カンタァはチームの中で、唯一家族に妹がおり、世話をしていた経験があったからだ。
一方でマンモスは「その巨体は室内での戦闘では活かせない」と言われ、隠れ家の外での警備を任された。
実際、マンモスの必殺技"巨像乱舞"は棍棒や丸太を両手に持ち、メチャクチャに振り回すってヤツで、敵味方どころか動植物や建築物にいたるまで容赦なく粉砕してしまう。隠れ家の外へ追い出されるのも納得の采配だ。
マンモスの食事はカンタァが持ってきてくれた。マンモスと一緒に食事しながら愚痴をこぼすのが、カンタァの息抜きだった。なんでも「隠れ家はピリピリしていて息が詰まる」のだそうだ。"商品"にファミリーの未来がかかっているとなれば、ピリピリするのも仕方ない。
だが、その日のカンタァは何かおかしかった。食事を持ってくる度に様子が変わっていったというのだ。
朝食時のカンタァはとてもイライラしていた。「ガキを押しつけられた! めんどくせぇ!」と憤っていたようだ。
昼食時のカンタァは戸惑っていた。「死んだ妹を思い出す」と言うのだ。カンタァには辛い過去があった。幼い頃、面倒を見ていた妹を、自分の判断ミスで死なせてしまったのだ。それ以来、カンタァは荒れに荒れ、悪の世界に堕ちてしまったのだそうだ。
夕食時のカンタァは優しい笑顔で微笑んでいた。鼻歌を歌ったり、とても幸せそうだった。でも、理由を話してはくれなかった。ただ一言、「オレはやり直せる」と呟いていたらしい。
真夜中の夜食時…。カンタァは来なかった。マンモスが腹を空かしながら待っていると、突如隠れ家が大騒ぎになる。カンタァが"商品"と一緒に消えたのだ。
夜が明け、"商品"とカンタァは確保された。"商品"は奪われないよう、再び地下の秘密部屋へと隠された。
そして、裏切り者カンタァは……
前を歩く中年男はザック。後ろを歩く若い大男は、その体格からマンモスと呼ばれていた。
キュベリがどうしてもと言うので、渋々連れて行く事にした連絡係だ。
ザックは彼に違和感を覚えた。キュベリの部下にしては大人しげで、粋がってワルを気取っているようにも見えない。
「それで? マンモス坊やはなんでまた、キュベリのチームに入ったんだい」
「へ、へい。家族がみんな死んで、独りっきりで行くところもなくて、途方に暮れていたとき、仲間に誘われまして……へい」
「流れるままに流されて、こんな吹きだまりに来ちまったのかい。まったく、政府は何やってんだろうね。坊やみたいな善人を悪落ちさせるなんてなぁ」
「それでしたら、ザックさんこそ良い人じゃないですかっ」
「はっはっはっはっ♪ このオレが"イイヤツ"と来たか。こりゃお笑いだぜ♪ マンモス坊やは人を見る目が無いなぁ。すぐに人に騙される口だろ」
「だ、だって……険悪なナンバー2とキュベリさんの仲を取り持ってるじゃないですかっ」
「そりゃあ、ファミリーには義理があるし、ジェイクの兄貴やキュベリともそれなりの仲だからな。だけどな、"イイヤツ"ってのはオレには当たらねぇ。なにしろオレは、異世界"ガングワルド"で言うところの"サイコパス"ってやつだからな」
「さ、さいこぱす?」
「おうよ。ナイフで殺して、切り刻むのが大好きな、マジもんの殺人狂さね。兄貴と出会ってなければ、片っ端から人を殺しまくって殺人犯として処刑されてただろうよ。それにボスの紹介が無けりゃ、殺しに誇りを持つこともなかった。オレが無軌道で無差別な殺しを止め、依頼された人物だけを殺すよう自制できるようになったのも、ボスのおかげ。兄貴のおかげ。仲間とファミリーのおかげよ。だったら恩返しの一つや二つしなきゃらなねぇ。そうだろ?」
「へ…へい……」
「なんにせよ、信頼できる仲間がいるってのは良い事さね」
「そうですね。本当にそうだった……です」
「そうだった? というと?」
「カンタァって言うんですが、実はあいつがその、"モナカちゃん"……じゃなくて、"商品"を連れて逃げた、最初の裏切り者でして……」
「お前さんの仲間が!? するとその、カンタァはもう……」
「へい…。見せしめでキュベリさんに殺されました」
「そりゃあ……そりゃあ、悲しいな」
「へい……。とても…、とても悲しいです」
この木偶の坊の仲間が、最初の裏切り者だった? そんなヤツをキュベリは何故、連絡役として同行させたんだ? たまたまか? それとも何か意味があるのか? いや、それよりも……。もっと大事な事がある!
「教えてくれマンモス坊や! カンタァは何故裏切った? いや、違う……そうじゃないな。カンタァはどんなヤツで、裏切るまでに何があった? 分かる範囲でいい。教えてくれ!」
「それは……」
戸惑いを迷うマンモスだったが、ようやく重い口を開く。
「オレが思うに、これはカンタァの呪いなんですよ」
「呪いだって? そりゃ穏やかじゃないね。カンタァが死に際に、キュベリ達に呪いをかけたとでの言うのかい?」
「そう考えると色々と辻褄があるんでさぁ」
「ふ~む。もう少し詳しく教えてくれるかい」
「へい」
マンモスの話によると、最初の事件のあらましは大体こんな感じのようだ。
チームのみんなが隠れ家で待機していると、キュベリが護衛と共に"商品"を連れてくる。搬送中の"商品"は頭から袋を被せていたため、マンモスは未だに"ケモノビト"とは気付いていないようだ。
キュベリは地下に作られた秘密の部屋へ"商品"を搬入すると、保管中の"商品"の世話をカンタァに任せる。
カンタァはチームの中で、唯一家族に妹がおり、世話をしていた経験があったからだ。
一方でマンモスは「その巨体は室内での戦闘では活かせない」と言われ、隠れ家の外での警備を任された。
実際、マンモスの必殺技"巨像乱舞"は棍棒や丸太を両手に持ち、メチャクチャに振り回すってヤツで、敵味方どころか動植物や建築物にいたるまで容赦なく粉砕してしまう。隠れ家の外へ追い出されるのも納得の采配だ。
マンモスの食事はカンタァが持ってきてくれた。マンモスと一緒に食事しながら愚痴をこぼすのが、カンタァの息抜きだった。なんでも「隠れ家はピリピリしていて息が詰まる」のだそうだ。"商品"にファミリーの未来がかかっているとなれば、ピリピリするのも仕方ない。
だが、その日のカンタァは何かおかしかった。食事を持ってくる度に様子が変わっていったというのだ。
朝食時のカンタァはとてもイライラしていた。「ガキを押しつけられた! めんどくせぇ!」と憤っていたようだ。
昼食時のカンタァは戸惑っていた。「死んだ妹を思い出す」と言うのだ。カンタァには辛い過去があった。幼い頃、面倒を見ていた妹を、自分の判断ミスで死なせてしまったのだ。それ以来、カンタァは荒れに荒れ、悪の世界に堕ちてしまったのだそうだ。
夕食時のカンタァは優しい笑顔で微笑んでいた。鼻歌を歌ったり、とても幸せそうだった。でも、理由を話してはくれなかった。ただ一言、「オレはやり直せる」と呟いていたらしい。
真夜中の夜食時…。カンタァは来なかった。マンモスが腹を空かしながら待っていると、突如隠れ家が大騒ぎになる。カンタァが"商品"と一緒に消えたのだ。
夜が明け、"商品"とカンタァは確保された。"商品"は奪われないよう、再び地下の秘密部屋へと隠された。
そして、裏切り者カンタァは……
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