ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

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【1】ヤサシククルウ

1-3 綱渡る

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 ジェイクが"商品"を連れ出したのは紛れもない事実。では、何故連れ出したのか? 目的は何だ?
 ザックには信じがたいが、仮に裏切りとしよう。ファミリーを裏切ったのははたしてどっちだ?
 ジェイクが裏切って"商品"を連れ去った可能性もあれば、ジェイクがキュベリの裏切りに気付いて、"商品"を護ろうと連れ出した可能性も同じくらいある。
 ナンバー2のジェイクか? 若頭のキュベリか? それとも両方か? 両サイドと敵対する可能性も考えないとならんとは、まったくもって最悪だ。
 ジェイクはザックの兄貴分というだけでなく、ナイフの師匠でもある。タイマン勝負では今でも勝てる自信がない。
 チームキュベリはざっと見て50人。分断できれば負けはしないが、集団で襲いかかられると厳しい。キュベリの統率力は侮れない。
 だが何より最悪なのは、次世代のボスと未来を担うホープを、同時に失う可能性だ。
 "商品"を取り戻し、無事に取引を終えたとして、これから先、ファミリーは生き残れるのだろうか……
 ザックはボスが説得を頼んできた理由を理解した。ザックにとってジェイクは兄貴分で、キュベリは弟分。仲裁にうってつけと踏んだのだろう。
 だが、ザックは殺し屋だ。殺人以外に何も出来ないから殺し屋になった。なのに仲裁なんて出来るのか?
 予想よりもはるかに重い使命に、ザックは頭を抱えてしまう。

「なあ若頭。ナンバー2はどうやって"商品"を連れ出したんだ?」
「実はその……、ちょうどアタシがトイレに篭もっていた時にやって来まして……」
「トイレ?」
「それが……情けないことに朝から腹が下っちまいまして」
 まさか下剤でも盛られたか? チームの中にまだスパイが残っているのかもしれないな。
「対応したもんの話ですと、ジェイクのヤツは来て早々『"商品"を確認したい』とモナカちゃんの部屋に入り、少しして連れ出して行ったそうです」
「素通りか。見張りは何をしてたんだ?」
「ファミリーのナンバー2に『連れて行く』なんて言われたら、下っ端は従うしかないじゃありやせんか? 幸い、見張りはすぐにアタシに知らせてくれたんで、追跡術が使えやしたが」
「そうか。なるほど……」
 良かった。兄貴がチームのメンバーを殺してないなら、まだ和解の道はある
「それでナンバー2は、"商品"のいた部屋にどれくらいいた? 何をしてたんだ?」
「時間は10分くらいですか。人払いされちまったんで、何やってたかは分かりやせんね」
 ロリコン野郎なら"商品"が傷つかない程度にお戯れしてそうだが、ジェイクは大の熟女好きだ。考えられない。
 じゃあなんだ? "商品"の無事を自分の目で確かめるのは分かるが、そこまで時間がかかるものなのか?
 空白の10分に何かが起きた。そう言うことなのか?
 兄貴に会って確かめるしかない……か。

「よし、大体分かった。キュベリ、お前はチームとここで待機していてくれ。オレが独りで直接会ってくる」
「いや、しかし!」
「集団で行けば、激突は避けられないだろっ! お前達は偉そうにふんぞり返る姿しか知らんだろうが、ジェイクの兄貴はオレより強いぞ。しかもオレと違って集団戦が得意と来てる。下手すりゃ、チームは一瞬で皆殺しだ」
「ですが……」
「まあ、聞けやキュベリ。オレ達のファミリーは小さい。モタモタしてたらあっという間に、でかい組織に喰われちまう。力を合わせなきゃ駄目だ。内輪もめしてる場合じゃないんだよ! 若頭のお前なら分かるな? 分かるよなっ?」
「へい……」
「ははっ♪ 流石はキュベリだ。オレが見込んだだけのことはあるぜ♪」
 ザックは満面の笑顔を浮かべ、キュベリの肩をバンバンと叩く。キュベリは苦笑いを浮かべながら、痛みに耐えていた。
 渋々ながらもキュベリは待機を命じ、チームは大人しく従う。どうやら初めて挑戦した説得は、なんとか成功したようだ。
 だが、状況は厳しい。今は首の皮一枚で辛うじて繋がっているだけで、最悪の事態が回避出来たとは言いがたい。ファミリーの命運をかけたザックの綱渡りは、始まったばかりだ。

 次は兄貴か。
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