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【2】尊きは安らかなる日常
2-6 死神の兄妹
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王国で暮らす"野薔薇ノ民"は、女神の血を引く種族と言われている。真偽はともかく、実際女性は美しく、可愛く、愛らしい。
富豪達がステイタスとして欲しがるため、奴隷商人が高額の賞金を出し、常に人狩りに狙われている。
そんな"野薔薇ノ民"の中から、まれに特異な赤子が生まれる。ケモノのような耳とモフモフの尻尾。"ケモノビト"だ。
"ケモノビト"は亜人でも獣人でもない。"野薔薇ノ民"なので女神に血を引いているかもしれないが、紛れもなく人間である。そして突然変異や奇形とも違う。どちらかと言えば先祖返りではないかと言われている。
そして現在、生存している"ケモノビト"は、この世界で2人しか確認されていない。
1人はモナカ。そしてもう1人は、モナカが侍女として仕える"野薔薇ノ王国"の姫君、タレイア十三世だ。
"ケモノビト"の希少価値は凄まじく、奴隷市場に出回れば、国家予算規模の金が動くとまで言われている。
タレイア姫は国家規模で護られているので、人狩りごときでは手は出せない。しかし、モナカは違った。
幼いモナカは老女と二人きりで、森の小さな家に、ずっと隠れて暮らしていたのだ。
偶然にもモナカを発見した人狩りは、言葉巧みに拐かし、奴隷商人に売りつけた。
奴隷商界隈は大騒ぎとなった。噂を聞きつけた富豪達が、モナカを手に入れようと大枚をはたく。金の臭いを嗅ぎつけて犯罪組織も動き出す。そして血で血を洗うモナカ争奪戦が始まった。いくつもの犯罪組織は壊滅し、沢山の人々が血の海に沈んだという。せめてもの救いは、一般人には被害が及ばなかった事くらいだろう。
また、"ケモノビト"には、その姿とは別に特異な能力を秘めていた。相手の心を引きつけ夢中にさせる"魅了"である。
それは元より"野薔薇ノ民"なら誰もが持つ能力であり、その効果は異性にのみ発揮される。ところが、"ケモノビト"の魅了は性別に関係なく発揮される。名付けるなら"超・魅了"だろうか。
実はこの"超・魅了"こそが、闇社会における大惨劇の原因だった。
幼いモナカは、人狩りにさらわれ、好奇の目に晒され、欲望に満ちた大人達に怯えた。何もかもが怖かった。
だからモナカは目の前にいた、看守に、見張りに、食事係に、辺り構わず訴えた。無自覚に"超・魅了"を発揮しながら訴えた。
ただ、「助けて“にぃに”」と…。
"超・魅了"でモナカの虜となった者は、誰もが激しい衝動に取り憑かれる。
この子を助けたい!
この子を護りたい!
そしてこの子を独占したい!
この子の"にぃに"になりたい!!
その為には、邪魔をする犯罪組織を排除せねばならない。たとえ仲間やファミリーでも……
外部の敵には強い組織も、内部からの攻撃には弱い。ましてや信頼できる家族同然だった仲間の、突然の裏切りだ。絆の強い組織であればあるほど、ひとたまりもなかった。
誰もがモナカに優しく微笑み、ヒーローになろうとした。モナカの"にぃに"になろうとした。
殺し合い、生き残った者が新たな"にぃに"となり、また誰かに殺される。そして勝者は言うのだ。
「君はオレが、"にぃに"が護る!」と。
そして気がつけば、モナカは血の海の中で独りぼっちになっていた。
"にぃに"になってくれた優しい人は、モナカを置いてみんな死んでしまった。
どうしてみんな死んじゃうの? 全部モナカのせい? モナカは……死神なの?
孤独に怯えていたモナカの前に、最後に現れたのが、シロガネの参加していた救出チームだった。
漁夫の利を得る形でモナカを保護したが、モナカは救出チームに心を閉ざし、隙あらば逃げだそうとした。
そんなモナカを落ち着かせようと、シロガネは約束する。
「だったらボクが"にぃに"になってやるよ。絶対死なないし、独りぼっちにもしない。だから王国へ帰ろう」
不思議な事に、シロガネには"超・魅了"は効いてないようだった。そして死神腕の話を聞き、心が動いた。
「死神のにぃに…、モナカと一緒…。2人とも死神なら、きっとお似合いの兄妹だね…」
救出チームは決死の脱出劇の後、モナカを王国へと連れ帰った。
そしてモナカは王室で保護された。そこは恐らく、"ケモノビト"にとって最も安全な場所。モナカはタレイア姫の側付き侍女となった。今は"超・魅了"の制御方法から、読み書きや礼儀作法など、様々な事を学ぶ毎日だ。
シロガネとは一緒に住めないが、会いたいときにはいつでも会えるよう、タレイア姫が確約してくれた。今日のサプライズ訪問でも、馬車と護衛を付けてくれたほどだ。
だけど、壊れてしまったモナカの心が治ることはないだろう。
今、モナカが望むのは二つのどちらか。シロガネと一緒に暮らすか、シロガネに命を吸われて死ぬかだ。
にぃにと一緒になれるなら、どっちでもいい。どちらもモナカにとっては幸せなのだという。
それが憐れで愛おしい、シロガネの大切な妹だった。
富豪達がステイタスとして欲しがるため、奴隷商人が高額の賞金を出し、常に人狩りに狙われている。
そんな"野薔薇ノ民"の中から、まれに特異な赤子が生まれる。ケモノのような耳とモフモフの尻尾。"ケモノビト"だ。
"ケモノビト"は亜人でも獣人でもない。"野薔薇ノ民"なので女神に血を引いているかもしれないが、紛れもなく人間である。そして突然変異や奇形とも違う。どちらかと言えば先祖返りではないかと言われている。
そして現在、生存している"ケモノビト"は、この世界で2人しか確認されていない。
1人はモナカ。そしてもう1人は、モナカが侍女として仕える"野薔薇ノ王国"の姫君、タレイア十三世だ。
"ケモノビト"の希少価値は凄まじく、奴隷市場に出回れば、国家予算規模の金が動くとまで言われている。
タレイア姫は国家規模で護られているので、人狩りごときでは手は出せない。しかし、モナカは違った。
幼いモナカは老女と二人きりで、森の小さな家に、ずっと隠れて暮らしていたのだ。
偶然にもモナカを発見した人狩りは、言葉巧みに拐かし、奴隷商人に売りつけた。
奴隷商界隈は大騒ぎとなった。噂を聞きつけた富豪達が、モナカを手に入れようと大枚をはたく。金の臭いを嗅ぎつけて犯罪組織も動き出す。そして血で血を洗うモナカ争奪戦が始まった。いくつもの犯罪組織は壊滅し、沢山の人々が血の海に沈んだという。せめてもの救いは、一般人には被害が及ばなかった事くらいだろう。
また、"ケモノビト"には、その姿とは別に特異な能力を秘めていた。相手の心を引きつけ夢中にさせる"魅了"である。
それは元より"野薔薇ノ民"なら誰もが持つ能力であり、その効果は異性にのみ発揮される。ところが、"ケモノビト"の魅了は性別に関係なく発揮される。名付けるなら"超・魅了"だろうか。
実はこの"超・魅了"こそが、闇社会における大惨劇の原因だった。
幼いモナカは、人狩りにさらわれ、好奇の目に晒され、欲望に満ちた大人達に怯えた。何もかもが怖かった。
だからモナカは目の前にいた、看守に、見張りに、食事係に、辺り構わず訴えた。無自覚に"超・魅了"を発揮しながら訴えた。
ただ、「助けて“にぃに”」と…。
"超・魅了"でモナカの虜となった者は、誰もが激しい衝動に取り憑かれる。
この子を助けたい!
この子を護りたい!
そしてこの子を独占したい!
この子の"にぃに"になりたい!!
その為には、邪魔をする犯罪組織を排除せねばならない。たとえ仲間やファミリーでも……
外部の敵には強い組織も、内部からの攻撃には弱い。ましてや信頼できる家族同然だった仲間の、突然の裏切りだ。絆の強い組織であればあるほど、ひとたまりもなかった。
誰もがモナカに優しく微笑み、ヒーローになろうとした。モナカの"にぃに"になろうとした。
殺し合い、生き残った者が新たな"にぃに"となり、また誰かに殺される。そして勝者は言うのだ。
「君はオレが、"にぃに"が護る!」と。
そして気がつけば、モナカは血の海の中で独りぼっちになっていた。
"にぃに"になってくれた優しい人は、モナカを置いてみんな死んでしまった。
どうしてみんな死んじゃうの? 全部モナカのせい? モナカは……死神なの?
孤独に怯えていたモナカの前に、最後に現れたのが、シロガネの参加していた救出チームだった。
漁夫の利を得る形でモナカを保護したが、モナカは救出チームに心を閉ざし、隙あらば逃げだそうとした。
そんなモナカを落ち着かせようと、シロガネは約束する。
「だったらボクが"にぃに"になってやるよ。絶対死なないし、独りぼっちにもしない。だから王国へ帰ろう」
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