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【1】ハグレモノ案件
1-7 先走る
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周囲の気配が無くなると、シロガネは巨木から飛び降りた。
実際には近くに"掃除屋"がいるはずだが、襲いかかってくる様子はない。シロガネ自身が血を流さない限りは大丈夫なのだろう。
シロガネはグレートソードの側に駆け寄ると、そっと引き抜ぬく。こびり付いた血は大地が吸ったか、もう臭わない。
刃に血糊が付いたままでは危ないと思い、とっさに地面へ突き立てて避難したが、結果的に正解だったようだ。
そこにラズ老師の光球が戻って来る。
「見つけたぞシロガネ! このドローンが案内するからついて来い」
「その前に教えてよ。巣の周りはどんな感じ?」
「ふむ。巣穴の前にはそこそこ開けた広場があるな。あちこちに大きな黒鉱がゴロゴロ落ちとった。もしかしたら鉱床かもしれん」
「クロコウって何?」
「黒い鉱石の事じゃな。黒くてデカイ岩の総称じゃ」
「黒くて……デカイ岩……?」
「どうした? シロガネ?」
「それって多分、"掃除屋"だよ」
「えええぇ!? あの塊がぁ!?」
「一匹一匹だと隠れきれないから、何匹か一緒になって岩のフリをしてるんだよ、きっと」
「巣穴を護るガードマン…いや、ガーディアンという訳か。
じゃがちょっと待て。ドローンからの情報によると、黒鉱の岩はかなりの数が転がっておった!
あれが全部"掃除屋"だとしたら…。数百なんて数じゃ足りんかもしれんぞ! どうする気じゃシロガネ!」
「どうもこうもないよ。ボクはにぃにだもん。助けにいくさ」
「いくら何でも無茶じゃ。応援に行くからちょっと待て」
シロガネはふと、長くて重くて肉厚のグレートソードを見つめる。
持ってきてよかった。コイツが役立ちそうだ。スカイエルフの武器商人に感謝すると、シロガネは大剣を構える。
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」
「やめんかシロガネ! 少し待て! 一人で無茶をするでない!」
遠くから老人の叫び声が聞こえた。ラズ老師だ。
マチヤが丘の上を見ると、大岩に立つ老師の背中に魔法の翼が現れ、ひとっ飛びでマチヤの前に降り立った。
「お主、先ほどの大男じゃな!」
「は、はい、そうです! なんでしょうか大魔道士様!」
「あの馬鹿、独りで突貫する気じゃ! しかしあの数は流石に不味い。せめて林に隠れとる"掃除屋"くらいはこっちで引きつけんとな」
「攻撃……ですか? しかし、セオリー通りなら巣穴を潰してからでないと……」
「そんな役にも立たぬセオリーなんぞ捨てっちまえ! 心配せんでも大丈夫じゃ! ワシの補助魔法は集団戦向けじゃ。ここにいる全員をサポートしてやるわい!」
「わ、わかりました」
王宮戦士でも不味いくらいの"掃除屋"の数に、セオリーを無視した攻略…。嫌な予感しかしないが、やるしかない。
マチヤはざわめく冒険者達を向くと、大声で檄を飛ばした。
「待たせたな野郎共! 仕事の時間だぁっ! 食い扶持を稼げっ! 間違っても無駄死にするんじゃねーぞっ!」
「おおっ!」
「待ってました!」
「やるぞ!」
「いくぜ! いくぜ! いくぜ!」
あとはラズ老師の補助魔法に期待するしかない。大魔道士が口先だけでない事を祈るばかりだ。
冒険者達が奇声を発しながら盛り上がる中、村人の中から一人の女性がラズ老師の元へと走り寄ってきた。
「だ、大魔道士様!」
ラズが振り返ると、20代くらいの美しい女性が、不安げにたたずんでいた。昨日から眠っていないのか目の下にはクマがある。
「む? どうしたね?」
「あの……私の子供は……子供は…………」
そこでラズは気付く。若いが間違いない。行方不明の兄妹の母親だ。
セオリー通りなら人海戦術の各個撃退は巣を潰してから始める。子供は見捨てられたのではと、母親が不安になるのも当然だ。
「正直言ってまだ分からぬ。じゃがの、ワシらはまだ諦めておらん。諦めてはおらんからな! だからお前さんも気をしっかり保つんじゃ!」
「は……はい…。ありがとうございます! ありがとうございます!」
そう言いながら母親はその場で泣き崩れた。慌てて駆け寄ってきた村の娘達に母親を託し、ラズは冒険者達に合流する。
母の期待に応えてやりたい。だが、それでも……
「無茶はするなよ、シロガネや……」
それでも、ラズ老師が心配するのはシロガネだった。“掃除屋”程度でシロガネが死ぬことはない。それは確信を持って言える。だが、心まで無事とは限らない。もし妹ちゃんが救えなかったら、その時、シロガネは正気でいられるだろうか。
今は最悪の事態が起きぬよう、祈るしかなかった。
実際には近くに"掃除屋"がいるはずだが、襲いかかってくる様子はない。シロガネ自身が血を流さない限りは大丈夫なのだろう。
シロガネはグレートソードの側に駆け寄ると、そっと引き抜ぬく。こびり付いた血は大地が吸ったか、もう臭わない。
刃に血糊が付いたままでは危ないと思い、とっさに地面へ突き立てて避難したが、結果的に正解だったようだ。
そこにラズ老師の光球が戻って来る。
「見つけたぞシロガネ! このドローンが案内するからついて来い」
「その前に教えてよ。巣の周りはどんな感じ?」
「ふむ。巣穴の前にはそこそこ開けた広場があるな。あちこちに大きな黒鉱がゴロゴロ落ちとった。もしかしたら鉱床かもしれん」
「クロコウって何?」
「黒い鉱石の事じゃな。黒くてデカイ岩の総称じゃ」
「黒くて……デカイ岩……?」
「どうした? シロガネ?」
「それって多分、"掃除屋"だよ」
「えええぇ!? あの塊がぁ!?」
「一匹一匹だと隠れきれないから、何匹か一緒になって岩のフリをしてるんだよ、きっと」
「巣穴を護るガードマン…いや、ガーディアンという訳か。
じゃがちょっと待て。ドローンからの情報によると、黒鉱の岩はかなりの数が転がっておった!
あれが全部"掃除屋"だとしたら…。数百なんて数じゃ足りんかもしれんぞ! どうする気じゃシロガネ!」
「どうもこうもないよ。ボクはにぃにだもん。助けにいくさ」
「いくら何でも無茶じゃ。応援に行くからちょっと待て」
シロガネはふと、長くて重くて肉厚のグレートソードを見つめる。
持ってきてよかった。コイツが役立ちそうだ。スカイエルフの武器商人に感謝すると、シロガネは大剣を構える。
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」
「やめんかシロガネ! 少し待て! 一人で無茶をするでない!」
遠くから老人の叫び声が聞こえた。ラズ老師だ。
マチヤが丘の上を見ると、大岩に立つ老師の背中に魔法の翼が現れ、ひとっ飛びでマチヤの前に降り立った。
「お主、先ほどの大男じゃな!」
「は、はい、そうです! なんでしょうか大魔道士様!」
「あの馬鹿、独りで突貫する気じゃ! しかしあの数は流石に不味い。せめて林に隠れとる"掃除屋"くらいはこっちで引きつけんとな」
「攻撃……ですか? しかし、セオリー通りなら巣穴を潰してからでないと……」
「そんな役にも立たぬセオリーなんぞ捨てっちまえ! 心配せんでも大丈夫じゃ! ワシの補助魔法は集団戦向けじゃ。ここにいる全員をサポートしてやるわい!」
「わ、わかりました」
王宮戦士でも不味いくらいの"掃除屋"の数に、セオリーを無視した攻略…。嫌な予感しかしないが、やるしかない。
マチヤはざわめく冒険者達を向くと、大声で檄を飛ばした。
「待たせたな野郎共! 仕事の時間だぁっ! 食い扶持を稼げっ! 間違っても無駄死にするんじゃねーぞっ!」
「おおっ!」
「待ってました!」
「やるぞ!」
「いくぜ! いくぜ! いくぜ!」
あとはラズ老師の補助魔法に期待するしかない。大魔道士が口先だけでない事を祈るばかりだ。
冒険者達が奇声を発しながら盛り上がる中、村人の中から一人の女性がラズ老師の元へと走り寄ってきた。
「だ、大魔道士様!」
ラズが振り返ると、20代くらいの美しい女性が、不安げにたたずんでいた。昨日から眠っていないのか目の下にはクマがある。
「む? どうしたね?」
「あの……私の子供は……子供は…………」
そこでラズは気付く。若いが間違いない。行方不明の兄妹の母親だ。
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「正直言ってまだ分からぬ。じゃがの、ワシらはまだ諦めておらん。諦めてはおらんからな! だからお前さんも気をしっかり保つんじゃ!」
「は……はい…。ありがとうございます! ありがとうございます!」
そう言いながら母親はその場で泣き崩れた。慌てて駆け寄ってきた村の娘達に母親を託し、ラズは冒険者達に合流する。
母の期待に応えてやりたい。だが、それでも……
「無茶はするなよ、シロガネや……」
それでも、ラズ老師が心配するのはシロガネだった。“掃除屋”程度でシロガネが死ぬことはない。それは確信を持って言える。だが、心まで無事とは限らない。もし妹ちゃんが救えなかったら、その時、シロガネは正気でいられるだろうか。
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