死神腕の少年剣士

風炉の丘

文字の大きさ
上 下
7 / 27
【1】ハグレモノ案件

1-7 先走る

しおりを挟む
 周囲の気配が無くなると、シロガネは巨木から飛び降りた。
 実際には近くに"掃除屋"がいるはずだが、襲いかかってくる様子はない。シロガネ自身が血を流さない限りは大丈夫なのだろう。
 シロガネはグレートソードの側に駆け寄ると、そっと引き抜ぬく。こびり付いた血は大地が吸ったか、もう臭わない。
 刃に血糊が付いたままでは危ないと思い、とっさに地面へ突き立てて避難したが、結果的に正解だったようだ。
 そこにラズ老師の光球が戻って来る。
「見つけたぞシロガネ! このドローンが案内するからついて来い」
「その前に教えてよ。巣の周りはどんな感じ?」
「ふむ。巣穴の前にはそこそこ開けた広場があるな。あちこちに大きな黒鉱がゴロゴロ落ちとった。もしかしたら鉱床かもしれん」
「クロコウって何?」
「黒い鉱石の事じゃな。黒くてデカイ岩の総称じゃ」
「黒くて……デカイ岩……?」
「どうした? シロガネ?」
「それって多分、"掃除屋"だよ」
「えええぇ!? あの塊がぁ!?」
「一匹一匹だと隠れきれないから、何匹か一緒になって岩のフリをしてるんだよ、きっと」
「巣穴を護るガードマン…いや、ガーディアンという訳か。
 じゃがちょっと待て。ドローンからの情報によると、黒鉱の岩はかなりの数が転がっておった!
 あれが全部"掃除屋"だとしたら…。数百なんて数じゃ足りんかもしれんぞ! どうする気じゃシロガネ!」
「どうもこうもないよ。ボクはにぃにだもん。助けにいくさ」
「いくら何でも無茶じゃ。応援に行くからちょっと待て」
 シロガネはふと、長くて重くて肉厚のグレートソードを見つめる。
 持ってきてよかった。コイツが役立ちそうだ。スカイエルフの武器商人に感謝すると、シロガネは大剣を構える。
「じゃあ、ちょっと行ってくる!」

「やめんかシロガネ! 少し待て! 一人で無茶をするでない!」
 遠くから老人の叫び声が聞こえた。ラズ老師だ。
 マチヤが丘の上を見ると、大岩に立つ老師の背中に魔法の翼が現れ、ひとっ飛びでマチヤの前に降り立った。
「お主、先ほどの大男じゃな!」
「は、はい、そうです! なんでしょうか大魔道士様!」
「あの馬鹿、独りで突貫する気じゃ! しかしあの数は流石に不味い。せめて林に隠れとる"掃除屋"くらいはこっちで引きつけんとな」
「攻撃……ですか? しかし、セオリー通りなら巣穴を潰してからでないと……」
「そんな役にも立たぬセオリーなんぞ捨てっちまえ! 心配せんでも大丈夫じゃ! ワシの補助魔法は集団戦向けじゃ。ここにいる全員をサポートしてやるわい!」
「わ、わかりました」
 王宮戦士でも不味いくらいの"掃除屋"の数に、セオリーを無視した攻略…。嫌な予感しかしないが、やるしかない。
 マチヤはざわめく冒険者達を向くと、大声で檄を飛ばした。
「待たせたな野郎共! 仕事の時間だぁっ! 食い扶持を稼げっ! 間違っても無駄死にするんじゃねーぞっ!」
「おおっ!」
「待ってました!」
「やるぞ!」
「いくぜ! いくぜ! いくぜ!」
 あとはラズ老師の補助魔法に期待するしかない。大魔道士が口先だけでない事を祈るばかりだ。

 冒険者達が奇声を発しながら盛り上がる中、村人の中から一人の女性がラズ老師の元へと走り寄ってきた。
「だ、大魔道士様!」
 ラズが振り返ると、20代くらいの美しい女性が、不安げにたたずんでいた。昨日から眠っていないのか目の下にはクマがある。
「む? どうしたね?」
「あの……私の子供は……子供は…………」
 そこでラズは気付く。若いが間違いない。行方不明の兄妹の母親だ。
 セオリー通りなら人海戦術の各個撃退は巣を潰してから始める。子供は見捨てられたのではと、母親が不安になるのも当然だ。
「正直言ってまだ分からぬ。じゃがの、ワシらはまだ諦めておらん。諦めてはおらんからな! だからお前さんも気をしっかり保つんじゃ!」
「は……はい…。ありがとうございます! ありがとうございます!」
 そう言いながら母親はその場で泣き崩れた。慌てて駆け寄ってきた村の娘達に母親を託し、ラズは冒険者達に合流する。
 母の期待に応えてやりたい。だが、それでも……
「無茶はするなよ、シロガネや……」
 それでも、ラズ老師が心配するのはシロガネだった。“掃除屋”程度でシロガネが死ぬことはない。それは確信を持って言える。だが、心まで無事とは限らない。もし妹ちゃんが救えなかったら、その時、シロガネは正気でいられるだろうか。
 今は最悪の事態が起きぬよう、祈るしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ! 実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・

俺の時間は君に奪われた。

ノウミ
恋愛
欲望と執着の果てにある愛の形を探し求める青春ストーリー。 主人公の周りに広がるのは、青春の甘美さと共に行き過ぎた欲望と愛憎が交錯する友人達の網。友人らは、主人公の心を奪い合うために様々な手段を駆使する。 幼馴染のヒロインは主人公との関係がいつも微妙な距離感にあるが、彼女の心には彼への特別な思いが渦巻いている。信頼できる大親友は主人公の味方でありながら、自分の感情に戸惑いながらも支えとなる。クラスの学級委員長は完璧な外見と内面を持ち、主人公の周りに安定感をもたらすが、彼女の本当の心は謎めいている。そして、男女から人気のあるスポーツ女子は一見活発で明るいが、内に秘めた欲望が彼女を突き動かしていた。 そんな中、主人公は一人の不思議な雰囲気をまとっていた彼女と出逢う。彼女は主人公の想いを引き寄せたいと願っていた。しかし、彼女は独占欲と執着心が極限まで高まったため、予測不能な行動に出る。彼女の行動は、主人公と彼の周りの人々を、混沌とした迷宮へと引きずり込んでいく。 時間を戻すことができる唯一の力を持っている彼女により、彼は自分がどのようにしてこの混沌の中に陥ったのかを理解することができるのか。そして、この物語の行き着く先は一体どこなのか。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...