死神腕の少年剣士

風炉の丘

文字の大きさ
上 下
6 / 27
【1】ハグレモノ案件

1-6 豪腕マチヤ

しおりを挟む
「旦那! 魔道士の旦那!」
 大岩の下からラズ老師を呼ぶのは、背中に大剣を背負った中年の大男。"豪腕マチヤ"の名で知られる冒険者である。
「誰が魔道士じゃ! 偉大なる大魔道士様と呼ばんかい!」
 マチヤは正直「うぜぇ」と思ったが、にこやかに笑いながら大人の対応をする。
「これは失礼を。では、偉大なる大魔道士様、ちょいとよろしいですかい?」
「ふむ、なんじゃ?」と大岩の上から答えるラズ老師。
「俺たちゃハグレモノ退治ってことで、ギルドから緊急招集かけられた冒険者です。下に集まってるもんの代表で来やした」
「これはこれはご苦労でしたな。で、何人集まりましたかの?」
「大体100人くらいですかね。半分以上は冒険者ですが、20人くらいはド素人の村人ですわ。今日中となるとこれが限界ですかね」
「そう…か。ふうむ。これで足りるか? いや、しかし……」
 ラズ老師は独り言を呟きながら考え込む。マチヤはしばらく待った後、再びラズ老師に話しかける。
「それで大魔道士の旦那! 俺たちゃいつまで待ってればいいんですかね?」
「あ? お? ええっと、何じゃったかの?」
「俺たちゃ待ちくたびれてるんですが、いつまで待ってればいいんですかい!」
「ああ、すまんすまん。もう少し待っててくれ。もうじき巣穴が見つかるでな。いや、まて………おおっ! たった今見つかったわい」
「それはようござんした!」

 マチヤはホッと胸をなで下ろす。
 巣穴が見つかったなら、あとは簡単だ。セオリー通りにハグレモノ退治をすればいい。
 まずは巣の中の奴らを一網打尽。その後、地上に残った奴らを人海戦術で潰す。
 巣穴は大魔道士様の大規模魔法で一発だ。100人もいれば地上の奴らも9割方倒せるだろう。
 何匹か取りこぼしても問題は無い。群れなければ怖くないし、女王がいなければ繁殖も出来ないからな。
 これであの村は救われる。
 マチヤの故郷のような悲劇だけは、絶対に繰り返してはいけないのだから。
 しかし、ラズ老師の次の言葉に、マチヤは耳を疑う。
「あとは行方不明の兄妹の安否を確認するだけじゃ。さすれば憂い無く退治できるでな」
「は? ちょっ、ちょっと待ってくだせえ魔道士の旦那! 一体どういうことで?」
「聞いとらんかったか? 村の子供が二人行方不明でな。"掃除屋"に捕まった可能性があるんじゃ」
「初耳ですぜそんな話。ギルドじゃただのハグレモノ退治って…」
「まあ、ワシも知ったのはさっきじゃからの。じゃが、知ってしまった以上、確かめねばならぬじゃろ?」
「確かめるって一体どうやって? ま、まさか……」
「そのまさかじゃ。巣穴に潜って確かめる。たとえ亡骸でも、母親の元に返さねば可哀想じゃろ」
 マチヤには正気とは思えなかった。
 確かに人道的には正しい。しかし、そんな事を言ってる場合か?
 時間は常に"掃除屋"の味方だ。餌があれば凄まじい勢いで繁殖し、どんどん増えていく。気がつけば村が全滅なんて事も十分ありうる。
 そして何より、巣穴は奴らのホームグラウンドだ。そこに潜るなんて正に自殺行為。生きて戻れるとは思えない。
「心配せんでもいい。お前さん方に無茶振りはせんよ。こういう時のための王宮戦士じゃしな」
 マチヤはそう言われて、一足早く雑木林に突入した小柄の人影を思い出す。
 若造が手柄を上げようと先走ったかと思ったが、あれが王宮戦士だったのか…。
「今しばらく、あやつからの報告を待ってくれるか。
 なに、心配はいらん。もしもの時は、雑木林ごとマグマで埋めてくれるでな」
 そう言うと、ラズ老師はニッコリと笑った。

 マチヤが丘から下り、招集された冒険者達の元へ戻ると、仲間達から質問攻めにあった。
「マチヤの大将、どうでした?」
「もう少し待てってよ」
「大将、その"もう少し"ってのは…」
「そりゃ、もう少しはもう少しだろ」
「具体的にはどれくらい…」
「オレが知るかい」
「大将見ましたか? さっき、王宮戦士らしきクソ野郎が林に…」
「みたいだな。だが今回は、丘の上にいる大魔道士様の仕切りだ。俺達は命令あるまで待機だよ」

 冒険者達は王宮戦士が大嫌いである。理由はシンプル。食い扶持を奪うからだ。
 愛だの正義だのと綺麗事を並べ、怪物退治や様々な事案を力尽くで解決しやがる。しかもただ働きでだ!
 おかげで重要案件の依頼のほとんどは王宮戦士に取られ、王宮戦士が断った中規模以下の案件しかギルドには回ってこなくなった。短い仕事で大きく稼ぎたい実力派冒険者にとっては迷惑でしかない。
 マチヤはふてくされながら、その場に座り込み、ふと村人達を見る。
 荒くれ者ばかりの冒険者から少し距離を取り、20人ほどの素人が固まって座っていた。
 村人は、冒険者達が討ち漏らした"掃除屋"を倒して収入を得たり、おこぼれにあずかるために参加している。
 ハグレモノは村を滅ぼす危険な存在だが、思わぬ副収入をもたらすお宝でもあるのだ。
 しかし、村人には笑顔が無い。不思議に思うマチヤだったが、理由はすぐに思い当たった。
 よりによって村の子供が二人も行方不明だものな。これでは喜んではいられるはずも無い…か。
 もしかしたら、あの20人の中に母親もいるのだろうか……。

 マチヤはふと考える。
 この世に王宮戦士がいなくて、この案件が冒険者ギルドに回ってきたとする。
 もし"巣穴に潜って行方不明の子供を捜せ"なんて依頼があったら、オレはいくらで引き受けるだろうか?
 いや、無理だな。いくら積まれても無理だ。死ぬと分かっているのに引き受けられるものか。
 そもそも誰が依頼料をギルドに払う? どうやって見合うだけの大金を工面する? 村でなんとかできないなら、子供達は諦めるしかない。
 いや、金以前の問題だった。元より巨漢のマチヤには無理なのだ。巣穴は狭すぎるし、剣も振れない。出来ることがあるとすれば、兄妹の無事か冥福を祈るか、己の無力さを深酒で忘れようとするくらいだ。
 そういえばあの王宮戦士、やけに小さかったな。まるで子供みたいだったが。
 子供……?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...