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第10話 王都へ向かう準備

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 ディロスと共に洞窟を出て、町のそと、素材が集積された場所へ戻った。

「随分と色んな種類の鉱石を集めたな。鉄に、銅、きん……」
きんがあるんですか。精製出来たら、お金になりますか?」

 ディロスは顎髭あごひげさすりながら答える。

きんは磨けば綺麗に輝くが、もろくて装飾くらいにしか使えない。珍しいものでもないから、きん自体にはそれほど価値は無いな」

 こっちの世界では価値観が違うのだな。やはりディロスを連れて来て良かった。

「火山岩は耐久性も、耐火性も強いから、外壁に使えるだろう。この溶岩石も、形さえ整えれば使えそうだ。随分と谷底まで行ったんだな」

 しげるとディロスの会話を聞いていたジルが、思い出したように野球ボールくらいの小さなかたまりを拾い、ディロスに見せた。

「その谷底に落ちていたらしい、妙なモノだ。これが何だか分かるか?」

 ディロスは受け取ったかたまりを調べる。他の石で叩くと、ポロッと削れた欠片かけらあお色を帯びていた。

「これは……ミスリルだ。おそらくドラゴンが空から落としたフンだろう。だが、この大きさに含まれるミスリルはほんの僅か。何かに使えるほどの量ではないな」

 しげるは首をかしげて問う。

「ミスリルっていうのは、どんな金属なんでしょうか」
「万能の金属と呼ばれ、鉄や布、首飾りなどに混ぜて使う。その強度を飛躍的に高めたり、あるいは、魔導力を貫通させないようにすることが出来る。ある種のドラゴンの体内で生成されているそうだ」

 モナークがしげるの肩をポンと叩く。

「そういえばポレイトとあたしは、ドラゴンを探す旅をしてるんだよね。この町に来てからすっかり忘れてたけど」
「忘れてないさ。目的はオリハルコンだけど。でも、まずはこの町の復興の目処めどが立ってから、王都に向かいたいな」

 ディロスはジルに、建築に使える鉱石と、鉄や銅などの素材となる鉱石の区別の仕方を教えて、しっかり分別するように指示している。
 盗賊の頭領のジルは素直に話を聞いて、部下に的確に指示を伝えた。できる男だ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 夜、ディロスはしげるたちの宿泊している平屋に来た。

「ワシは寝床は要らん。布1枚あればくるまって寝る」

 鉱石の説明を続けて疲れたのか、彼は早々に床に転がって横になり、目を閉じてしまった。
 しげるも寝床の上で横になった。天井を仰いで考え事をする。

 そろそろ王都へ旅立つ準備をするべきかも知れない。片瀬先輩ののこした言葉通りに、オリハルコンを作り出すべく旅に出た。いきなりこの町で足踏みしているわけだが、この夢がいつまで続くのか分からないし、モナークによると、王都へは3か月以上もかかるらしい。
 片瀬先輩はまずは王都に行けと書いていた。きっとそこには何かがある。先人の言葉は信じるべきだと思う。

「ポレイト、起きてるか?」

 壁の向こうから、モナークの声がした。

「起きてる。どうした?」
「あたしはずっと、里から離れずに生きてきた。多分、行商人とか吟遊詩人でもない限り、みんな、同じ場所で生きて、そこで死んでいく。このアシェバラド大陸ではそうなんだ。……まあ、ディロスみたいなのもいるけどね」
「俺はこの世界のことを何も知らない。王都に行ったら何があるのかだって分からないし、ドラゴンなんてどんななのか、想像も出来ない。でも、動かずにはいられないんだ」

 モナークがゴソゴソと音を立てる。やがて、服を着た彼女は壁の向こうから顔をひょっこりと出して、しげるの寝床の横に座った。

「あたしも何も知らないよ。ポレイトに出会わなかったら、聖エルフにちょっかいかけるくらいしか、やることがなかったと思うんだ」

 そこで彼女は小さく息を吐いた。

「今日だって、あたしの剣はオークにすら全然効かなかった。今はドラゴンなんて戦える気がしない。それでも、アンタとなら、……アンタと一緒にいれば、あたしはもっと、今よりもっと強くなれる気がする。だから」

 モナークは立ち上がった。暗がりだが、笑顔のように見える。

「……あたしは先に進みたい。王都に行こうよ」
「俺も、そろそろ行かなきゃって思ってた。明日から準備を始めようか」
「おう!」

 ほのかな隙間明かりの中で、モナークがこぶしを突き出した。しげるは拳を合わせる。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 次の朝が来て、町の外の盗賊たちに食糧と水を届ける。ディロスは昨日に引き続き、鉱石の分別を助けてくれるようだ。
 しげるは頭領のジルに、王都へ向かう準備を始めることを告げる。

「オレたちはここでしばらく町の復興を手伝うよ。もう盗賊は辞めだ。誰かの物を奪うよりも、誰かの役に立つほうが楽しい。近くにオレたちの町を作るってのもいかもな」

 彼らが他人から物を奪っていたという姿を想像出来ないが、改心したのならそれは朗報だ。鎧の男もずっと盗賊たちを警戒していたようなので、協力し合ってくれたら、しげるとしてもこの町を心残りなく離れられるというものだ。

 しげるの服のそでを引っ張り、ミディアが困惑顔でく。

「ポレイト、いなくなっちゃうの?」
「準備が出来たらね。町の復興はここの建計師けんけいしに任せようと思う。俺たちはここで留まるわけにはいかない」
「そっか……。私、もっとポレイトの役に立ちたかったな」
「ミディアは凄く頑張ってくれたよ。これからも、ここで役に立ってやってくれ」

 ミディアは腕を下ろし、しげるから離れた。背中が随分と寂しそうだ。

「さて、と」

 王都に行くためには、幾つもの山を越える必要があるらしい。今着ているパジャマのようなツナギと、最初の村で貰ったサンダルのような底の薄い靴では絶対に無理だ。
 せめてディロスのような鎖かたびらと、しっかりとした厚底のブーツを身に付けなければならない。食糧を詰められるバッグも必要だ。雨に備えて天幕も要るし、自衛のための武器も持っておくべきだろう。

 モナークと共にユーラの店へ向かう。町の男たちが数人集まり、店の崩れた外壁を修復し始めていた。
 店の中をのぞくと、彼は奥の鍛冶場で熱した鉄を打っていた。

「ユーラ。モナークの剣を修理してくれないか。あと、幾つかお願いがある」
「おお、町の救世主じゃねえか。いいぜ。なんでも頼んでくれ」

 ユーラがハギレの皮と、炭のペンを手渡してきた。ここに必要な物を書けということか。

「こっちの言葉は書けないから、絵でいかな」

 防具やブーツ、バッグや武器のイメージを書いて返す。絵心が無いから、しっかりと説明する。ユーラは下手くそな絵に少し含み笑いをしながらも、真剣に聞いてくれた。

「分かった。1日では無理だ。数日で揃えるよ」
「急がなくてもいいよ。揃うまでは町の復興の手伝いをしておくさ」

 モナークの剣を渡して、店を出る。
 町では、崩れた建物の瓦礫がれき撤去が終わっていた。建計師けんけいししげるに駆け寄って来る。

「ポレイト、キソを作りたいんです。教えてください!」

 しげるは笑顔でうなずいて、歩き出した。
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