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第2章 Reboot
第25話 遊園地
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ジェットコースターは、ゆっくりと坂を上がって行く。
ミイナは隣で震える史緒里を心配そうに見つめる。
「顔が真っ白だけど、大丈夫?」
「日焼け止めを塗りすぎたみたいだね。それより、緊急停止装置は無いのかい?」
この期に及んで逃げ出そうとする彼女に現実を突きつけるように、コースターは急激にスピードを上げて右へ左へと揺れる。
「おんぎゃああああああ!!」
涙を浮かべて叫ぶ史緒里を乗せて、ジェットコースターの爆進は続く。風で髪が後ろにたなびく。ミイナは写真スポットを見つけると、笑顔で腕を上げた。
「この写真、買う?」
ミイナの問いかけに、白目で史緒里が首を横に振る。
強キャラっぽく見える史緒里にも苦手なものがあることを発見し、ミイナは少しホッとしたような、申し訳ないような複雑な気持ちになった。
「おかえり。史緒里、初ジェットコースターはどうだった?」
「もう2度と乗らないと誓うよ。あの残酷な乗り物は本当にヒトが作りしモノなのかい」
当たり前のように乗ることを拒否した輝羅が、史緒里の様子を見て笑う。
「ジェットコースター、楽しいと思うんだけどな。輝羅、やっぱり乗ってみない?」
「あんな子供騙しに、私が乗るわけないじゃない。なんでわざわざ命を危険に晒すのよ」
「別に危険じゃ、ないと思うけどね……」
話していると、萌絵奈と霧子がアイスクリームを人数分持って歩いて来た。霧子がうんざりした顔で恨み言を呟く。
「カップルばっかり。さっさと注文しろっての。まったくブツブツ……」
休憩所の丸いテーブルに5人が座り、溶けかけのアイスクリームを食べ始める。
輝羅が遊園地のマップを広げて、指で未踏の場所を示す。
「後は観覧車だけ。1日で廻りきるのは、少し大変だったわね」
萌絵奈がミイナの方を向いて、問いかける。
「ミイナちゃん、何かゲームのアイデアに生かせそうな素材はあった?」
ミイナは驚いた表情で答える。
「あっ。遊園地を楽しみ過ぎて、すっかり当初の目的を忘れてました」
観覧車で遠景を楽しみ、閉園時間が迫ると、ミイナたちは追い出されるように遊園地を後にした。
「結局、楽しんだだけで収穫は無かったなぁ」
「そんなものよ。全ての行動で何かを得られるわけないんだから。楽しかったならいいじゃない」
そう言った輝羅をちらりと見て、ミイナは手を繋ぐ。
「そうだね。皆で遊べて良かったね」
「わ、私も次はジェットコースター、乗ってみようかな……ミイナと一緒に」
「うん。じゃあ、次は2人で来よっか」
輝羅の顔が紅潮する。その姿を眺めていた史緒里が、ふたりを指差して霧子に問う。
「あのふたりは、いつもああいう調子なんですか?」
「そうだよ。いつまでも初々しいカップルだよね」
「へぇ、輝羅は変わったんですね。ボクが知ってる、2年前の輝羅と全然違うな」
「ミイナちゃんが、彼女の世界をひっくり返したの。今はすごく幸せそうだから、私たちは嬉しいのよ。ね、萌絵奈」
萌絵奈は微笑んで、頷き、親指を立てた。
なぜ言葉で返さないのかと思いつつも、史緒里もミイナと輝羅を見て、微笑んだ。
ミイナには不思議な魅力がある。何を考えてるかいまいち分からないけど、部室で手を取られた時に悪い気はしなかったし、話をしているとなんだか安心する。
「この世界に、亜蘭以外にボクの心を動かすヒト科がいるとはね」
霧子はその言葉に、ちょっとだけドン引きした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部室の中、遊園地のマップを眺めて、ミイナが唸っていた。
レザークラフトの手を止め、萌絵奈が聞く。
「アイデアが出ないの?」
「何かヒントになるようなことがあればと思ったんですけど。今のままじゃ、落とし物を届けるだけの作業ゲーでしかなくて、全然面白くなりそうな気配すら無いんですよ」
萌絵奈は微笑みながら、天井を見上げる。
「そうねぇ……じゃあ、私たちじゃなくて、カップルさんたちは、何のために遊園地にいたんだろうね」
「カップルなら、イチャイチャするためじゃないですか?」
「イチャイチャするだけなら、別にあそこじゃなくてもいいよね。なんで、遊園地なんだろう」
「それは……遊園地なら、どのアトラクションにしようとか悩んだり、一緒に遊んで、その人の意外な面を発見したり……!」
ミイナは手をぱんと合わせて、萌絵奈を見る。
「なるほど! 理由付けですね。輝羅の作ったゲームがつまらなかったのは、そのゲームをしなきゃいけない理由が分からないからなんだ!」
ちょうど部室に入って来た輝羅が、自作のゲームを完全にディスられて失神した。霧子が後ろで輝羅の体を受け止める。
「あ、しまった……」
さらに後から入って来た史緒里が、その光景を見て笑う。
ひとしきり笑った後で、ミイナに言う。
「ボクたちのゲームに足りないのは、ゲームをするための動機付けみたいだね。それはどうやって示すべきかな」
ミイナは指を鳴らそうとするが、指が擦れた音しか出ない。
「ストーリーだよ! 主人公が落とし物を届ける理由と、プレイヤーが主人公を助けたくなるようなお話が必要なんだ!」
ミイナは隣で震える史緒里を心配そうに見つめる。
「顔が真っ白だけど、大丈夫?」
「日焼け止めを塗りすぎたみたいだね。それより、緊急停止装置は無いのかい?」
この期に及んで逃げ出そうとする彼女に現実を突きつけるように、コースターは急激にスピードを上げて右へ左へと揺れる。
「おんぎゃああああああ!!」
涙を浮かべて叫ぶ史緒里を乗せて、ジェットコースターの爆進は続く。風で髪が後ろにたなびく。ミイナは写真スポットを見つけると、笑顔で腕を上げた。
「この写真、買う?」
ミイナの問いかけに、白目で史緒里が首を横に振る。
強キャラっぽく見える史緒里にも苦手なものがあることを発見し、ミイナは少しホッとしたような、申し訳ないような複雑な気持ちになった。
「おかえり。史緒里、初ジェットコースターはどうだった?」
「もう2度と乗らないと誓うよ。あの残酷な乗り物は本当にヒトが作りしモノなのかい」
当たり前のように乗ることを拒否した輝羅が、史緒里の様子を見て笑う。
「ジェットコースター、楽しいと思うんだけどな。輝羅、やっぱり乗ってみない?」
「あんな子供騙しに、私が乗るわけないじゃない。なんでわざわざ命を危険に晒すのよ」
「別に危険じゃ、ないと思うけどね……」
話していると、萌絵奈と霧子がアイスクリームを人数分持って歩いて来た。霧子がうんざりした顔で恨み言を呟く。
「カップルばっかり。さっさと注文しろっての。まったくブツブツ……」
休憩所の丸いテーブルに5人が座り、溶けかけのアイスクリームを食べ始める。
輝羅が遊園地のマップを広げて、指で未踏の場所を示す。
「後は観覧車だけ。1日で廻りきるのは、少し大変だったわね」
萌絵奈がミイナの方を向いて、問いかける。
「ミイナちゃん、何かゲームのアイデアに生かせそうな素材はあった?」
ミイナは驚いた表情で答える。
「あっ。遊園地を楽しみ過ぎて、すっかり当初の目的を忘れてました」
観覧車で遠景を楽しみ、閉園時間が迫ると、ミイナたちは追い出されるように遊園地を後にした。
「結局、楽しんだだけで収穫は無かったなぁ」
「そんなものよ。全ての行動で何かを得られるわけないんだから。楽しかったならいいじゃない」
そう言った輝羅をちらりと見て、ミイナは手を繋ぐ。
「そうだね。皆で遊べて良かったね」
「わ、私も次はジェットコースター、乗ってみようかな……ミイナと一緒に」
「うん。じゃあ、次は2人で来よっか」
輝羅の顔が紅潮する。その姿を眺めていた史緒里が、ふたりを指差して霧子に問う。
「あのふたりは、いつもああいう調子なんですか?」
「そうだよ。いつまでも初々しいカップルだよね」
「へぇ、輝羅は変わったんですね。ボクが知ってる、2年前の輝羅と全然違うな」
「ミイナちゃんが、彼女の世界をひっくり返したの。今はすごく幸せそうだから、私たちは嬉しいのよ。ね、萌絵奈」
萌絵奈は微笑んで、頷き、親指を立てた。
なぜ言葉で返さないのかと思いつつも、史緒里もミイナと輝羅を見て、微笑んだ。
ミイナには不思議な魅力がある。何を考えてるかいまいち分からないけど、部室で手を取られた時に悪い気はしなかったし、話をしているとなんだか安心する。
「この世界に、亜蘭以外にボクの心を動かすヒト科がいるとはね」
霧子はその言葉に、ちょっとだけドン引きした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部室の中、遊園地のマップを眺めて、ミイナが唸っていた。
レザークラフトの手を止め、萌絵奈が聞く。
「アイデアが出ないの?」
「何かヒントになるようなことがあればと思ったんですけど。今のままじゃ、落とし物を届けるだけの作業ゲーでしかなくて、全然面白くなりそうな気配すら無いんですよ」
萌絵奈は微笑みながら、天井を見上げる。
「そうねぇ……じゃあ、私たちじゃなくて、カップルさんたちは、何のために遊園地にいたんだろうね」
「カップルなら、イチャイチャするためじゃないですか?」
「イチャイチャするだけなら、別にあそこじゃなくてもいいよね。なんで、遊園地なんだろう」
「それは……遊園地なら、どのアトラクションにしようとか悩んだり、一緒に遊んで、その人の意外な面を発見したり……!」
ミイナは手をぱんと合わせて、萌絵奈を見る。
「なるほど! 理由付けですね。輝羅の作ったゲームがつまらなかったのは、そのゲームをしなきゃいけない理由が分からないからなんだ!」
ちょうど部室に入って来た輝羅が、自作のゲームを完全にディスられて失神した。霧子が後ろで輝羅の体を受け止める。
「あ、しまった……」
さらに後から入って来た史緒里が、その光景を見て笑う。
ひとしきり笑った後で、ミイナに言う。
「ボクたちのゲームに足りないのは、ゲームをするための動機付けみたいだね。それはどうやって示すべきかな」
ミイナは指を鳴らそうとするが、指が擦れた音しか出ない。
「ストーリーだよ! 主人公が落とし物を届ける理由と、プレイヤーが主人公を助けたくなるようなお話が必要なんだ!」
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