上 下
78 / 79
山陰 編(2023年11月)

第78話 島根 松江城と堀川めぐり

しおりを挟む
 僕は走っていた。

 朝食バイキングを済ませ、お腹いっぱいでホテルを出て、山口駅まで40分かけ歩いていた。
 あー、結構時間かかったなぁと思ったら、なんと山口駅ではなくその1駅先の上山口駅まで歩いていたのだ。ワッハッハ。

 そんなわけで僕は走る。あと20分で特急が出発してしまう。3時間半も乗るのだから、なんとしても指定席券をゲットしたい。
 線路に沿って爆走したら、7分で山口駅に着いた。日頃のランニングの成果が出たじゃねぇか。

 長い区間を乗るから、そのあいだひと区間でも席に座る人がいればその席は取れない。よって選択肢は限られるものの、進行方向に対して左側の海が見える座席を確保できたワーイ。

 今日は山口駅に駅員さんが2人もいた。昨日はなんだったんだろう。午前中だけ配置されているとか? そしてその2人の会話がまたホンワカしていて。やっぱりこの町、まったりしててけっこう好きかも。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 特急の窓から眺める山々も、田園もとても美しかった。
 途中の益田駅で、寝台特急の瑞風みずかぜを見た。重厚な深緑の列車に、外からでも分かる豪華な内装。走る高級ホテルってやつだ。気になってネットで調べると、かなり先の予約、しかもツアーでしか乗ることが出来ないみたい。そういう旅もあるんだなぁ。

 そしてさらに特急は進み続け、日本海が目の前に現れた。今日も海はざんざんと岩礁がんしょうを勢い良く削り取ろうとしている。元気いっぱいだ。
 波がザッパァーン! ザッパァーン……。
 砂浜に打ち寄せる白波しらなみの向こうには、よく晴れた空の色を濃く映す沖合い。そういえばどこかで、潮の流れが速いほど海の色は濃く深くなるんだと聞いた。だとしたらあの沖合いは相当流れが速いのだろう。

 なんで移動するだけでこんな字数を使っているのか。まだ松江まで2時間もあるんですよぉ。ペットボトルのコーヒーもカラになって、もう飲むものがないんですよぉ……。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 さて松江。駅に降りると足がカチコチだ。伸びをしながら駅の北側に出る。
 まずは昼飯だけど、松江城に向かえばなんかあるでしょって考えで歩き始めた。特急の中で島根の名物を検索し忘れたので、もう美味おいしければそれでヨシとしよう。

 宍道しんじが流入する幅の広い大橋川沿いにうなぎ屋があった。国産のうなぎで、湖の近く……。
 引き戸をけて入る。人数の多い団体さんが帰ってから席に着き、うなぎ特上とくじょうを注文した。夕食というか夜食については無料になると思うので、昼食に飯代を全振り出来るのだ。

 特上は1尾丸ごとだった。さらに肝吸きもすいも付いていてうなぎ三昧ざんまいだ。無論ウマイに決まっている。頭もついていたけど骨がある部分は食べず、って当たり前か。これで島根の名物料理は食べることがなくなったけど、まあいいや。

 うなぎエキスで全身回復させて、さあ松江城。
 ……と思って歩いていると、小さな遊覧船が発着しているのを見た。近付いて何分待ちかいてみると、10分待ちとのこと。お堀の周りをいく「堀川めぐり」というそうな。せっかくだから乗ってみよう。

 どんどん乗客がやってきて、8人が乗り込み、船は出発。寒い時期になったので「こたつ」が用意されていた。足を入れてポカポカ。
 幾つかの橋の下を通る時はウィーンと屋根が下がってくるので頭を下げる。船頭せんどうさんによると、これが楽しみという客が多いらしい。ホンマかいな。

 さらに船頭さんの名調子は続く。松江城がよく見えるフォトスポットを教えてくれたり、船頭のうたを口ずさんだり。現在船頭は女性も含め平均68歳らしい。73歳で定年だそうな。
 希望すると1周することも可能みたいだが、松江城に行きたいので城の近くで降りた。普段経験出来ない視点から橋の下を見たり、かもを間近で見たりと楽しく過ごせた。

 そんでもって松江城。天守は国宝であり、築城は1611年とのことだ。
 堀尾氏によって建造され、その、京極氏、松平氏と藩主が変わっていった。
 チケットを買い、入り口で靴を脱いで中へ入ると、古い木の匂い。うん、これは国宝だ。
 歩くとギシギシきしむ。うん、以下略。

 実戦用に造られたらしく、銃や弓で敵を狙うための狭間はざま、石落とし、内部に深ぁい井戸があったり塩蔵があったり。籠城ろうじょうも出来る強固な防衛施設であったらしい。
 天守から広大な宍道しんじが見渡せる。松江の街もすべて見渡せる。こりゃ攻めて来る敵はハッキリと分かっただろうな。

 彦根城と同じく壁に展示などは無い。その代わり近くに松江歴史館があり、そちらで城の歴史や藩主たちのことを紹介しているようだ。あとでいってみよう。

 国宝の内部を目に焼き付けて城を出る。チケットは小泉八雲記念館と武家屋敷の共通券にしたから、そちらにも行こう。あれ? 時間あるかな。
 ササッと城を回り込んで北へ。幾つかの神社にまいったが書き切れないので割愛かつあいするぅ。

 小泉八雲記念館は、いわずもがなの「怪談」で有名な小泉こいずみ八雲やくもの功績を紹介する場所だ。僕はこの人が日本に来てからのことしか知らなかったので、その生涯を説明した壁の掲示に魅入みいっていた。写真に映るとき不自然に左を向いていたのは、若い頃に左眼を失明したからだったのか。
 この場所はもっと時間をかけて観たかった。だけどあと2つ回らなきゃなので、ひと通りザッと眺める。松江出身の佐野史郎氏が朗読した怪談を聴けるコーナーもあって、1つだけ聴いたけど、やっぱり小泉八雲の怪談はシンプルでい。怖いというよりも家族愛とか命について考えさせられる話が多いように思う。
 入り口近くで流れている八雲の生涯をダイジェストにてえがいた動画も観て、館を出た。

 すぐ近くにある武家屋敷にも寄った。古い設計で復元された庭園つきの家で、そのうち明治時代の小説を書きたい僕にとってはい資料になる。しっかりと景色や屋敷の内装を頭に入れて、退出。

 やばいぞあと1時間しかない。松江歴史館は近いけど歩いて5分くらいだ。早足で歩き3分程度で到着。
 特別展示をススゥーッと眺めていると、大きな漆器しっきを作る動画が流れており、そこで10分程度の足止めをくらった。いや観なきゃいいんだけど面白かったんですよ。

 常設展示、松江城や松江の街の歴史について観覧する。
 ああ、ここを最初に観て、それから松江城に行きべきだったんだ。ぐるっと展示室を周るだけで松江城のことがすごくく分かるようになっている。ここを先に観てたら、もっと松江城の内外を楽しめたのに……。うーむ、もう今更だけど、城を訪れる時は先に資料館的なトコに行くべきなんだなぁ。

 天井に古い松江城の写真を映す装置や、城内のジオラマ、建造にあたって当時作られた模型など、松江城の魅力や内部の工夫された構造がしっかりと紹介されていた。くぅ~。

 閉館ギリギリまで粘って退館。ここ、スゴクイイ!

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 大橋川に架かる松江大橋を歩く。宍道しんじの方向を眺めると、鮮やかな夕焼け。空は橙色だいだいいろと水色のグラデーションでえがかれている。描かれているっていう表現が一番しっくりくるほど、まるで絵画のようなその風景をパシャリと撮って、満足してホテルへ。

 本日泊まるのは、どこの地域でも素晴らしいサービスを提供してくれるホテルチェーンだ。明日あすが月曜日とあってお安くなっていたため、ここに決めた。
 部屋に入って驚く。ミニコンポがある! Bluetoothも使えるようだ。ミスチル聴こ! あ、風呂にテレビがある! なんか風呂に浮かべる用のアヒルのオモチャがある! 冷蔵庫にゼリーが入ってる!

 風呂にお湯を溜め、アヒルを浮かべて浸かりながら思う。やはりすごいホテルだ。ベッドはふかふかだしテーブルは広い。なんの文句も無い。

 コインランドリーは洗濯機が無料、乾燥機は有料。台数が多いから洗濯難民になることはない。外のコインランドリーより圧倒的に安いのでありがたく服の洗濯・乾燥をする。

 21時半からは「夜鳴きそば」というハーフサイズのラーメンが無料で提供される。1階のラウンジで1杯ズズッとすすり、部屋へ戻ってビールを飲んだ。

 明日あすは鳥取。この旅で訪れる最後の場所。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

50歳の独り言

たくやす
エッセイ・ノンフィクション
自己啓発とか自分への言い聞かせ自分の感想思った事を書いてる。 専門家や医学的な事でなく経験と思った事を書いてみる。

天涯孤独のアーティスト

あまゆり
エッセイ・ノンフィクション
はじめに… 自分自身の波瀾万丈の人生を書いてます。 こんな生き方も参考にしてください。 学もない私が書いていきますので読みづらい、伝わりづらい表現などあるかもしれませんが広い心でお付き合い頂ければと思います。 平成や令和の方などには逆に新鮮に思えるような昭和な出来事などもありますので不適切な表現があるかもせれませんが楽しんでもらえたらと思います。 両親が幼い頃にいなくなった私 施設に行ったり、非行に走ったり 鑑別所や、少年院に入ったり 音楽を始めたり、住む家がなくフラフラして生きて、いつの間にか会社を経営して結婚して子どもが生まれたり、女装を始めたり こんな生き方でも今生きている自分がいるってことを伝えたいと思います。 過去を振り返ることで今の自分が怠けずに生きられているのか、自分を見つめ直すことができるので頑張って書いていこうと思います。 この物語に出てくる登場人物は本人を除いて一部の人は仮名で表現しております。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

腐女子看護師の日常

とっぽ
エッセイ・ノンフィクション
看護師……それは白衣の天使。人々の癒やしであり、人々の苦痛を取り除き、日々笑顔を絶やさず聖母のごとき博愛精神で人々を包み込む清らかな職業。 一方、腐女子……それは腐臭漂う末期のヲタク。BがLしてれば人生ハッピー。火のないところに煙を立たせてなんぼな火起こし職人。 これは、腐女子兼看護師な主人公・とっぽが、日々襲い来るキラキラ同僚との会話やリアル社会への適応に苦しみながらも、必死に現代を生きていく、希望と愛の物語である───。(クソッ、夜勤だ!深夜アニメがリアタイできねぇ!)

QUEENファンのひとりごと

安明(あんめい)
エッセイ・ノンフィクション
特にテーマを決めずに、QUEENについて書いてみたいと思いました。防備録的なものでもあるので、お読みいただく価値があるか甚だ心許ないところですが、もしかしたら「私ならもっといいものが書ける」という方が出てこられる、呼び水くらいにはなりかもしれません。お暇なときにでも覗いてやってください。 「HOTランキング用ジャンル選択」はどっちかを選ばないといけないので「女性向け」としましたが、もちろん性別問わずお読みいただけると嬉しいです。

私50才 お母さんも50歳

日向 瞑 
エッセイ・ノンフィクション
私、25歳の夏、2人の娘を置いて蒸発をした。そして今あの時のお母さんの年齢になった私、もし私が友達だったら なんて声をかけてあげるだろう。。。 私の幼かった頃はまだ多様性などと言う言葉はかけらもなくて、(今思えば)ADHDの私はどれだけ育て難かっただろう。 その上宇宙のエネルギーが見えたり、感性が鋭く右へ倣えの一般社会のルールにどうしても馴染めなくて、度々問題を起こす私のお母さんをやる事は本当に大変だったと思う。それなのに私はこんなに自分が人と違うのはお母さんのせいだと思っていた。もっとスキンシップをしてくれたら、もっと世話を焼いてくれたら、もっとそばにいてくれたら‥‥ 50年かけて自分探しをしてきた私。同じくお母さんも50年かけて今のお母さんになったのだ。 これはそんな気づきにインナーチャイルドが癒されたメッセージです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

処理中です...