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第4話 野菜を育てたいって
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ゾンビは眠らない丑三つ時。
ミチオとリキはホームセンターの屋上で焚き火をしていた。妙な臭いを煙に乗せ燃え盛る炎。ちょっと汚い話で……トイレの水は既に流れなくなっていて、排泄事情が厳しいのだ。なのでとりあえず汚染されたものは全部燃やすことにしている。燃え始めはとても臭いが、炭にして屋上から捨てることでちょっとは悪臭を防げるかもと考えてのことだ。
「そもそもゾンビの臭いがキツいし、オイラたちも風呂に入れないからかなり臭うんだけどな」
「どうしたミチオ。また見えない誰かとお喋りしてるのか」
ミチオからの返答を待つが、彼はだんまりだ。なんでやねん。
気を取り直して、リキは眠い目を擦りながら提案する。
「ガーデニング売り場にある園芸用の土と野菜の種を持ってきてさ、ここで野菜を育てるってのはどうだ?」
炎を見つめて呆けていたミチオは、夜空を見上げ目を細める。雲間には星々の輝き。地上が暗いから星の数が多くてまるでプラネタリウムみたいだ。
「やっぱり、もう誰も生き残ってないのかなぁ。たまにこうして夜、炎を上げてても全然反応ないもん」
「ないもんって可愛く言われても。ところでガーデニング売り場にある園芸用の……」
「いや聞いてた、聞いてたよ。植物って育てるのに何か月かかるんだ?」
「知らんけど。屋上なら雨が降れば水やりの必要ないし、放っておいても育つだろうから、やって損は無いと思うんだよね」
「ガーデニング売り場かぁ、外に出なきゃいけないな。またどっかにゾンビ誘導するか」
「お。さすがキングさんだ。やる気満々じゃん」
その呼び名で、キングことミチオはヨシハルがいないことに気付く。
「あいつ、何してるんだ?」
「もちろん中で寝てるよ。ふぁあ……、俺もめちゃくちゃ眠いんだけど」
「えー? もうちょっと喋ろうぜー。夜はまだまだ長いんだからさ」
「夜は寝るもんなんだよ。ったく、お前の不眠症に合わせてたら死んじまうよ」
「オイラたち、死んだらゾンビになるのかな」
太っちょリキはよっこらしょと立ち上がり、ぐんとひと伸び。
「さあね。でも、このまんま誰にも会えなかったら死んでるようなモンだろ」
それだけ言うと、リキは近くに置かれた寝袋にゴソゴソと入り目を瞑る。
「ミチオ、ちょっとでも寝とけよ。あと雨が降ってきたら起こしてな」
「ああ」
ミチオは汚れたタオルを炎の中へ放り込んで、微笑みを浮かべた。
「付き合ってくれてありがとな、リキ」
……。
「寝るの早っ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カン、カン! と金盥を鳴らすと、音に敏感なタイプのゾンビたちが2階にいるヨシハルを見上げながらフラフラと歩いて来た。ゾンビたちは壁をよじ登ろうとしているのか、手をペタペタと弱々しく擦りつけ続ける。
「やっぱり音だけじゃ半分も誘導出来ないですね。キング、どうします?」
「オイラが自転車で引きつけてもいいんだけどな。動きがトロくてもこの数じゃ、パンクでもしたら終わりだろ」
「野菜のために命を張ることはないと思いますぜ。所詮リキの思い付きですし」
「あいつ、もうスタンバってるのか?」
ヨシハルは無線のスイッチを押し込んだ。
「今、どこにいる?」
『カート置き場。もう勝手口のバリケード外していいかな』
「音だけじゃ誘導し切れない。本気で土と種が欲しいなら、僕かキングが外に出て引きつけるけど、そこまでする必要あるか?」
『今後のこと考えたらな。ここに篭って暮らし続ける限り、野菜なんてそうでもしないと手に入らないぜ』
ミチオが着替えを始めた。3週間も穿き続けたズボンを、パツパツのサイクル用パンツに替える。
「キング、まさかホントに自転車で行く気ですかい?」
「リキが珍しく自分から言い出したことなんだ。手助けしてやらないと」
「……死ぬなよ」
「大丈夫。大五郎も連れてくから」
そう言って、ミチオは有刺鉄線巻き巻き金属バットを拾い上げた。
「ついに名前まで付けちまったんですね。渋いネーミングだ」
「昔飼ってた犬の名前だよ」
「やっぱ渋いな」
今はもう動かないエスカレーターを降り、自転車コーナーで電動アシスト機能付き自転車に跨がる。アシスト用の電源スイッチをオンにすると、ひと目盛分のインジケーターが点灯した。バッテリーはかろうじて残っていたようだ。
自転車を漕いで裏口のシャッター前へ。ヨシハルが小穴を覗いている。
「どうだ? 奴さんたちはいるか?」
「シャッターの近くにはいませんね。でも開けたらその音で来るはずなんで、逃げるか倒すかはお任せします」
「おし! じゃあ、開けてくれ!」
ヨシハルはひとつ頷くと、シャッターのロックを解除して思い切り持ち上げた。シャッターの外には今まで倒したゾンビをそのまま放置してあるから腐臭がすごい。そして、十数メートル離れたところに数体のゾンビがヨタヨタと歩いている。
ペダルを踏み込み、半開きになったシャッターの下を潜りミチオは飛び出して行った。
ミチオとリキはホームセンターの屋上で焚き火をしていた。妙な臭いを煙に乗せ燃え盛る炎。ちょっと汚い話で……トイレの水は既に流れなくなっていて、排泄事情が厳しいのだ。なのでとりあえず汚染されたものは全部燃やすことにしている。燃え始めはとても臭いが、炭にして屋上から捨てることでちょっとは悪臭を防げるかもと考えてのことだ。
「そもそもゾンビの臭いがキツいし、オイラたちも風呂に入れないからかなり臭うんだけどな」
「どうしたミチオ。また見えない誰かとお喋りしてるのか」
ミチオからの返答を待つが、彼はだんまりだ。なんでやねん。
気を取り直して、リキは眠い目を擦りながら提案する。
「ガーデニング売り場にある園芸用の土と野菜の種を持ってきてさ、ここで野菜を育てるってのはどうだ?」
炎を見つめて呆けていたミチオは、夜空を見上げ目を細める。雲間には星々の輝き。地上が暗いから星の数が多くてまるでプラネタリウムみたいだ。
「やっぱり、もう誰も生き残ってないのかなぁ。たまにこうして夜、炎を上げてても全然反応ないもん」
「ないもんって可愛く言われても。ところでガーデニング売り場にある園芸用の……」
「いや聞いてた、聞いてたよ。植物って育てるのに何か月かかるんだ?」
「知らんけど。屋上なら雨が降れば水やりの必要ないし、放っておいても育つだろうから、やって損は無いと思うんだよね」
「ガーデニング売り場かぁ、外に出なきゃいけないな。またどっかにゾンビ誘導するか」
「お。さすがキングさんだ。やる気満々じゃん」
その呼び名で、キングことミチオはヨシハルがいないことに気付く。
「あいつ、何してるんだ?」
「もちろん中で寝てるよ。ふぁあ……、俺もめちゃくちゃ眠いんだけど」
「えー? もうちょっと喋ろうぜー。夜はまだまだ長いんだからさ」
「夜は寝るもんなんだよ。ったく、お前の不眠症に合わせてたら死んじまうよ」
「オイラたち、死んだらゾンビになるのかな」
太っちょリキはよっこらしょと立ち上がり、ぐんとひと伸び。
「さあね。でも、このまんま誰にも会えなかったら死んでるようなモンだろ」
それだけ言うと、リキは近くに置かれた寝袋にゴソゴソと入り目を瞑る。
「ミチオ、ちょっとでも寝とけよ。あと雨が降ってきたら起こしてな」
「ああ」
ミチオは汚れたタオルを炎の中へ放り込んで、微笑みを浮かべた。
「付き合ってくれてありがとな、リキ」
……。
「寝るの早っ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カン、カン! と金盥を鳴らすと、音に敏感なタイプのゾンビたちが2階にいるヨシハルを見上げながらフラフラと歩いて来た。ゾンビたちは壁をよじ登ろうとしているのか、手をペタペタと弱々しく擦りつけ続ける。
「やっぱり音だけじゃ半分も誘導出来ないですね。キング、どうします?」
「オイラが自転車で引きつけてもいいんだけどな。動きがトロくてもこの数じゃ、パンクでもしたら終わりだろ」
「野菜のために命を張ることはないと思いますぜ。所詮リキの思い付きですし」
「あいつ、もうスタンバってるのか?」
ヨシハルは無線のスイッチを押し込んだ。
「今、どこにいる?」
『カート置き場。もう勝手口のバリケード外していいかな』
「音だけじゃ誘導し切れない。本気で土と種が欲しいなら、僕かキングが外に出て引きつけるけど、そこまでする必要あるか?」
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ミチオが着替えを始めた。3週間も穿き続けたズボンを、パツパツのサイクル用パンツに替える。
「キング、まさかホントに自転車で行く気ですかい?」
「リキが珍しく自分から言い出したことなんだ。手助けしてやらないと」
「……死ぬなよ」
「大丈夫。大五郎も連れてくから」
そう言って、ミチオは有刺鉄線巻き巻き金属バットを拾い上げた。
「ついに名前まで付けちまったんですね。渋いネーミングだ」
「昔飼ってた犬の名前だよ」
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今はもう動かないエスカレーターを降り、自転車コーナーで電動アシスト機能付き自転車に跨がる。アシスト用の電源スイッチをオンにすると、ひと目盛分のインジケーターが点灯した。バッテリーはかろうじて残っていたようだ。
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「どうだ? 奴さんたちはいるか?」
「シャッターの近くにはいませんね。でも開けたらその音で来るはずなんで、逃げるか倒すかはお任せします」
「おし! じゃあ、開けてくれ!」
ヨシハルはひとつ頷くと、シャッターのロックを解除して思い切り持ち上げた。シャッターの外には今まで倒したゾンビをそのまま放置してあるから腐臭がすごい。そして、十数メートル離れたところに数体のゾンビがヨタヨタと歩いている。
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