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エピローグ
Epilogue1 陽光
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空には雲ひとつ無い。
暖かな陽射しが、シイラの寝顔を優しく包む。
カナルスタ小国の一番大きな街の近く、丘の頂上。
彼女は、自分の腕を枕替わりにして眠っている。
周りには蒼い蝶が飛び交い、まるで彼女が起きるのを待ち侘びている様だ。
丘を上がって来る影があった。
ゆっくりと彼女に近付き、静かに横に座る。
「調子はどうだぁ」
スワビがシイラに声を掛ける。
しばらくの沈黙の後、彼女は目を開け、空を見上げたままで答える。
「暇だな、戦争の頃が懐かしいぜ」
「まだ1年しか経ってないけどなぁ」
そう言ってスワビは笑う。
シイラも、つられて微笑む。
「ス……ビ……」
ふたりの後ろから、リュミオが声を出す。
「リュミオちゃん、少し喋れるようになってきたんだなぁ」
リュミオは黄色い花をスワビに差し出す。
「ハ……」
スワビはその花を受け取り、リュミオに微笑む。
「ありがとう、ルキにあげよう」
固い表情のまま、リュミオは頷く。
立ち上がったスワビが、ルキの墓石にそっと花を置く。
スワビは、隣に立ったリュミオの髪を撫で、空を見上げる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アーメルとルキが消えた後、大陸全土を襲っていた黒い獣は姿を消した。
シイラは各地を廻り、魔物達に、極地へ戻るよう伝えて行った。
そして幾月か過ぎた頃、たくさんの小さな魔物が動かなくなった。
海洋神の力が消失したためか、小さな魔導珠から崩壊していく。やがて、全ての魔物が滅びゆくのだろう。
スワビは、シイラが旅で不在の間、リュミオの面倒を見ることになった。彼はカナルスタ小国の街の復興を手伝いながら、街はずれの小屋で、リュミオに人の子の言葉を教えながら暮らした。
食べ物の名前、道具の名前、草や花、水、空。ゆっくりと人の子の言葉を理解し始めたが、魔物の言葉ではない声を出すことは難しかった。
季節が巡り、シイラはカナルスタ小国に戻った。
リュミオがスワビに懐いていたので、シイラも小屋に暮らすことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アタイ達も、いつか動けなくなるんだろうな」
寝転んだまま、シイラが呟く。
スワビは、シイラの横に座りなおす。
「それまでは楽しく暮らせばいいのさぁ」
「うん、そうだな」
言って、シイラは体を起こし、そっとスワビの肩にもたれかかる。
「ありがとう、スワビ」
リュミオは丘の向こうを眺めて、声を出す練習を始めた。
「ル……」
暖かな陽光が、リュミオの微笑みを照らしていた。
暖かな陽射しが、シイラの寝顔を優しく包む。
カナルスタ小国の一番大きな街の近く、丘の頂上。
彼女は、自分の腕を枕替わりにして眠っている。
周りには蒼い蝶が飛び交い、まるで彼女が起きるのを待ち侘びている様だ。
丘を上がって来る影があった。
ゆっくりと彼女に近付き、静かに横に座る。
「調子はどうだぁ」
スワビがシイラに声を掛ける。
しばらくの沈黙の後、彼女は目を開け、空を見上げたままで答える。
「暇だな、戦争の頃が懐かしいぜ」
「まだ1年しか経ってないけどなぁ」
そう言ってスワビは笑う。
シイラも、つられて微笑む。
「ス……ビ……」
ふたりの後ろから、リュミオが声を出す。
「リュミオちゃん、少し喋れるようになってきたんだなぁ」
リュミオは黄色い花をスワビに差し出す。
「ハ……」
スワビはその花を受け取り、リュミオに微笑む。
「ありがとう、ルキにあげよう」
固い表情のまま、リュミオは頷く。
立ち上がったスワビが、ルキの墓石にそっと花を置く。
スワビは、隣に立ったリュミオの髪を撫で、空を見上げる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アーメルとルキが消えた後、大陸全土を襲っていた黒い獣は姿を消した。
シイラは各地を廻り、魔物達に、極地へ戻るよう伝えて行った。
そして幾月か過ぎた頃、たくさんの小さな魔物が動かなくなった。
海洋神の力が消失したためか、小さな魔導珠から崩壊していく。やがて、全ての魔物が滅びゆくのだろう。
スワビは、シイラが旅で不在の間、リュミオの面倒を見ることになった。彼はカナルスタ小国の街の復興を手伝いながら、街はずれの小屋で、リュミオに人の子の言葉を教えながら暮らした。
食べ物の名前、道具の名前、草や花、水、空。ゆっくりと人の子の言葉を理解し始めたが、魔物の言葉ではない声を出すことは難しかった。
季節が巡り、シイラはカナルスタ小国に戻った。
リュミオがスワビに懐いていたので、シイラも小屋に暮らすことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アタイ達も、いつか動けなくなるんだろうな」
寝転んだまま、シイラが呟く。
スワビは、シイラの横に座りなおす。
「それまでは楽しく暮らせばいいのさぁ」
「うん、そうだな」
言って、シイラは体を起こし、そっとスワビの肩にもたれかかる。
「ありがとう、スワビ」
リュミオは丘の向こうを眺めて、声を出す練習を始めた。
「ル……」
暖かな陽光が、リュミオの微笑みを照らしていた。
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