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第3章 呪いの最期

第51話 火と水、土と風

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 ゆらめく炎、灯火ともしびの下に、長いひげをたくわえたモアーニがいる。

 モアーニがあかく染まった手斧ハンドアックスを振ると、爆炎が魔物を襲う。

「モアーニ、そいつらは味方だ!」

 おれはシイラと共に異形の魔物に乗り、モアーニに近付き呼び掛ける。
 だが、おれの言葉は届いていない様だ。

「あいつの両眼があかい。姉様に操られてんだ!」

 モアーニの後ろから、屍人しびとが次々と現れる。

「なあルキ、あいつどうするんだ、邪魔だぞ」
屍人しびとがモアーニを素通りしてる。あいつは死んだのか」

 そうかもねと言いながら、シイラが異形の魔物から飛び降りる。
 屍人しびとを土の魔術の大鎌おおがまで吹き飛ばしながら、彼女はモアーニに突撃する。

 モアーニがあか手斧ハンドアックスを振り、大鎌おおがまは炎に包まれる。

 シイラは速さを落とさず殴りかかろうとするが、たくさんの屍人がモアーニの前に立ちはだかる。
 彼女は舌打ちして退しりぞく。

 モアーニの表情は変わらず、あか手斧ハンドアックスから炎を生み出し続ける。
 異形の魔物の脚から爆炎が上がり、おれは濡れた地面に振り落とされた。

 寄り付く屍人しびと長剣ロングソードぎ倒す。
 ぬかるみで足が滑り、濡れた手から剣の柄が離れそうになる。

 シイラが加勢して、屍人しびと大鎌おおがまで粉砕していく。

「いったん退くか」
「大丈夫、あれを見な!」

 後方から、街の建物よりも巨大な魔物が、大きな腕を振り回しながら進んでくる。

「苦労して色々とがして来たんだな」

 シイラが笑いながらリュミオに近付く。いつもより小さいのは、集まる素材が少なかったからか。
 リュミオは木材が集まった腕で屍人しびとを押し潰していく。

 おれは周りの屍人しびと退しりぞけ、モアーニに近付く。
 確かに眼があかく、頬がげっそりと痩せこけている。

「本当に死んだのかよ、お前!」

 おれが問いかけると、モアーニは手斧ハンドアックスを振りかざし、攻撃の体勢をとる。
 やるしかない。

 呪いの力を使わず、おれは長剣ロングソードを下に構えて走り出す。仲間だった者にやられるなら、それも戦士の生き方だ。
 だが、走るおれの頭に声が響く。

「ルキ、伏せろ!」

 おれは姿勢を落とし、水溜みずたまりに飛び込む。濡れながら、すぐに頭を上げて前方を見る。

 回転しながら飛んできた土の大鎌おおがまが、おれの頭上を越してモアーニの胸に突き刺さる。
 そのまま後ろに倒れたモアーニは、ぴくりとも動かなくなった。

 いながら近付くと、えぐれた胸の中で魔導珠まどうじゅが割れている。
 モアーニの腰のあたりに、球状の魔道具まどうぐが転がっていた。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 雨が止み、雲間から夜の明かりが辺りを照らし出す。
 屍人しびとと魔物が入り乱れた戦いは続いている。
 シイラが、リュミオに乗って、おれのところへやって来た。

「姉様の気配がするぜ……」

 その言葉を聞くと同時に、おれの右腕に痺れが起きる。
 街の中、灯火ともしびの明かりの届かない闇の奥から、足音が響いて来る。

「どちらの姿がお好みだったかしら」

 美しいいにしえ魔導師まどうしアーメルの姿が、炎の色で照らされる。

「リリシアは、もういないのか」
「ここにいるわ」

 アーメルは胸に手を当てる。

「私を殺せば、リリシアも死ぬよ」

 後ろで詠唱が聞こえる。
 アーメルが薄気味悪い笑顔で言う。

「シイラ、リュミオ、お遊びが過ぎたね! 何百年眠らせてやろうか!」

 おれの横をリュミオの腕が通り過ぎ、同時に土の魔術で現れた大鎌おおがまがアーメルに振り降ろされる。
 ふたつの攻撃がアーメルの姿をき消す。

「幻像か!」

 おれ達はアーメルの姿を探す。
 街を未だに覆う分厚い雲から、氷剣ひょうけんが降り注ぐ。
 リュミオは大きな体でおれとシイラをかばい、氷剣ひょうけんを受け続け、その身を削られていく。

「リュミオが、なくなっちまう!」

 シイラが叫ぶ。

 その時、強い風が吹く。
 氷剣は空へ弾き返される。

 おれ達の周りを取り巻いていた闇が払われ、アーメルの姿がもう一度現れた。

「風の精霊使いか、人の子ごときが……」

 パナタの魔法陣が消える。

「この辺りの風の精霊の力は、全部使い切ったよ」

 笑いながら、パナタはひざまずく。
 おれの横には、ほとんどの素材を削られたリュミナが倒れている。

「シイラ、皆を連れて逃げてくれ」

 おれは長剣ロングソードを構え、アーメルと対峙する。
 シイラから返答は無い。

 アーメルが魔法陣を描きながら、気味の悪い笑い声を出す。

「何が勇者ダイフの意志だ。笑わせるな! この大陸ごと、全部終わらせてやる!」

 おれは、叫びながら地面を蹴った。

「千年越しの別れだ!」
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