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第3章 呪いの最期
第50話 共闘
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強く降りしきる雨が、濡れた服に乾く暇を与えない。
そういえば、あのぼろぼろの鎖かたびらを置いて来てしまった。
戦闘を予期していなかったわけではない。何度も死に、生まれ変わり姿を変え名を変え、今ここにいる。
おれは自分の命を軽く考えているのだろうか。だが、この大陸の未来を知りたいと思ってウォトリスを倒したはず。
おれは……。
森を抜けて丘を登り、最初の街を見下ろすと、おれ達は絶望の光景を目の当たりにすることになった。
屍人の群れが街を徘徊している。人の子の気配は無い。
「まさか、この国全部、屍人に壊されちまったんじゃないか」
ダルドが身をかがめたまま呟く。有志である戦士達は言葉が出ない様子だ。
パナタは目を瞑ったまま、風の精霊を飛ばして偵察を続けている。
見えるだけでも、三百体ほどの屍人の群れ。おれ達だけで倒すことは出来ないだろう。
「まぁ、ルキ達だけじゃ無理だよなぁ」
聞いたことのある口調で、声が後ろからかかる。
振り返ると、頭の上に両腕を組むいつもの姿勢で、スワビが立っていた。
「スワビ、ひとりか」
「残念だけど、オイラひとりだったら、何の役にも立たねぇよ」
そう言って、彼は街とは反対の方向を指差す。
指示された方を見遣ると、少し離れた所に、人面に脚が生えた異形の魔物が留まっていた。
いつの間にか、おれの傍にシイラとリュミオが立っていた。
「人の子だけじゃ、奴等の数には敵わないぜ」
シイラが笑顔で甲高い声を出す。リュミオはじっと街を見下ろしている。
おれの肩に手を置き、シイラが続ける。
「ルキ、最後のお願いだ。アーメルを殺してくれ」
表情は真剣だ。
呪いは呪いでしか倒せない。
シイラは本気でアーメルを消したがっている。
それが自分のためでも大陸のためでも、おれの目的と相違無いので理由は聞かない。
スワビが割って入る。
「丘の下に数え切れないくらいの魔物が待機してるぞぉ」
「屍人と戦ってくれるのか」
おれの問いに、シイラは街を見下ろしながら答える。
「クライモニスの穴に棲む魔物、全部連れてきてやったぜ!」
パナタが目を開けて、風の精霊が見た光景を教えてくれた。
「次の街も、その次の街も、屍人の群れで溢れてる」
この国は壊滅してしまった様だ。
シイラが足踏みしながら声を荒げる。
「なあ、早く行こう!」
おれはダルドと、修練場からついて来てくれた戦士達へ、状況を説明する。
シイラとリュミオが魔物だと知って恐れおののく者もいたが、王都に戻ろうとする者はいない。王都を出たときには覚悟を決めていたのだろう。
「魔物はおれ達を攻撃しないと思うが、巻き添えにならない様にしてくれ」
言いながらリュミオを見ると、目が合った。
表情無く、すぐに彼女は目を逸らした。
おれも覚悟を決める。きっとこの先にアーメルがいるはずだ。
「シイラ、始めよう」
シイラが満面の笑みを浮かべ、耳を劈く様な咆哮を上げる。
丘の下から、土煙とともに轟音が上がってくる。ばらばらに走り来る魔物は、動物や虫の形態ではない。人面に脚が生えていたり、身体からいくつもの顔が生えていたり、いずれも異形。クライモニスで何が起こっていたのだろうか。
魔物の突撃を躱す。
おれ達には目もくれず、魔物は街へ向かって丘を下りて行く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
すぐに、魔物と屍人の群れの戦いが始まった。魔物の方が数は少ないが、屍人の攻撃を許さず、次々と粉砕して進んで行く。
おれ達も丘を下りる。魔物に続いて走り、残った屍人を斬りながら次の街へ進んで行く。
シイラとリュミオを乗せた異形の魔物は、ずっと先を駆けて行く。
スワビが走りながら言う。
「何にも聞かされないまま、あいつらに連れてこられたんだ! 後で説明してくれよぉ!」
「お前も、おれも、生きて帰れたらな!」
雨でぬかるんだ道を、大勢の魔物とともに走り抜けていく。休む間もなく、街から街へと走り続けていると、遠くの山々の間に微かな夕陽の色が見えた。
辺りが暗くなると人の子には不利だ。そう思いながら走り、いくつもの街を通り過ぎると、やがて大きな街が見えてきた。
「ルキ、灯りだ、人の子がいるのかな」
パナタが大きな声を上げる。
その時、先行している魔物達の群れの辺りで大きな炎が上がった。
シイラとリュミオを乗せた異形の魔物が引き返して来た。
「アタイの見たことのある奴がいたぜ。あんたと一緒にいた、髭の長い奴!」
シイラが遠くから叫んだのが聞こえた。
おれとパナタ、スワビは立ち止まり、顔を見合わせた。
「モアーニか」
そういえば、あのぼろぼろの鎖かたびらを置いて来てしまった。
戦闘を予期していなかったわけではない。何度も死に、生まれ変わり姿を変え名を変え、今ここにいる。
おれは自分の命を軽く考えているのだろうか。だが、この大陸の未来を知りたいと思ってウォトリスを倒したはず。
おれは……。
森を抜けて丘を登り、最初の街を見下ろすと、おれ達は絶望の光景を目の当たりにすることになった。
屍人の群れが街を徘徊している。人の子の気配は無い。
「まさか、この国全部、屍人に壊されちまったんじゃないか」
ダルドが身をかがめたまま呟く。有志である戦士達は言葉が出ない様子だ。
パナタは目を瞑ったまま、風の精霊を飛ばして偵察を続けている。
見えるだけでも、三百体ほどの屍人の群れ。おれ達だけで倒すことは出来ないだろう。
「まぁ、ルキ達だけじゃ無理だよなぁ」
聞いたことのある口調で、声が後ろからかかる。
振り返ると、頭の上に両腕を組むいつもの姿勢で、スワビが立っていた。
「スワビ、ひとりか」
「残念だけど、オイラひとりだったら、何の役にも立たねぇよ」
そう言って、彼は街とは反対の方向を指差す。
指示された方を見遣ると、少し離れた所に、人面に脚が生えた異形の魔物が留まっていた。
いつの間にか、おれの傍にシイラとリュミオが立っていた。
「人の子だけじゃ、奴等の数には敵わないぜ」
シイラが笑顔で甲高い声を出す。リュミオはじっと街を見下ろしている。
おれの肩に手を置き、シイラが続ける。
「ルキ、最後のお願いだ。アーメルを殺してくれ」
表情は真剣だ。
呪いは呪いでしか倒せない。
シイラは本気でアーメルを消したがっている。
それが自分のためでも大陸のためでも、おれの目的と相違無いので理由は聞かない。
スワビが割って入る。
「丘の下に数え切れないくらいの魔物が待機してるぞぉ」
「屍人と戦ってくれるのか」
おれの問いに、シイラは街を見下ろしながら答える。
「クライモニスの穴に棲む魔物、全部連れてきてやったぜ!」
パナタが目を開けて、風の精霊が見た光景を教えてくれた。
「次の街も、その次の街も、屍人の群れで溢れてる」
この国は壊滅してしまった様だ。
シイラが足踏みしながら声を荒げる。
「なあ、早く行こう!」
おれはダルドと、修練場からついて来てくれた戦士達へ、状況を説明する。
シイラとリュミオが魔物だと知って恐れおののく者もいたが、王都に戻ろうとする者はいない。王都を出たときには覚悟を決めていたのだろう。
「魔物はおれ達を攻撃しないと思うが、巻き添えにならない様にしてくれ」
言いながらリュミオを見ると、目が合った。
表情無く、すぐに彼女は目を逸らした。
おれも覚悟を決める。きっとこの先にアーメルがいるはずだ。
「シイラ、始めよう」
シイラが満面の笑みを浮かべ、耳を劈く様な咆哮を上げる。
丘の下から、土煙とともに轟音が上がってくる。ばらばらに走り来る魔物は、動物や虫の形態ではない。人面に脚が生えていたり、身体からいくつもの顔が生えていたり、いずれも異形。クライモニスで何が起こっていたのだろうか。
魔物の突撃を躱す。
おれ達には目もくれず、魔物は街へ向かって丘を下りて行く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
すぐに、魔物と屍人の群れの戦いが始まった。魔物の方が数は少ないが、屍人の攻撃を許さず、次々と粉砕して進んで行く。
おれ達も丘を下りる。魔物に続いて走り、残った屍人を斬りながら次の街へ進んで行く。
シイラとリュミオを乗せた異形の魔物は、ずっと先を駆けて行く。
スワビが走りながら言う。
「何にも聞かされないまま、あいつらに連れてこられたんだ! 後で説明してくれよぉ!」
「お前も、おれも、生きて帰れたらな!」
雨でぬかるんだ道を、大勢の魔物とともに走り抜けていく。休む間もなく、街から街へと走り続けていると、遠くの山々の間に微かな夕陽の色が見えた。
辺りが暗くなると人の子には不利だ。そう思いながら走り、いくつもの街を通り過ぎると、やがて大きな街が見えてきた。
「ルキ、灯りだ、人の子がいるのかな」
パナタが大きな声を上げる。
その時、先行している魔物達の群れの辺りで大きな炎が上がった。
シイラとリュミオを乗せた異形の魔物が引き返して来た。
「アタイの見たことのある奴がいたぜ。あんたと一緒にいた、髭の長い奴!」
シイラが遠くから叫んだのが聞こえた。
おれとパナタ、スワビは立ち止まり、顔を見合わせた。
「モアーニか」
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