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第3章 呪いの最期
第48話 狼煙
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「これじゃだめだ」
ダルドがおれの鎖かたびらを机の上に放る。
「錆びてるし、こんなボロいので今までよく戦ってたな」
ウォトリスを倒してから、十夜が過ぎた。
おれの左肩の傷は深く、パナタがよく効くという薬草を塗ってくれた後も、ずっと力が入らないままだ。
一度死んだ時も、やり直しの時も、ダガーで簡単に刺された。鎖かたびらが壊れていたので、ダルドに防具の相談をしていた。
旅をするために、重い鎧でなく軽い鎖かたびらをずっと身に付けていたが、けちってそのまま使い続けてこの様である。
「ルキ。東の方の国では、魔物の牙をも通さない鎧を造っているらしいぞ」
「鎧か。まだまだ旅をするからな。重過ぎるだろう」
できるだけ軽い防具を探すよう依頼して、おれは王都の防壁を見に行くことにした。黒い獣の最期の悪あがきで一部が崩れており、修復の作業中だった。
あの時、おれが防壁の上に飛ばされた後、ウォトリスは後ろから襲いかかって来た。直前に呪いの力を使って黒い獣と戦ったせいで、呪いの気配が分からなかった。そう思っていた。
だが、憶い返せば、北の極地へと一緒に旅した時は、ウォトリスにもリリシアにも、何も感じなかった。
リリシアとアーメルのように、ウォトリスも、入れ物としての身体にふたつの違う心が入っていたのだと思う。
古の戦いで、アーメルに従っていた名も知れぬ亜人は、ウォトリスのもうひとつの心だろう。
そしてアーメルもまた、リリシアという入れ物に入ったもうひとつの心。
ならば、おれの知る限り、残りの呪いはおれとアーメルだ。
この大陸の未来を変えることは、呪いを全て葬ることと同じ。それを叶えるために、今おれにできることはひとつしかない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
修練場に戻ると、パナタが薬草をすり潰していた。
「パナタ、リリシアがどこに向かったか、分かるか?」
彼は頭を上げて、何かを思い出した様な表情で答える。
「そういえば、あの騒動のすぐ後だったかな、研究所の方に歩いて行くのを見たよ」
おれひとりでは入れないので、ダルドに連れられて研究所へ入る。各地の国の様子が、幻像となり壁に映し出されている。
忙しそうだが、魔導師をひとり捕まえて、リリシアの特徴を伝える。
「確かに十日くらい前、急ぎでカナルスタ小国の様子を見てた女がいたな」
カナルスタ小国と聞いて、おれは自分の両手を見る。その国は古の、勇者ダイフと出会う前におれがシイラを殺めた場所だ。おれのせいで一度滅び、長い平和の中で再起した小国。
カナルスタ小国の幻像を眺める。平原の向こうに街が映る。
どこかの街から、白い煙が上がっている。
「神獣の戦いか?」
おれが思わず声を出すと、ダルドが幻像を見に来る。
「それとも、ただの火事かな」
問うと、ダルドは首を横に振って答える。
「違うな。あれは、他の国から攻め込まれた時に使う狼煙だ」
ダルドがおれの鎖かたびらを机の上に放る。
「錆びてるし、こんなボロいので今までよく戦ってたな」
ウォトリスを倒してから、十夜が過ぎた。
おれの左肩の傷は深く、パナタがよく効くという薬草を塗ってくれた後も、ずっと力が入らないままだ。
一度死んだ時も、やり直しの時も、ダガーで簡単に刺された。鎖かたびらが壊れていたので、ダルドに防具の相談をしていた。
旅をするために、重い鎧でなく軽い鎖かたびらをずっと身に付けていたが、けちってそのまま使い続けてこの様である。
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「鎧か。まだまだ旅をするからな。重過ぎるだろう」
できるだけ軽い防具を探すよう依頼して、おれは王都の防壁を見に行くことにした。黒い獣の最期の悪あがきで一部が崩れており、修復の作業中だった。
あの時、おれが防壁の上に飛ばされた後、ウォトリスは後ろから襲いかかって来た。直前に呪いの力を使って黒い獣と戦ったせいで、呪いの気配が分からなかった。そう思っていた。
だが、憶い返せば、北の極地へと一緒に旅した時は、ウォトリスにもリリシアにも、何も感じなかった。
リリシアとアーメルのように、ウォトリスも、入れ物としての身体にふたつの違う心が入っていたのだと思う。
古の戦いで、アーメルに従っていた名も知れぬ亜人は、ウォトリスのもうひとつの心だろう。
そしてアーメルもまた、リリシアという入れ物に入ったもうひとつの心。
ならば、おれの知る限り、残りの呪いはおれとアーメルだ。
この大陸の未来を変えることは、呪いを全て葬ることと同じ。それを叶えるために、今おれにできることはひとつしかない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
修練場に戻ると、パナタが薬草をすり潰していた。
「パナタ、リリシアがどこに向かったか、分かるか?」
彼は頭を上げて、何かを思い出した様な表情で答える。
「そういえば、あの騒動のすぐ後だったかな、研究所の方に歩いて行くのを見たよ」
おれひとりでは入れないので、ダルドに連れられて研究所へ入る。各地の国の様子が、幻像となり壁に映し出されている。
忙しそうだが、魔導師をひとり捕まえて、リリシアの特徴を伝える。
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