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第2章 光と闇
第43話 知らせの糸
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パナタが小走りのまま言う。
「そんなの、僕達だけで出来るわけないんだよ」
「だから、ここに来たんだ。ここから大陸中に新たな言葉を広げたい」
おれはシイラと話した後、急ぎパナタの古里を訪れた。風の里には多くの魔導師達がいるはずで、風の魔術で他の国々に言葉を送ることが出来るのではと思った。
偶然にも、同じくしてパナタが古里を訪れていた。
彼が言うには、普通の魔術では、それほど広い地域に言葉を届けることはできないらしい。
それで、普段は会うことを許されていない、風の総帥の居場所に向かっている。
「老人は前と同じ、山頂にいるのか」
「ルキ、老人じゃなくて総帥だよ。居場所は父さんに聞いたから大丈夫」
以前は、不思議な力で山頂に飛ばされて総帥に会うことができた。今は、雪の降る高い山を急いで歩き、登っている。
防寒の服は着ているものの、隙間から入り込む寒さが身を突く。火が欲しいと、おれはウォトリスの顔を思い出していた。
「パナタは火の魔術、使えないんだったな」
「風の精霊にとっては火の精霊は恐怖の存在だからね。僕は風の里の者。風の精霊の気持ちを大切にしているのさ」
精霊の気持ち……。
おれ達は登り続け、雲に手が届きそうな山の頂きに到達した。不思議と寒さは感じなくなっていた。
大きな岩の上に座った老人が、おれ達の来訪を予見していたかのように、目を細めてこちらを見つめている。
「古の約束は、まだ果たされていない様だな」
老人がおれを見据えて呟く。
「おれは大陸中に言葉を伝えたいんです。おれ自身のことは……」
「全ては繋がっている。過去があり、今があり、未来があるのだ」
パナタがおれの肩を押す。
分かってる。
「おれはたくさんの命を奪ってしまった。それでも今のおれは、人の子が愛しているこの大陸を失いたくない。大陸の未来を失わないよう、できる全てのことをしたいんです」
風の総帥は、目を閉じて唇を小さく震わせる。
おれはパナタと目を合わせ、しばらく待つ。
やがて、風の総帥はゆっくりと目を開ける。
「知らせの糸を使う」
風の総帥の後ろの景色に、煌めく細い筋の様なものがたくさん見えてきた。
パナタがそれを眺めながら言う。
「初めて見た。これで大陸中の魔導師達に言葉を伝えられるはずだよ」
おれは糸の様なものに触れようとする。
「それを使えるのは一度きりだ。何年も時間をかけて準備をしている力なのだぞ」
風の総帥の声におれは手を引く。一度だけ……どんな言葉を使うべきだろうか。
おれは山頂から景色を見下ろし考える。人の子を助け、大陸を守るという魔物の意志を伝えたい。今まで畏怖してきた魔物を信じろというのはとても難しいことだろう。それでも……。
おれは煌めく糸に手を伸ばす。
「これから人の子と魔物は、黒き獣に克ち、同じ未来へ向かう」
「そんなの、僕達だけで出来るわけないんだよ」
「だから、ここに来たんだ。ここから大陸中に新たな言葉を広げたい」
おれはシイラと話した後、急ぎパナタの古里を訪れた。風の里には多くの魔導師達がいるはずで、風の魔術で他の国々に言葉を送ることが出来るのではと思った。
偶然にも、同じくしてパナタが古里を訪れていた。
彼が言うには、普通の魔術では、それほど広い地域に言葉を届けることはできないらしい。
それで、普段は会うことを許されていない、風の総帥の居場所に向かっている。
「老人は前と同じ、山頂にいるのか」
「ルキ、老人じゃなくて総帥だよ。居場所は父さんに聞いたから大丈夫」
以前は、不思議な力で山頂に飛ばされて総帥に会うことができた。今は、雪の降る高い山を急いで歩き、登っている。
防寒の服は着ているものの、隙間から入り込む寒さが身を突く。火が欲しいと、おれはウォトリスの顔を思い出していた。
「パナタは火の魔術、使えないんだったな」
「風の精霊にとっては火の精霊は恐怖の存在だからね。僕は風の里の者。風の精霊の気持ちを大切にしているのさ」
精霊の気持ち……。
おれ達は登り続け、雲に手が届きそうな山の頂きに到達した。不思議と寒さは感じなくなっていた。
大きな岩の上に座った老人が、おれ達の来訪を予見していたかのように、目を細めてこちらを見つめている。
「古の約束は、まだ果たされていない様だな」
老人がおれを見据えて呟く。
「おれは大陸中に言葉を伝えたいんです。おれ自身のことは……」
「全ては繋がっている。過去があり、今があり、未来があるのだ」
パナタがおれの肩を押す。
分かってる。
「おれはたくさんの命を奪ってしまった。それでも今のおれは、人の子が愛しているこの大陸を失いたくない。大陸の未来を失わないよう、できる全てのことをしたいんです」
風の総帥は、目を閉じて唇を小さく震わせる。
おれはパナタと目を合わせ、しばらく待つ。
やがて、風の総帥はゆっくりと目を開ける。
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