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第2章 光と闇
第30話 弾劾
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監視塔の1階にて集会が始まった。
今朝、異形の魔物が砂漠からやって来て、さらに、砂蟲も暴れた。全部シイラのせいだが、彼女は言いたいことを言って、すぐに砂漠に戻って行ってしまった。
番兵が異形の魔物の話を言いふらしたせいで、砂の都のお偉いさんが詳しい話を聞きたいと、やって来た様だ。
白装束を纏った老人がおれの方を向いて口を開く。
「ルキと言ったか、あなたの旅の目的を聞こう」
「おれは遥か東のクライモニスに行きます」
集まった数十人が騒つく。
老人も眉を顰め、続ける。
「魔物に乗って砂蟲と戦ったと聞いたが」
「知らない女の戦いに巻き込まれただけです」
あの時一緒にいた番兵が、おれを指差し、声を上げる。
「異形の魔物に乗っていた者は、この男の名を知っていました。親しげに話している様に見えました」
「ほう、ではもう一度目的を問おう。クライモニスで何をする気だ」
老人はおれを睨みながら問う。
「旅人になぜ旅をするのかを聞いて、何の意味があるのでしょうか」
おれの答えに、数人が怒り声で騒ぎ始める。
老人がそれを制止する。
「絞首刑にされたくなければ、すぐに都から出て行け」
おれの弾劾となった集会が終わり、おれは宿へ荷物を取りに戻る。少し距離を置いて、都の警備兵が歩いて来る。
スワビ達は宿に居なかったので、荷物だけ持って宿を出た。市場を通り過ぎる時、モアーニが建物の影からこちらの様子を見ていることにおれは気付いた。
都に入ったのと同じ門をくぐり、外に出る。警備兵が声を掛けてくる。
「なあ、本当にクライモニスへ行くのか」
「そうだ。もう迷惑はかけないよ」
彼は辺りを見廻し、小さな声で囁く。
「本当はな。皆、あそこに何があるのか知りたくてたまらないんだ」
悪戯な笑顔で続ける。
「もし戻ることができたら酒を奢るから、存分に語ってくれ」
彼は、都の南に小さな街があると言い、預けてあった風馬を連れてきてくれた。
おれは感謝を伝え、都を後にした。
風馬を馳せ、街を目指しながら、考えを巡らす。
シイラはおれの今の名を知っていた。だが、アーメルがおれのことを話したのなら、本当の名を伝えるはずだ。
なんとなく、シイラは前にリリシアからおれの名を聞いたのではと思う。きっとおれと北へ旅する前に、リリシアはここに来ていたのだろう。
そして、シイラはなぜ、姉様と呼ぶアーメルが消えることを望むのか。
風馬の速さで魔物を避けながら、南へ夜通し奔り抜け、高地にある小さな街に辿り着いた。幸い、都での魔物事件の噂は届いていない様子だ。
宿の近くの食堂でパンを齧っていると、モアーニが椅子にどかっと腰を下ろした。
「勝手なことばかりしやがって」
彼はにやりと笑い、焼けた干し肉をつまむ。
「巻き込まれただけだよ。それでも、皆を無理矢理連れて行くつもりも無かったさ」
「それが勝手だって言ってんだぁ」
スワビが後ろからおれの頭を小突いた。
「命をかけて行くんだから、珍しい鉱石があったらいいけど」
パナタが笑いながらおれの酒を飲み干した。
おれが彼等になんと答えようか迷っていると、建物の外の景色が突然陽の光を失う。
悲鳴が聞こえ、おれ達は食堂から飛び出す。
見上げた空に、人面から黒い翼を生やした巨大な異形の魔物が浮かんでいた。
今朝、異形の魔物が砂漠からやって来て、さらに、砂蟲も暴れた。全部シイラのせいだが、彼女は言いたいことを言って、すぐに砂漠に戻って行ってしまった。
番兵が異形の魔物の話を言いふらしたせいで、砂の都のお偉いさんが詳しい話を聞きたいと、やって来た様だ。
白装束を纏った老人がおれの方を向いて口を開く。
「ルキと言ったか、あなたの旅の目的を聞こう」
「おれは遥か東のクライモニスに行きます」
集まった数十人が騒つく。
老人も眉を顰め、続ける。
「魔物に乗って砂蟲と戦ったと聞いたが」
「知らない女の戦いに巻き込まれただけです」
あの時一緒にいた番兵が、おれを指差し、声を上げる。
「異形の魔物に乗っていた者は、この男の名を知っていました。親しげに話している様に見えました」
「ほう、ではもう一度目的を問おう。クライモニスで何をする気だ」
老人はおれを睨みながら問う。
「旅人になぜ旅をするのかを聞いて、何の意味があるのでしょうか」
おれの答えに、数人が怒り声で騒ぎ始める。
老人がそれを制止する。
「絞首刑にされたくなければ、すぐに都から出て行け」
おれの弾劾となった集会が終わり、おれは宿へ荷物を取りに戻る。少し距離を置いて、都の警備兵が歩いて来る。
スワビ達は宿に居なかったので、荷物だけ持って宿を出た。市場を通り過ぎる時、モアーニが建物の影からこちらの様子を見ていることにおれは気付いた。
都に入ったのと同じ門をくぐり、外に出る。警備兵が声を掛けてくる。
「なあ、本当にクライモニスへ行くのか」
「そうだ。もう迷惑はかけないよ」
彼は辺りを見廻し、小さな声で囁く。
「本当はな。皆、あそこに何があるのか知りたくてたまらないんだ」
悪戯な笑顔で続ける。
「もし戻ることができたら酒を奢るから、存分に語ってくれ」
彼は、都の南に小さな街があると言い、預けてあった風馬を連れてきてくれた。
おれは感謝を伝え、都を後にした。
風馬を馳せ、街を目指しながら、考えを巡らす。
シイラはおれの今の名を知っていた。だが、アーメルがおれのことを話したのなら、本当の名を伝えるはずだ。
なんとなく、シイラは前にリリシアからおれの名を聞いたのではと思う。きっとおれと北へ旅する前に、リリシアはここに来ていたのだろう。
そして、シイラはなぜ、姉様と呼ぶアーメルが消えることを望むのか。
風馬の速さで魔物を避けながら、南へ夜通し奔り抜け、高地にある小さな街に辿り着いた。幸い、都での魔物事件の噂は届いていない様子だ。
宿の近くの食堂でパンを齧っていると、モアーニが椅子にどかっと腰を下ろした。
「勝手なことばかりしやがって」
彼はにやりと笑い、焼けた干し肉をつまむ。
「巻き込まれただけだよ。それでも、皆を無理矢理連れて行くつもりも無かったさ」
「それが勝手だって言ってんだぁ」
スワビが後ろからおれの頭を小突いた。
「命をかけて行くんだから、珍しい鉱石があったらいいけど」
パナタが笑いながらおれの酒を飲み干した。
おれが彼等になんと答えようか迷っていると、建物の外の景色が突然陽の光を失う。
悲鳴が聞こえ、おれ達は食堂から飛び出す。
見上げた空に、人面から黒い翼を生やした巨大な異形の魔物が浮かんでいた。
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