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第2章 光と闇
第28話 接近
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砂で覆われた都の入り口で、門番に献上物を渡す。モアーニの手持ちの土産が役に立った。乾燥した果実や魚が珍しいらしく、門番達はしげしげと眺めていた。
許可を得て門を通過する。
砂漠の都クヌワラートは高い壁で囲われ、砂嵐の流入を防いでいる。家々の石壁は、様々な色の鉱石で彩られていた。煌びやかな雰囲気の住宅を通り過ぎ、市場を抜け、宿を探す。
魔物の多い東の国で、しかも砂嵐の中を旅する者は少ない。だからなのか、都の中に宿はそれほど多くない様だ。
陽の高い刻から探し始めたのに、宿を見つけたのは、遠くの景色に夕陽が落ち始める頃だった。
4人が泊まれる大きな相部屋を取り、荷物を置き、市場へ夕食のため出掛ける。野草は全く採れないらしく、肉のスープに硬いパンを浸して食べる料理と、白く濁った酒を頼んだ。
夕食の途中で、おれは彼らに、砂漠での目的を伝えることにした。
「ここからさらに東の、砂漠の極地クライモニスには、倒さなければいけない古の呪いがあるはずだ」
パナタが驚いて、おれに問う。
「ルキ。呪いの話をしても大丈夫なのか」
「さあな。でも、このまま何も知らせずに、お前達を連れて行くわけにはいかないからな」
スワビとモアーニは、酒を飲む手を止め、おれの話を聴こうとする。
「そこにはきっと異形の魔物や、見たこともない力を持つ何かがいて、命を落とすかも知れない……おれは、命を落とす覚悟で行くつもりだ」
おれの両腕に痺れが走る。
彼らは目を合わせる。おれは、さらに続ける。
「パナタはこの辺りで価値のある鉱石を探せばいいし、スワビも、モアーニも、ここまでよく一緒に来てくれたと思う。でも、おれの勝手な目的のために命を粗末にする必要はない」
「ルキよぉ。何を今さら……」
スワビは何か言いかけたが、頭を振って、食事を再開した。
この先どうするかは、この都に滞在している間、各々考えることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食を終え、おれは市場で砂漠のことを尋ねて回った。
聞いた相手は皆、東の砂漠の極地クライモニスには近付かない方が良いと口にした。中心に向かって砂嵐が渦巻いており、一度入ると抜け出せなくなるため、過去、資源を求めて旅立った者は誰も戻って来ていないらしい。
さらに、言い伝えでは、砂漠の地下に魔物の国があると言う。
翌朝、おれは都のはずれにある監視塔に登っていた。砂漠から飛来する魔物を監視する役目のこの建物は、平時では冒険者の立ち入りが許されていると聞いた。
砂漠の方を向いて考えを巡らす。
北の極地で勇者ダイフと対峙した時は、仲間のことまで心配する必要がなかった。リリシアは呪いのことを知った上で、自分の使命だと言ってついて来た。ウォトリスは、自分の魔術を磨くために、命を落とす覚悟すらしていた。
ダイフはおれに会えたら消えるつもりだったのだろう。あいつの呪いの力は、両腕だけのおれの呪いよりも弱かった。
だが、次の呪いは強力かも知れない。
砂漠の極地クライモニスに存在する呪いが、あの魔導師アーメルで、例えば彼女が今も永遠の生命に執着しているとしたら。
おれは、彼女が愛した勇者ダイフの最期を、彼女へ伝えるべきだろうか。伝えた上で、呪いの宿命を果たすためにお前も消えろと言えるだろうか。それとも、彼女はすでにダイフが消えたことを知っていて、復讐のため、おれが来るのを待っているのだろうか。
考えを巡らせていると、ふと、遠くの砂漠と空の境界に、砂煙が立ち昇っているのが見えた。
監視塔の番兵と一緒に塔から降りて、都の壁の外に出る。
砂煙は勢いをつけてこちらへ向かって来る。
多足に巨大な人の顔が生えた様な異形の魔物。
その魔物の上に、白いローブを着た亜人の女が、笑顔で乗っていた。
許可を得て門を通過する。
砂漠の都クヌワラートは高い壁で囲われ、砂嵐の流入を防いでいる。家々の石壁は、様々な色の鉱石で彩られていた。煌びやかな雰囲気の住宅を通り過ぎ、市場を抜け、宿を探す。
魔物の多い東の国で、しかも砂嵐の中を旅する者は少ない。だからなのか、都の中に宿はそれほど多くない様だ。
陽の高い刻から探し始めたのに、宿を見つけたのは、遠くの景色に夕陽が落ち始める頃だった。
4人が泊まれる大きな相部屋を取り、荷物を置き、市場へ夕食のため出掛ける。野草は全く採れないらしく、肉のスープに硬いパンを浸して食べる料理と、白く濁った酒を頼んだ。
夕食の途中で、おれは彼らに、砂漠での目的を伝えることにした。
「ここからさらに東の、砂漠の極地クライモニスには、倒さなければいけない古の呪いがあるはずだ」
パナタが驚いて、おれに問う。
「ルキ。呪いの話をしても大丈夫なのか」
「さあな。でも、このまま何も知らせずに、お前達を連れて行くわけにはいかないからな」
スワビとモアーニは、酒を飲む手を止め、おれの話を聴こうとする。
「そこにはきっと異形の魔物や、見たこともない力を持つ何かがいて、命を落とすかも知れない……おれは、命を落とす覚悟で行くつもりだ」
おれの両腕に痺れが走る。
彼らは目を合わせる。おれは、さらに続ける。
「パナタはこの辺りで価値のある鉱石を探せばいいし、スワビも、モアーニも、ここまでよく一緒に来てくれたと思う。でも、おれの勝手な目的のために命を粗末にする必要はない」
「ルキよぉ。何を今さら……」
スワビは何か言いかけたが、頭を振って、食事を再開した。
この先どうするかは、この都に滞在している間、各々考えることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食を終え、おれは市場で砂漠のことを尋ねて回った。
聞いた相手は皆、東の砂漠の極地クライモニスには近付かない方が良いと口にした。中心に向かって砂嵐が渦巻いており、一度入ると抜け出せなくなるため、過去、資源を求めて旅立った者は誰も戻って来ていないらしい。
さらに、言い伝えでは、砂漠の地下に魔物の国があると言う。
翌朝、おれは都のはずれにある監視塔に登っていた。砂漠から飛来する魔物を監視する役目のこの建物は、平時では冒険者の立ち入りが許されていると聞いた。
砂漠の方を向いて考えを巡らす。
北の極地で勇者ダイフと対峙した時は、仲間のことまで心配する必要がなかった。リリシアは呪いのことを知った上で、自分の使命だと言ってついて来た。ウォトリスは、自分の魔術を磨くために、命を落とす覚悟すらしていた。
ダイフはおれに会えたら消えるつもりだったのだろう。あいつの呪いの力は、両腕だけのおれの呪いよりも弱かった。
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