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第2章 光と闇
第27話 砂漠の都
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渇き切った土がひび割れ、干涸びた低木の点在する荒地で、おれ達は4頭の風馬を馳せる。
すぐ背後には多足の魔物の群れが迫って来ている。
「スワビ、一番でかい蜘蛛に地幕の矢を!」
「任せてぇ!」
スワビは風馬の上で振り向き、土の魔術のかかった矢を放つ。光を纏った矢が魔物の手前の荒地に刺さり、土壁を生成する。
速度を上げていた巨大蜘蛛はそのまま土壁にぶつかり衝撃で動きを止める。
残った小さな土蜘蛛が3体、速度を落とさずに迫ってくる。
小さいとはいえ人の大きさほどはあるので、追いつかれたら風馬に噛みついて動きを止められてしまうだろう。
「パナタは左の蜘蛛、モアーニは真ん中の蜘蛛を狙え!」
2人は頷き、球状の魔道具を取り出す。
おれの指笛を合図に、魔道具を後ろへ放り投げる。魔道具は荒地で跳ねた瞬間、炎を上げて爆発した。
巻き込まれた2体の魔物が、残った脚をその場でばたつかせる。大きく抉られたその身から魔導珠がこぼれ落ちる。
残った無傷の1体は、なおもこちらに向かい進んで来る。
おれは長剣を構え、風馬から後ろへ飛ぶ。身体を回転させながら、土蜘蛛の口のすぐ右側に剣を突き立てる。そのまま荒地に、受け身をとりながら転がり落ちる。
剣が突き刺さった土蜘蛛は、しばらくその場で脚を動かし、黒い砂となり崩れ落ちた。
遅れて巨大蜘蛛がこちらに向かってくるのが見える。
「僕がやるよ!」
パナタはそう言って、宙に両手で黄土色の魔法陣を描く。
巨大蜘蛛の脚元から尖った石がせり出し、魔物を数十本の針石で串刺しにする。
どれかが魔導珠に当たったのか、巨大蜘蛛は生気を失い、表面からひび割れて荒地へぼたぼたと落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「だんだん魔物が増えてきたな」
モアーニが肩をすくめて言う。口を開くと砂が入ってくるので、おれは渋い表情で頷く。
おれ達はまたそれぞれの風馬に跨り、砂混じりで乾いた風の吹き荒ぶ荒地を進んで行く。
幾月か前に王都に戻った時、スワビは怪物に破壊された城下街の修復に携わった功績で、家を与えられていた。
しばらくスワビの家に泊まっていたが、おれが今度は東へ行くと伝えると、さっさと家を売り旅の資金にしてしまった。
「やっぱり旅だよ。旅ぃ!」
彼は、ひと所には居られないたちらしい。
パナタは研究所で薬草の栽培をしていた。旅商人から、東の国に薬草よりも再生の効果の強い鉱物があると聞き、旅の途中だった。王都に寄ったところで、ばったりおれ達と出くわした。傭兵を雇っていたものの、それほど役に立たないのに、お金がめっぽうかかるらしく、おれ達に合流した。傭兵には渋られたらしい。
モアーニはいつの間にかおれ達の後ろから付いて来ていた。特に何を言うでもなく、天幕を張って焚火に当たっていたところ、どこかの名産という干した魚をおれ達に寄越した。それはとても美味しく、特にスワビがそれを気に入った。もっとくれ、もっとくれと、彼に取り憑いていた。
おれ達4人は王都から東に向かい、数十夜を経て、平原を越え荒地に到達した。
荒地の手前の大きな街で、人の歩く速さでは魔物の多い荒地を越えられないと聞き、風馬を買った。風馬は脚に風の力を纏っており、1日で人の何十日分もの距離を進むことができる。翼を持つが、高い所から落ちる時に滑空できるだけで、空を飛ぶことはできないらしい。
移動の手段と食糧を準備して、おれ達は荒地ヘと踏み出し、何度かの魔物の襲撃を受けながらも進んでいる。
だが、おれはまだ彼らに、砂漠にあるはずの呪いの話はしていない。
パナタとは、少し呪いの話をしたことがある。おれ自身の呪いのことは言えなかったし、それは今も変わらない。
砂漠に着く前には、どこかで話そうと思っていた。
スワビの明るさに引きずられてなんとなく、ここまで暗い話ができなかった。いや、おれは単に恐れているだけかも知れない。呪いの話をしたら、どんな顔をするのだろうか、皆が離れてしまうのではないだろうか。そう思ってしまう。
だが北の極地と同じく、呪いとの戦いとなれば命のやり取りになるはずで、それを彼らに伝えないのは騙し討ちの様なものだ。
風馬はおれの不安な想いも連れたまま、風を切るように走る。
そして前方に、砂煙る都クヌワラートが姿を現した。
すぐ背後には多足の魔物の群れが迫って来ている。
「スワビ、一番でかい蜘蛛に地幕の矢を!」
「任せてぇ!」
スワビは風馬の上で振り向き、土の魔術のかかった矢を放つ。光を纏った矢が魔物の手前の荒地に刺さり、土壁を生成する。
速度を上げていた巨大蜘蛛はそのまま土壁にぶつかり衝撃で動きを止める。
残った小さな土蜘蛛が3体、速度を落とさずに迫ってくる。
小さいとはいえ人の大きさほどはあるので、追いつかれたら風馬に噛みついて動きを止められてしまうだろう。
「パナタは左の蜘蛛、モアーニは真ん中の蜘蛛を狙え!」
2人は頷き、球状の魔道具を取り出す。
おれの指笛を合図に、魔道具を後ろへ放り投げる。魔道具は荒地で跳ねた瞬間、炎を上げて爆発した。
巻き込まれた2体の魔物が、残った脚をその場でばたつかせる。大きく抉られたその身から魔導珠がこぼれ落ちる。
残った無傷の1体は、なおもこちらに向かい進んで来る。
おれは長剣を構え、風馬から後ろへ飛ぶ。身体を回転させながら、土蜘蛛の口のすぐ右側に剣を突き立てる。そのまま荒地に、受け身をとりながら転がり落ちる。
剣が突き刺さった土蜘蛛は、しばらくその場で脚を動かし、黒い砂となり崩れ落ちた。
遅れて巨大蜘蛛がこちらに向かってくるのが見える。
「僕がやるよ!」
パナタはそう言って、宙に両手で黄土色の魔法陣を描く。
巨大蜘蛛の脚元から尖った石がせり出し、魔物を数十本の針石で串刺しにする。
どれかが魔導珠に当たったのか、巨大蜘蛛は生気を失い、表面からひび割れて荒地へぼたぼたと落ちていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「だんだん魔物が増えてきたな」
モアーニが肩をすくめて言う。口を開くと砂が入ってくるので、おれは渋い表情で頷く。
おれ達はまたそれぞれの風馬に跨り、砂混じりで乾いた風の吹き荒ぶ荒地を進んで行く。
幾月か前に王都に戻った時、スワビは怪物に破壊された城下街の修復に携わった功績で、家を与えられていた。
しばらくスワビの家に泊まっていたが、おれが今度は東へ行くと伝えると、さっさと家を売り旅の資金にしてしまった。
「やっぱり旅だよ。旅ぃ!」
彼は、ひと所には居られないたちらしい。
パナタは研究所で薬草の栽培をしていた。旅商人から、東の国に薬草よりも再生の効果の強い鉱物があると聞き、旅の途中だった。王都に寄ったところで、ばったりおれ達と出くわした。傭兵を雇っていたものの、それほど役に立たないのに、お金がめっぽうかかるらしく、おれ達に合流した。傭兵には渋られたらしい。
モアーニはいつの間にかおれ達の後ろから付いて来ていた。特に何を言うでもなく、天幕を張って焚火に当たっていたところ、どこかの名産という干した魚をおれ達に寄越した。それはとても美味しく、特にスワビがそれを気に入った。もっとくれ、もっとくれと、彼に取り憑いていた。
おれ達4人は王都から東に向かい、数十夜を経て、平原を越え荒地に到達した。
荒地の手前の大きな街で、人の歩く速さでは魔物の多い荒地を越えられないと聞き、風馬を買った。風馬は脚に風の力を纏っており、1日で人の何十日分もの距離を進むことができる。翼を持つが、高い所から落ちる時に滑空できるだけで、空を飛ぶことはできないらしい。
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だが、おれはまだ彼らに、砂漠にあるはずの呪いの話はしていない。
パナタとは、少し呪いの話をしたことがある。おれ自身の呪いのことは言えなかったし、それは今も変わらない。
砂漠に着く前には、どこかで話そうと思っていた。
スワビの明るさに引きずられてなんとなく、ここまで暗い話ができなかった。いや、おれは単に恐れているだけかも知れない。呪いの話をしたら、どんな顔をするのだろうか、皆が離れてしまうのではないだろうか。そう思ってしまう。
だが北の極地と同じく、呪いとの戦いとなれば命のやり取りになるはずで、それを彼らに伝えないのは騙し討ちの様なものだ。
風馬はおれの不安な想いも連れたまま、風を切るように走る。
そして前方に、砂煙る都クヌワラートが姿を現した。
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