上 下
27 / 55
第2章 光と闇

第27話 砂漠の都

しおりを挟む
 渇き切った土がひび割れ、干涸ひからびた低木の点在する荒地で、おれ達は4頭の風馬ペガサスせる。
 すぐ背後には多足の魔物の群れが迫って来ている。

「スワビ、一番でかい蜘蛛に地幕ちまくの矢を!」
「任せてぇ!」

 スワビは風馬ペガサスの上で振り向き、土の魔術のかかった矢を放つ。光をまとった矢が魔物の手前の荒地に刺さり、土壁つちかべを生成する。
 速度を上げていた巨大蜘蛛ビッグスパイダーはそのまま土壁にぶつかり衝撃で動きを止める。
 残った小さな土蜘蛛スパイダーが3体、速度を落とさずに迫ってくる。
 小さいとはいえ人の大きさほどはあるので、追いつかれたら風馬ペガサスに噛みついて動きを止められてしまうだろう。

「パナタは左の蜘蛛、モアーニは真ん中の蜘蛛を狙え!」

 2人はうなずき、球状の魔道具まどうぐを取り出す。
 おれの指笛を合図に、魔道具を後ろへ放り投げる。魔道具は荒地で跳ねた瞬間、炎を上げて爆発した。

 巻き込まれた2体の魔物が、残った脚をその場でばたつかせる。大きくえぐられたその身から魔導珠まどうじゅがこぼれ落ちる。
 残った無傷の1体は、なおもこちらに向かい進んで来る。

 おれは長剣ロングソードを構え、風馬ペガサスから後ろへ飛ぶ。身体を回転させながら、土蜘蛛スパイダーの口のすぐ右側に剣を突き立てる。そのまま荒地に、受け身をとりながら転がり落ちる。
 剣が突き刺さった土蜘蛛スパイダーは、しばらくその場で脚を動かし、黒い砂となり崩れ落ちた。

 遅れて巨大蜘蛛ビッグスパイダーがこちらに向かってくるのが見える。

「僕がやるよ!」

 パナタはそう言って、宙に両手で黄土おうど色の魔法陣を描く。
 巨大蜘蛛ビッグスパイダーの脚元から尖った石がせり出し、魔物を数十本の針石で串刺しにする。
 どれかが魔導珠に当たったのか、巨大蜘蛛ビッグスパイダーは生気を失い、表面からひび割れて荒地へぼたぼたと落ちていった。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「だんだん魔物が増えてきたな」

 モアーニが肩をすくめて言う。口を開くと砂が入ってくるので、おれは渋い表情でうなずく。
 おれ達はまたそれぞれの風馬ペガサスまたがり、砂混じりで乾いた風の吹き荒ぶ荒地を進んで行く。

 幾月か前に王都に戻った時、スワビは怪物に破壊された城下街の修復に携わった功績で、家を与えられていた。
 しばらくスワビの家に泊まっていたが、おれが今度は東へ行くと伝えると、さっさと家を売り旅の資金にしてしまった。

「やっぱり旅だよ。旅ぃ!」

 彼は、ひと所には居られないたちらしい。

 パナタは研究所で薬草の栽培をしていた。旅商人から、東の国に薬草よりも再生の効果の強い鉱物があると聞き、旅の途中だった。王都に寄ったところで、ばったりおれ達と出くわした。傭兵を雇っていたものの、それほど役に立たないのに、お金がめっぽうかかるらしく、おれ達に合流した。傭兵には渋られたらしい。

 モアーニはいつの間にかおれ達の後ろから付いて来ていた。特に何を言うでもなく、天幕を張って焚火に当たっていたところ、どこかの名産という干した魚をおれ達に寄越した。それはとても美味しく、特にスワビがそれを気に入った。もっとくれ、もっとくれと、彼に取りいていた。

 おれ達4人は王都から東に向かい、数十夜を経て、平原を越え荒地に到達した。

 荒地の手前の大きな街で、人の歩く速さでは魔物の多い荒地を越えられないと聞き、風馬ペガサスを買った。風馬ペガサスは脚に風の力をまとっており、1日で人の何十日分もの距離を進むことができる。翼を持つが、高い所から落ちる時に滑空できるだけで、空を飛ぶことはできないらしい。

 移動の手段と食糧を準備して、おれ達は荒地ヘと踏み出し、何度かの魔物の襲撃を受けながらも進んでいる。

 だが、おれはまだ彼らに、砂漠にあるはずの呪いの話はしていない。
 パナタとは、少し呪いの話をしたことがある。おれ自身の呪いのことは言えなかったし、それは今も変わらない。

 砂漠に着く前には、どこかで話そうと思っていた。
 スワビの明るさに引きずられてなんとなく、ここまで暗い話ができなかった。いや、おれは単に恐れているだけかも知れない。呪いの話をしたら、どんな顔をするのだろうか、皆が離れてしまうのではないだろうか。そう思ってしまう。
 だが北の極地と同じく、呪いとの戦いとなれば命のやり取りになるはずで、それを彼らに伝えないのは騙し討ちの様なものだ。

 風馬ペガサスはおれの不安な想いも連れたまま、風を切るように走る。
 そして前方に、砂煙すなけむる都クヌワラートが姿を現した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛情のない夫婦生活でしたので離婚も仕方ない。

ララ
恋愛
愛情のない夫婦生活でした。 お互いの感情を偽り、抱き合う日々。 しかし、ある日夫は突然に消えて……

わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますの。

みこと。
恋愛
義妹レジーナの策略によって顔に大火傷を負い、王太子との婚約が成らなかったクリスティナの元に、一匹の黒ヘビが訪れる。 「オレと契約したら、アンタの姿を元に戻してやる。その代わり、アンタの魂はオレのものだ」 クリスティナはヘビの言葉に頷いた。 いま、王太子の婚約相手は義妹のレジーナ。しかしクリスティナには、どうしても王太子妃になりたい理由があった。 ヘビとの契約で肌が治ったクリスティナは、義妹の婚約相手を誘惑するため、完璧に装いを整えて夜会に乗り込む。 「わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますわ!!」 クリスティナの思惑は成功するのか。凡愚と噂の王太子は、一体誰に味方するのか。レジーナの罪は裁かれるのか。 そしてクリスティナの魂は、どうなるの? 全7話完結、ちょっぴりダークなファンタジーをお楽しみください。 ※同タイトルを他サイトにも掲載しています。

静寂の境界線

にざわ えな
ミステリー
逃げなければならない、でも逃げ場はない。ひたすら砂漠を歩き続ける少女の物語。

『今日も世界で誰かが嘘をついている。超キモい編』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
監督としても、人としても尊敬から始まった恋でした。

無能すぎて異世界転生すらさせてもらえませんでした

杜宮波瑠璃
ファンタジー
とくかくなにやってもダメダメ無能クソ陰キャの俺は、ある日ビルの屋上から飛び降りようとした少女を目撃する。らしからぬ雑魚正義感が勝手に背中を押しやがって俺は気付けばその少女を助けようと駆けつける。しかし貧弱な俺は助けるどころか自分がビルの屋上から転落ーーー。 気付けばどうやら異世界転生の入り口にやってきた。ついに俺にも異世界転生が!?と、思ってみたら現れた女神らしき女の口から出た言葉は「あんたみたいな無能クソ陰キャが簡単に異世界転生できると思うなよカス」だった。 え?今から入れる保険ってあります?

いつまでも忘れない思い出

夜白にこ
青春
難病を持ってる少女は 病院以外の外には出られなかった。 そんな少女の隣のベットに 入院してきた少女がいた。 その子はすごく明るくて面白い子だった。 その少女は数日しかいなかったけど 私に新しい景色を見せてくれる子だった。 その少女は自分が退院しても よく遊びに来てくれてた。 私の病気は難病だから高校までしか 生きれなかったけど少女のおかげで 生きれるとこまで生きようと思える物語 *登場人物* 難病の少女 ほのか 入院してきた少女 こはる 看護師さん

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

フリーターは少女とともに

マグローK
キャラ文芸
フリーターが少女を自らの祖父のもとまで届ける話 この作品は カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/1177354054891574028)、 小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4627fu/)、 pixiv(https://www.pixiv.net/novel/series/1194036)にも掲載しています。

処理中です...