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第1章 血宵の戦士
第23話 血宵の戦士
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黒いもやを振り払うように扉を押し開ける。その先にある部屋の闇を引き裂くように、うっすらと夜光が扇状に伸びていく。
扉を開けきると、全貌が稲光によって照らし出された。破れた絨毯が伸びる先に、朽ち果てた王座が一つ。そこに、人の形をした骸骨が鎮座している。それは、大剣を抱え傾いたまま動かない。
天井や壁には黒いもやがかかり、周りの光を吸い込んでいる。
足を前に出そうとした時、骸骨から音が発せられた。
「遅いじゃないか」
おれはその言葉を以前聞いた気がした。
「おれはルキ、呪いの宿命を断ち切るために来た」
「お前はそんな名前じゃないだろう。俺はお前のことを知っている」
骸骨の顎が縦に揺れ、笑い声が頭に響いてくる。
「昔の名前を言えよ。約束を果たすために来たんだろう」
「まずは人の子として、出来るだけのことをしてみるさ!」
おれは長剣を構えながら走り出し、一気に骸骨との間合いを詰める。
素早い動きで奴は大剣を振り上げ、おれの剣を上に弾く。
球状の魔道具を骸骨の胸の辺りに投げつけておれは後ろに飛び退る。
ウォトリスが指を鳴らすと、魔道具は共鳴し爆発する。
爆風を受けてそのまま床を転がった後、おれは骸骨の様子を見る。四散する煙の奥から、影がゆらりと現れる。
「効かないのかよ……」
ウォトリスが悔しそうに呟く。
立ち上がった骸骨はまた、顎を揺らして笑う。
「俺の身体は今や呪いそのものだ。人の子の造りし物では干渉できんよ」
骸骨が大剣を一振りすると、煙は闇に溶けていった。
「そろそろ起こすか」
そう言うと奴は、城の全てに響くほどの大きな咆哮をあげる。
リリシアが扉の向こうを見て声を出す。
「魔物が動いてる!」
魔導珠にもう一度、奴が力を吹き込んだのか。それとも本当に魔物は眠っていただけだったのか。
「どうするルキ。無敵の骸骨と、すごい数の魔物だぞ」
ウォトリスが狼狽えながら震え声で言う。
例え奴を倒せたとしても、何十もの魔物を相手にして城から出るのは無理だろう。
迷っている時間も無くなった。もはや、人の子として奴と戦うことはできない様だ。
ならば。
「リリシア、扉を閉めて凍らせてくれ!」
「分かった!」
リリシアとウォトリスが扉を閉めにかかる。
「させるかよ!」
叫んで、骸骨が大剣を振り上げながらリリシアに向かって跳ぶ。
おれは奴の行く手を遮るように長剣を振り投げる。
骸骨の肩に長剣が当たり、わずかに体勢が崩れた。
振り抜かれた大剣をすれすれで躱し、リリシアは後退りながら、宙に素早く両手で魔法陣を描く。
骸骨が体勢を立て直し、もう一度、大剣を振り下ろそうとした時、紅蓮の炎が奴の腕の骨に絡みついた。
「邪魔だ!」
骸骨が逆の腕を振り抜くと、肩から外れた骨がウォトリスに向かって飛んだ。
避けるために彼の集中が切れて、骸骨に纏わりついていた炎は霧散する。
リリシアが氷の魔術を解き放つ。閉めた扉と周りの石壁は凍りつき、さらに床から天井まで氷柱が伸びた。少しの間は魔物の侵入を防ぐ楯となってくれるはず。
おれは長剣を拾いながら、彼女に忠告する。
「リリシア、この戦いが終わった時、おれがおれでなくなったら構わず逃げてくれ」
彼女とウォトリスを見廻し、おれはもう一度、骸骨と対峙する。
「人の子達よ、そして呪いよ聴け! 我が名は血宵の戦士、キヴリ!」
おれの身体の内側から闇が広がり、両腕は膨れ上がり鋼のような光沢を帯びる。
目から鮮血が噴き出し、おれの視界は狂ったような紅色に染まった。
扉を開けきると、全貌が稲光によって照らし出された。破れた絨毯が伸びる先に、朽ち果てた王座が一つ。そこに、人の形をした骸骨が鎮座している。それは、大剣を抱え傾いたまま動かない。
天井や壁には黒いもやがかかり、周りの光を吸い込んでいる。
足を前に出そうとした時、骸骨から音が発せられた。
「遅いじゃないか」
おれはその言葉を以前聞いた気がした。
「おれはルキ、呪いの宿命を断ち切るために来た」
「お前はそんな名前じゃないだろう。俺はお前のことを知っている」
骸骨の顎が縦に揺れ、笑い声が頭に響いてくる。
「昔の名前を言えよ。約束を果たすために来たんだろう」
「まずは人の子として、出来るだけのことをしてみるさ!」
おれは長剣を構えながら走り出し、一気に骸骨との間合いを詰める。
素早い動きで奴は大剣を振り上げ、おれの剣を上に弾く。
球状の魔道具を骸骨の胸の辺りに投げつけておれは後ろに飛び退る。
ウォトリスが指を鳴らすと、魔道具は共鳴し爆発する。
爆風を受けてそのまま床を転がった後、おれは骸骨の様子を見る。四散する煙の奥から、影がゆらりと現れる。
「効かないのかよ……」
ウォトリスが悔しそうに呟く。
立ち上がった骸骨はまた、顎を揺らして笑う。
「俺の身体は今や呪いそのものだ。人の子の造りし物では干渉できんよ」
骸骨が大剣を一振りすると、煙は闇に溶けていった。
「そろそろ起こすか」
そう言うと奴は、城の全てに響くほどの大きな咆哮をあげる。
リリシアが扉の向こうを見て声を出す。
「魔物が動いてる!」
魔導珠にもう一度、奴が力を吹き込んだのか。それとも本当に魔物は眠っていただけだったのか。
「どうするルキ。無敵の骸骨と、すごい数の魔物だぞ」
ウォトリスが狼狽えながら震え声で言う。
例え奴を倒せたとしても、何十もの魔物を相手にして城から出るのは無理だろう。
迷っている時間も無くなった。もはや、人の子として奴と戦うことはできない様だ。
ならば。
「リリシア、扉を閉めて凍らせてくれ!」
「分かった!」
リリシアとウォトリスが扉を閉めにかかる。
「させるかよ!」
叫んで、骸骨が大剣を振り上げながらリリシアに向かって跳ぶ。
おれは奴の行く手を遮るように長剣を振り投げる。
骸骨の肩に長剣が当たり、わずかに体勢が崩れた。
振り抜かれた大剣をすれすれで躱し、リリシアは後退りながら、宙に素早く両手で魔法陣を描く。
骸骨が体勢を立て直し、もう一度、大剣を振り下ろそうとした時、紅蓮の炎が奴の腕の骨に絡みついた。
「邪魔だ!」
骸骨が逆の腕を振り抜くと、肩から外れた骨がウォトリスに向かって飛んだ。
避けるために彼の集中が切れて、骸骨に纏わりついていた炎は霧散する。
リリシアが氷の魔術を解き放つ。閉めた扉と周りの石壁は凍りつき、さらに床から天井まで氷柱が伸びた。少しの間は魔物の侵入を防ぐ楯となってくれるはず。
おれは長剣を拾いながら、彼女に忠告する。
「リリシア、この戦いが終わった時、おれがおれでなくなったら構わず逃げてくれ」
彼女とウォトリスを見廻し、おれはもう一度、骸骨と対峙する。
「人の子達よ、そして呪いよ聴け! 我が名は血宵の戦士、キヴリ!」
おれの身体の内側から闇が広がり、両腕は膨れ上がり鋼のような光沢を帯びる。
目から鮮血が噴き出し、おれの視界は狂ったような紅色に染まった。
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