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第1章 血宵の戦士
第21話 暁の夢
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嵐の如く雪が踊り舞い、息をも凍らす冷気の中、分厚い雲に突き刺さるように聳える古城を目指す。
ウォトリスが火の精霊に最大の支援を求め、周りには暖かく紅い光が渦を巻いており、おれ達は氷上をさほど苦労せずに歩いて行く。
洞窟を抜けてからどのくらい歩いただろうか。分厚い鈍色の雲がずっと空にはり付いているせいで、何夜を越えたのか分からないが、休憩する場所も無くただ山を登り続けている。
「ウォトリス、この氷の壁を溶かして休めないかな」
リリシアが窪地になっている場所を指差して言う。
ウォトリスは軽く頷き、火の魔術で覆いかぶさっている氷壁を少し溶かし、風を遮って休めそうな隙間を作り出した。
天幕を敷いて、久しぶりに身体を横たえ、目を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おれは屍体が散らばる中、何者かを抱きかかえ、泣き叫んでいる。
腕の中のそれは、いたるところから血が滴り落ち、温もりを失っていく。
背後から放たれた刃が、おれの腹を貫く。
おれは振り向きながら剣を走らせ、敵の首上を吹き飛ばした。
血が噴き出し、相手の身体は崩れ落ちる。
目前には炎が広がり、見えるもの全てが狂ったように紅く染まっている。
おれは何の為に戦っているのだろう。
おれは誰の為に泣いているのだろう。
おれは何者なんだろう。
「ルキ!」
身体を揺すられて目が覚めた。
目の前に心配そうな表情のリリシアがいる。
「酷くうなされてたのよ」
おれは身体を起こし、水袋の中に少し残る水を飲み干した。
「嫌な夢を、見せられていたみたいだ」
おれがそう言うと、ウォトリスも身体を起こす。
「僕は氷漬けになる夢を見たぜ」
そう言って微かに笑う。
ウォトリスの火の魔術で防寒具を乾かし、しばらく休んでいた精霊をもう一度呼び出して、山登りを再開した。山頂に近付くにつれ強くなる吹雪を火の精霊が遮ってくれている。
おれ達は無言で歩き続け、疲れ果て歩みは遅くなりながらも歩き続けて、ようやく灰色の城門に辿り着いた。門は素材が何だったのか知り得ないほどに朽ち果てて倒れている。不思議と城門もその先の城も雪に覆われてはおらず、まるでそこだけ違う気候にあるかの様にはっきりとその全貌が見える。
そして、城の最上階には、黒いもやが蠢いている。
おれは城門を通らず、城の横側に回り込む。崩れた城壁の間から城の中を見渡すと、頭の無い鎧が2体、徘徊している。
「首無しが用心棒だなんて、悪趣味ね」
リリシアが舌打ちする。
首無しは魔導珠を鎧の中に隠しているはずだ。
おれ達からかなり離れていて、まだこちらに気付いている様子はない。
2体を同時に倒す方法、おれは考えを巡らせる。
確か首無しは目が見えない代わりに、音や熱で敵の位置を知るはず。妙案が浮かんだが、それで戦いを始めたらもう、城の中を駆け登っていくしかないだろう。
「ウォトリス、リリシア、ここまで一緒に来てくれたことに感謝する」
2人は目を大きく開いておれを見る。
おれは、作戦を伝えた。
魔物に気付かれないように静かにそれぞれの持ち場へ散らばり、瓦礫に身を潜める。
できるだけ2体が離れるのを待つ。
時が来た。おれは2人に向けて大きく手を振る。
たくさんの紅い光と蒼い光が同時に城の中に飛び込み、首無しの上で交錯する。
大きな破裂音が響き渡り、濃い霧が辺りを包み込む。
おれは長剣を構えたまま、強く床を蹴り、首無しに向かい走り出した。
ウォトリスが火の精霊に最大の支援を求め、周りには暖かく紅い光が渦を巻いており、おれ達は氷上をさほど苦労せずに歩いて行く。
洞窟を抜けてからどのくらい歩いただろうか。分厚い鈍色の雲がずっと空にはり付いているせいで、何夜を越えたのか分からないが、休憩する場所も無くただ山を登り続けている。
「ウォトリス、この氷の壁を溶かして休めないかな」
リリシアが窪地になっている場所を指差して言う。
ウォトリスは軽く頷き、火の魔術で覆いかぶさっている氷壁を少し溶かし、風を遮って休めそうな隙間を作り出した。
天幕を敷いて、久しぶりに身体を横たえ、目を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
おれは屍体が散らばる中、何者かを抱きかかえ、泣き叫んでいる。
腕の中のそれは、いたるところから血が滴り落ち、温もりを失っていく。
背後から放たれた刃が、おれの腹を貫く。
おれは振り向きながら剣を走らせ、敵の首上を吹き飛ばした。
血が噴き出し、相手の身体は崩れ落ちる。
目前には炎が広がり、見えるもの全てが狂ったように紅く染まっている。
おれは何の為に戦っているのだろう。
おれは誰の為に泣いているのだろう。
おれは何者なんだろう。
「ルキ!」
身体を揺すられて目が覚めた。
目の前に心配そうな表情のリリシアがいる。
「酷くうなされてたのよ」
おれは身体を起こし、水袋の中に少し残る水を飲み干した。
「嫌な夢を、見せられていたみたいだ」
おれがそう言うと、ウォトリスも身体を起こす。
「僕は氷漬けになる夢を見たぜ」
そう言って微かに笑う。
ウォトリスの火の魔術で防寒具を乾かし、しばらく休んでいた精霊をもう一度呼び出して、山登りを再開した。山頂に近付くにつれ強くなる吹雪を火の精霊が遮ってくれている。
おれ達は無言で歩き続け、疲れ果て歩みは遅くなりながらも歩き続けて、ようやく灰色の城門に辿り着いた。門は素材が何だったのか知り得ないほどに朽ち果てて倒れている。不思議と城門もその先の城も雪に覆われてはおらず、まるでそこだけ違う気候にあるかの様にはっきりとその全貌が見える。
そして、城の最上階には、黒いもやが蠢いている。
おれは城門を通らず、城の横側に回り込む。崩れた城壁の間から城の中を見渡すと、頭の無い鎧が2体、徘徊している。
「首無しが用心棒だなんて、悪趣味ね」
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首無しは魔導珠を鎧の中に隠しているはずだ。
おれ達からかなり離れていて、まだこちらに気付いている様子はない。
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