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第1章 血宵の戦士
第18話 北の山脈
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激しい吹雪の中、おれ達は廃屋に逃げ込んだ。
今にも潰れそうな鈍い音を立て、木造の小屋が揺れている。隙間風と横から入り込んできた雪が身体の熱を奪い続ける。
荷物を床土に置き、ウォトリスが落ちていた木の枝を使い、土を抉るように小さな魔法陣を描く。彼は目を閉じ、火の精霊との交渉を始める。うっすらと紅い光が小屋の中を飛び交う。
魔法陣の描かれていた場所に炎が灯り、おれの身体に熱が戻っていく。震え倒れていたリリシアは、頬に赤みを取り戻し、ゆっくりと起き上がった。
「さすがに死ぬかと思ったわ」
「この小屋が見つからなかったら、今頃はおれ達、氷漬けになっていたな」
何日かぶりに言葉を交わした気がする。
火の魔術の炎を安定させたウォトリスが、ほっとした様に笑顔を見せる。
「おいおい。僕がいなかったら、この小屋の中で氷漬けだぞ」
本当に彼を連れてきて良かった。
おれ達は火種のない不思議な炎で干し肉を軽く焼き、何日かぶりの食事をとった。何十日も前に王都を出たが、北の極地までは、あと幾つ山を越えるのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都で旅の準備をした後、定住しそうな勢いのスワビには、少し旅に出るとだけ告げた。剣の修行に付き合ってくれたダルドにも、旅に出る直前に挨拶をした。もう会えないかも知れないと思い、彼等に祝福の腕輪を贈った。スワビは単純に喜んでいたが、ダルドは真剣な面持ちで旅の安全を祈ってくれた。
リリシアは王都に着いてすぐにどこかへ幾日か姿を消した後、旅の荷物を持って戻ってきた。
王都の東にある村で予定通りウォトリスと落ち合い、3人は北へと歩き始めた。北へ向かう行商人はおらず、途中行きずりの旅商人の荷馬車に半日ほど揺られた以外は、ずっと歩いている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小屋全体に火の精霊の加護の力が及んでいるらしく、隙間風や雪の侵入は止まった。吹雪がいつやむか分からないので、少なくとも体力が回復するまではここに居ようということになった。
「この古い地図によると、昔は、この山を下りた所に集落があったらしい」
旅に出る前にウォトリスは、住処の地下で古い地図を見つけていた。地図はところどころ破れかけていて、古い皮革に耐久性のあるインクで大陸の北の地域についても細かく描かれている。今は、王都と北の極地ゴルンカダルの真ん中あたりを進んでいることになり、下山した先には集落か小さな町があるとされている。
「もう食糧は残り少ないし、そこに町が無ければ、凍った川の下に潜って魚でも獲ろうかしら」
引き攣るような笑顔でリリシアが呟く。
ウォトリスが眠っている間も、仲良くなった火の精霊が見張りを務めてくれるそうで、おれ達は床に天幕を敷いて気絶するように眠りに落ちた。
それからふたつの夜が過ぎた朝方に、雲が割れて隙間から柔らかい陽射しが見えるようになった。
小屋から出たおれ達は、新雪を掻き分けるようにして山を下り始めた。棒状の魔道具を使い、進む方向の雪を腰の高さまで溶かして、無理矢理に足を前に投げ出して進んで行く。
陽が出ている内に進めるだけ移動し、途中で見つけた洞穴で風と寒さを凌いで夜を明かした。
次の夜の帳が下りる刻、ようやく下山することができた。木々が点在する平原の川辺に天幕を張り、また一夜明かし、朝方から北へ向かい歩き続けると、やがて遠方に小さな集落が見えた。
おれ達は誰が号令するでもなく、自然と歩調を早めていた。
今にも潰れそうな鈍い音を立て、木造の小屋が揺れている。隙間風と横から入り込んできた雪が身体の熱を奪い続ける。
荷物を床土に置き、ウォトリスが落ちていた木の枝を使い、土を抉るように小さな魔法陣を描く。彼は目を閉じ、火の精霊との交渉を始める。うっすらと紅い光が小屋の中を飛び交う。
魔法陣の描かれていた場所に炎が灯り、おれの身体に熱が戻っていく。震え倒れていたリリシアは、頬に赤みを取り戻し、ゆっくりと起き上がった。
「さすがに死ぬかと思ったわ」
「この小屋が見つからなかったら、今頃はおれ達、氷漬けになっていたな」
何日かぶりに言葉を交わした気がする。
火の魔術の炎を安定させたウォトリスが、ほっとした様に笑顔を見せる。
「おいおい。僕がいなかったら、この小屋の中で氷漬けだぞ」
本当に彼を連れてきて良かった。
おれ達は火種のない不思議な炎で干し肉を軽く焼き、何日かぶりの食事をとった。何十日も前に王都を出たが、北の極地までは、あと幾つ山を越えるのだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王都で旅の準備をした後、定住しそうな勢いのスワビには、少し旅に出るとだけ告げた。剣の修行に付き合ってくれたダルドにも、旅に出る直前に挨拶をした。もう会えないかも知れないと思い、彼等に祝福の腕輪を贈った。スワビは単純に喜んでいたが、ダルドは真剣な面持ちで旅の安全を祈ってくれた。
リリシアは王都に着いてすぐにどこかへ幾日か姿を消した後、旅の荷物を持って戻ってきた。
王都の東にある村で予定通りウォトリスと落ち合い、3人は北へと歩き始めた。北へ向かう行商人はおらず、途中行きずりの旅商人の荷馬車に半日ほど揺られた以外は、ずっと歩いている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小屋全体に火の精霊の加護の力が及んでいるらしく、隙間風や雪の侵入は止まった。吹雪がいつやむか分からないので、少なくとも体力が回復するまではここに居ようということになった。
「この古い地図によると、昔は、この山を下りた所に集落があったらしい」
旅に出る前にウォトリスは、住処の地下で古い地図を見つけていた。地図はところどころ破れかけていて、古い皮革に耐久性のあるインクで大陸の北の地域についても細かく描かれている。今は、王都と北の極地ゴルンカダルの真ん中あたりを進んでいることになり、下山した先には集落か小さな町があるとされている。
「もう食糧は残り少ないし、そこに町が無ければ、凍った川の下に潜って魚でも獲ろうかしら」
引き攣るような笑顔でリリシアが呟く。
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陽が出ている内に進めるだけ移動し、途中で見つけた洞穴で風と寒さを凌いで夜を明かした。
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