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第1章 血宵の戦士
第15話 火と水
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リリシアはおれのパンをひと切れ、承諾もなく奪い取って口に入れた。しばらく咀嚼して味わった後、おれのスープを横取りして噛み砕いたパンと一緒に喉へと流し込んだ。
「久しぶりにまともなものを食べたわ」
満足そうに頷きながら彼女は言う。そういえば、前に助けられた時よりも、顔がやつれている様に見える。
彼女がおれの事をどれだけ知っているか分からない以上、あまり詳しい話はしたくない。
「随分と服が汚れてるじゃないか」
「そうね、しばらく面倒臭い旅をしていたら、身も心も汚れてしまったわね」
彼女は自虐的な笑みを浮かべ、机に肘をついて街の様子を眺めだした。
「スワビは役職をもらったぞ」
「スワ……ああ、あの子ね、別にどうでもいい」
リリシアは街を眺めたまま、つまらなさそうに言い放つ。
またおれの顔を見据え、今度は真剣な眼差しで問う。
「風の噂で聞いたんだけど、北に向かおうとしている冒険者ってのはあなたね」
「そうだが、君には関係ないだろう」
「あるわよ、私も古の呪いについて調べてるんだから」
やはり彼女はおれに宿るものを知っている。
「なら知っているだろうが、おれは何も話せないぞ」
「分かってる。あなたを困らせたいわけじゃない。私にも大事な使命があるのよ」
そう言うと、残っていたパンのひと切れをつまみ、彼女は口に含んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リリシアが湯浴び場に行きたいと言うので、代金はおれが払った。
修復のため鍛冶屋に預けてあった長剣を引き取り、戻ってくると湯浴び場の前で彼女が待ちぼうけていた。
「さて、旅の汚れを落としたところで、火の魔道士を探しますか」
「集会所では、北へ向かう者はいないと言われたが」
「そりゃ、北に行く物好きはあなたくらいよ。ブラブラしてる暇人をたぶらかすのよ」
たぶらかされるような人材を連れて行っても役に立たないのではと考えたが、彼女には何か狙いがありそうなので、ひとまず任せることにした。
「君は火属性の魔術を使えないんだな」
「水の魔術に傾倒したからね、精霊が火を嫌がるのよ。おかげで水の上級魔術は使えるけど」
魔術を使うには、精霊との契約が必要だ。パナタのように複数の下級精霊と契約する場合もあるが、彼女は上級の水精霊と契約したが故に、真逆の属性である火からは遠ざかったということらしい。
冒険者の集会所へ入り、彼女は魔道士達に声をかけていく。
4、5人と話した後、こちらへ戻ってくると怒り顔になっていた。
「王都の復興で随分といい賃金がもらえるから、皆ここを出ようと思わないらしいわ、何が冒険者よ!」
何か特別な力でも使って誘惑するのかと思っていたが、普通に説得するつもりだったらしい。
「散々おれも話をしたからな、ここにいる奴らは北へは行かないよ」
「なら王都は諦めて、フォリアートで探すしかないわね」
フォリアートは王都の南、山を3つ超えた先にある小規模な街だ。
王都を襲った怪物はフォリアートから来たという噂がある。
「最近、王都からフォリアートへ調査に向かった団があると聞いたな」
「事件のこと? なら私はどうでもいい。フォリアートには優秀な魔道士がたくさんいるらしいから、王都で調達できないならそっちに期待するしかないじゃない」
おれもこのまま王都で燻っているわけにはいかないので、彼女の言う通り、フォリアートへ向かうことにした。
ただ、もし北の極地ゴルンカダルへ行けるようになったとして、このまま彼女も同行させるべきかどうか、おれは決めかねている。これ以上関われば、彼女も連綿と続くこの宿命に取り込まれてしまうかもしれない。
自分の手にこびりついた数多の血の匂い、真紅の炎でたくさんの命を焼き尽くした記憶。
古の空を覆い、すべての光を遮っていた分厚い雲を思い出す。
おれは、あの時の約束を果たすことができるのだろうか。
「久しぶりにまともなものを食べたわ」
満足そうに頷きながら彼女は言う。そういえば、前に助けられた時よりも、顔がやつれている様に見える。
彼女がおれの事をどれだけ知っているか分からない以上、あまり詳しい話はしたくない。
「随分と服が汚れてるじゃないか」
「そうね、しばらく面倒臭い旅をしていたら、身も心も汚れてしまったわね」
彼女は自虐的な笑みを浮かべ、机に肘をついて街の様子を眺めだした。
「スワビは役職をもらったぞ」
「スワ……ああ、あの子ね、別にどうでもいい」
リリシアは街を眺めたまま、つまらなさそうに言い放つ。
またおれの顔を見据え、今度は真剣な眼差しで問う。
「風の噂で聞いたんだけど、北に向かおうとしている冒険者ってのはあなたね」
「そうだが、君には関係ないだろう」
「あるわよ、私も古の呪いについて調べてるんだから」
やはり彼女はおれに宿るものを知っている。
「なら知っているだろうが、おれは何も話せないぞ」
「分かってる。あなたを困らせたいわけじゃない。私にも大事な使命があるのよ」
そう言うと、残っていたパンのひと切れをつまみ、彼女は口に含んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リリシアが湯浴び場に行きたいと言うので、代金はおれが払った。
修復のため鍛冶屋に預けてあった長剣を引き取り、戻ってくると湯浴び場の前で彼女が待ちぼうけていた。
「さて、旅の汚れを落としたところで、火の魔道士を探しますか」
「集会所では、北へ向かう者はいないと言われたが」
「そりゃ、北に行く物好きはあなたくらいよ。ブラブラしてる暇人をたぶらかすのよ」
たぶらかされるような人材を連れて行っても役に立たないのではと考えたが、彼女には何か狙いがありそうなので、ひとまず任せることにした。
「君は火属性の魔術を使えないんだな」
「水の魔術に傾倒したからね、精霊が火を嫌がるのよ。おかげで水の上級魔術は使えるけど」
魔術を使うには、精霊との契約が必要だ。パナタのように複数の下級精霊と契約する場合もあるが、彼女は上級の水精霊と契約したが故に、真逆の属性である火からは遠ざかったということらしい。
冒険者の集会所へ入り、彼女は魔道士達に声をかけていく。
4、5人と話した後、こちらへ戻ってくると怒り顔になっていた。
「王都の復興で随分といい賃金がもらえるから、皆ここを出ようと思わないらしいわ、何が冒険者よ!」
何か特別な力でも使って誘惑するのかと思っていたが、普通に説得するつもりだったらしい。
「散々おれも話をしたからな、ここにいる奴らは北へは行かないよ」
「なら王都は諦めて、フォリアートで探すしかないわね」
フォリアートは王都の南、山を3つ超えた先にある小規模な街だ。
王都を襲った怪物はフォリアートから来たという噂がある。
「最近、王都からフォリアートへ調査に向かった団があると聞いたな」
「事件のこと? なら私はどうでもいい。フォリアートには優秀な魔道士がたくさんいるらしいから、王都で調達できないならそっちに期待するしかないじゃない」
おれもこのまま王都で燻っているわけにはいかないので、彼女の言う通り、フォリアートへ向かうことにした。
ただ、もし北の極地ゴルンカダルへ行けるようになったとして、このまま彼女も同行させるべきかどうか、おれは決めかねている。これ以上関われば、彼女も連綿と続くこの宿命に取り込まれてしまうかもしれない。
自分の手にこびりついた数多の血の匂い、真紅の炎でたくさんの命を焼き尽くした記憶。
古の空を覆い、すべての光を遮っていた分厚い雲を思い出す。
おれは、あの時の約束を果たすことができるのだろうか。
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